久我天根
撤退していった、海老の機械も蛇の機械も黒い機械も、柳生大隊も、みんなである。
キョウジは待っていた、三谷秀一の到着をである。
先に現れたのはシャオミだった。
よく見ると血が肩についている、それも生々しい。
「ありがとう、トランクケースを守ってくれて、私だけだったら無理だったから。」
本当にあの子供が黒幕なの?とキョウジは確認した。
「あの巨人の中のやつらはみんなそう思っていたようだよ、指示も全部出していたんじゃないか。」
青い髪なんてそもそも自然界にはないから、子供の存在が異質でも不思議ではないか。
今回の事件で異質ではなかったことはあったか。
逆にシャオミはキョウジに問いかけた。
「君ってなんで三谷に協力してるの?」
「ラタトクス工業の倫理違反して殺人をしたら、極刑だから・・」
「引き渡さないことを条件に、ってことかぁ、ふぅん」
何が言いたいのだろうか。
キョウジにはまだわからない。
やっと、三谷秀一が到着した。
久我幻魔のチームは柳生の大隊を追撃しつつ、付近の安全確保をしているらしい。
日創少尉が、三谷秀一に深々と頭を下げている。
「お会いできて光栄であります。自分は日創少尉です。」
「うちの者が世話になったようだ。」
「いえ、助けてもらったのはこちらでした。」
「あなたのような大人というのは子供の目線からすると、必要なんだよ。」
そんなもんかなと日創は考えた。
「日創少尉、上官と話をすることはできるかな?君と色々決めてもいいが、そういう仕事をさせるには少し悪い気がして。」
「私の任務は荷物を届けることでした。だからお気遣いはありがたいです。」
少しだけ。待ってくださいと、日創は上官に連絡をしている。
「上官に変わります。」
「名前は?」
「私からは言えません。」
キョウジとシャオミは少し高い位置から辺りを警戒しながら、やりとりを確認している。
やはり、三谷は結構ちゃんとしてるんだなと、キョウジは思っていた。
「三谷秀一といいます。」
「ああ、よろしく。」
「貴方は?」
「立場上、名乗れないのだ。しかし、ここでの約束はUDAの総意だと思ってもらっていい。」
「何か約束をしたいのですか?」
「そうだ、トランクケースの中身については君に託そう。加えて作戦に日創少尉を加えてくれないか?なんなら転籍させてもよい。」
家に帰ってやっとゆっくりできると思っていた少尉は度肝を抜かれた。
「協力者が増えるのはありがたいです。連合は今回の作戦でかなり戦力を削られました。だから、連合全てではないですが、せめて私はあなた方と協調したい。」
「UDAとかね?」
「ええ、議長殿の態度でわかる通り、もはや我々は戦争をしている場合ではない、連合とUDAと均衡を保った戦争をもうできないのです。この事態を放置するとABC兵器すら使えるようになってくる。」
議長というのは、アレックスフォスター、UDAの実質トップである。
名乗りはしないが、それほどの有名人であれば話のテンポから三谷にはわかるのだ。
「私の正体を知って、協調なんて決めていいのかね、何年我々は争ってきたと?」
「構いません、私が中将から受けた任務は、あらゆる資産を使っても構わないというものでした。実際これほどの事態になるなら、中将が私に与えた裁量も間違いではないのでしょう。」
通信先から笑い声が響く。
「敵までも資産であると、素晴らしい屁理屈だ。それはそれで頼もしいが、君の負担を減らすためにこちらから連合へは連絡入れておくよ。」
「感謝します。」
「君たちの目的は?あと、何か我々でできることは?」
三谷秀一は少し悩んだ。戦争を止めるには、最小限にするのは、ナハトを暗殺すれば止まるのか、いや、ここに黒幕がいるのだ。黒幕を確保しても何も変わらない。であれば。
「私の目的は、イグドラシルへの違法接続の破壊ですから、それのみです。大戦の回避をあなた方にお願いしたい。」
「いいだろう、我々の望みでもある、必要なものがあれば日創少尉から連絡させればいい。彼は非常に優秀で誠実な男だ。」
三谷の次の作戦はナハトを追うことである。
きっとその先に、違法接続の源があるだろう。
そして、現れた柳生の大隊を見ると、次の戦いの舞台は日本であることを予感させた。
日陰博士は違法接続のマシーンが世界に供給されるまで半年と予想していた。
ラタトクス工業は世界のならずものが違法接続を使って武装蜂起することを恐れていた。
三谷の思考は更に進んでいた。連合とUDAという二大組織が違法接続の装置を先に実戦配備する。
ならずものの武装蜂起より前に。
そして、手段を選ばずにならずもの達の駆逐と弾圧をするだろう。
時間の問題だと考えている。
そうなれば更に悲惨なことになる、できるだけ早く準備して、そうならないように違法接続の源を破壊しなくては。
中将が密命で三谷に直接司令を渡したのもこれが狙いなのだろう。
遠くから、日創と三谷の様子を見ていた人物が二人いた。
一人は小さい女の子であった、変わったことに兎の耳がついていた、普通の耳もあった。
耳は表情に合わせて動いているようだ。
「UDAと連合の共同作戦をするのか。」
一人は中年の男であった。名前は久我天根という。
兎の耳を掴んでいる。
「そもそも、長い間戦争をしすぎたんだ、今となったら戦争の理由もわからないかもしれない。」
「久我天根、お前達と私達も長い間戦っているが、お前が和解するとは思えないな。」
バカにした口調である。
久我天根は手に持ったスイッチを押すと、女の子の耳から電流が流れる。わずかな電流ではあるが、頭に直接響いた。
女の子は間抜けな悲鳴をあげている。
「むしろ、我々は続けた方がいいんだよ。しかし、あの女?と三谷秀一がいたら、キョウジを回収するのは至難の業だな。」
「あの子はあそこで戦った方がいいかもね。」
「なんで?」
「師匠が親バカだから、子離れさせないとね。」
無言でスイッチを押して感電させた。
「あいつらは日本に行くみたいだ、俺たちも日本に向かわないとな。日本でキョウジと接触の機会もあるだろう。」
「に、日本?まだ宇宙に戻らないの?」
「日本の食べ物はうまいぞ。」
「・・・それなら早く行きましょう。」
こうして、大連の工業地帯での騒乱は終結した。
何も解決はせず、ただ問題だけが起きて。
今回の騒乱における被害は下記のとおりだった。
連合 マシーン50体、死傷者数170名
UDA マシーン36体、死傷者数90名
民間人の死傷者数 32名
ラタトクス工業死傷者数 約800名(推定数)
その他 傭兵等 未整理
あってはならない損害である。
この事件は大連騒乱、巨人事変、ナハト王の蜂起、様々な呼び方をすることになる。




