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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
巨人事変
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その人の在り方 後編

ルルイエは興奮している。


「はやくエネルギー供給を再開しろ。全員死ぬぞ。」


しかし、ラタトクス工業の重役は認めない。

「バッテリーじゃないのか、エネルギー源が止まっているんだ。動けるはずがない。」


「じゃあ、見てみろ、現場に来て見てみろ。異常な性能だろ。簡単に連合のマシーンも、UDAのマシーンも破壊されている。」


「しかし、止める判断も苦渋の選択なのだ、それをちゃんと確認せずに再開して、何が倫理的なものが。」


ラタトクス工業の重役にはエネルギー供給が他からできている事実を受け入れられないのだ。

ルルイエであってもそうだ、わざわざ宇宙にあんな大きな星まで作って、最新鋭の科学で実現したんだ。

それが知らない間に新しいエネルギー源があったって。


「いいから早く再開してくれ。」


「いいから?適当な判断をするではない、被害が拡大するぞ。」


これはもう無駄であった。判断ができないのだ。

人間の判断の許容を超えていた。



ルルイエの前にも黒いマシーンが迫っていた。

ナハトは被害を最小にしろと伝えたが、ルルイエ達の残存勢力の排除は最小の枠内なのであろう。


宗千佳が本来は守るべきなのである。

宗千佳はマシーンに搭乗している、動きが制限されても生身よりマシである。


エネルギー供給が減らされた動きは鈍かった。

絶望した宗千佳の動きもまた鈍かった。

体が鉛のように重くなって、まるでどこにも自分の意思がなくて、何もしないことが最善のように思えて。


黒いマシーンが赤いチェーンソーでルルイエのトレーラーを破壊しようとした時、

逆に黒いマシーンが破壊される。


それは柳生宗千佳が久我流というものを2度目の目撃であった。


【大連工業地帯 郊外】


「今の赤い光が、敵のマシーン?」


「そうだ、ラタトクス工業は中立だから一応助けておけ。」


「UDAは?連合は助けるとして。」


「助けを求められたら助けてやれ、必要以上は不要だ。」


「エネルギー供給が再開しないと無理だよ。」


「すでに申請している。敵の狙いは再開までにあるはずだ、だから今の時間は無駄にはできない。」


三谷は青色のマシーンに乗っていた。

マシーンの名前はヴァイオレット、キョウジのマシーンの兄弟機であり、細身で緑のシルエットをしている。


随伴するマシーンは四足歩行であった。

いや、キャタピラだろうか。マシーンではない、灰色の機械だった。

そのマシーンから聞こえてきた声は少年の声であった。

少年の名前は久我幻魔という。


「ここまで無茶苦茶な状況になってるなんて、チーム全員が揃っていて幸運だった。」


「そもそも、お前の行方が分からなかったのが悪いんだ。」


「待機までは仕事に入ってないよ。基本的に戦争なんて、みんなもしたくはないのだから。」


異様である、赤いチェーンソーを持ったマシーンはSASすら簡単に倒したのだ。

エネルギー供給がまともにされていないマシーンとはそれほど脆い。


しかし、三谷のヴァイオレットも、随伴する少年もまるで、エネルギー供給に関わらず無駄なく動作している。


久我幻魔の機械は轟音を鳴らしながら主砲を持って、黒いマシーンを一体、また一体と破壊した。


久我幻魔には15体はマシーンが随伴している。


【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】


柳生宗千佳は現れた灰色の機械を見て、呟く。

「あれは久我幻魔・・・」


世界には様々な戦力がある。

魔法使いもいる。

にもかかわらず、最強は誰かと聞かれると、それは久我幻魔のチームである。

聞いた事がある、たしかそのリーダーは自分とあまり歳も変わらない。


しかも、一緒にいるマシーンは連合のヴァイオレットである。

ヴァイオレットもエネルギー供給に関わらない動きをしている。

そもそも無駄がないのだ。その原理と存在は宗千佳にわからないくらいは神業であった。


---


久我幻魔は自分のチームメンバーを巧みに操りながら黒いマシーンを撃破していく。


メンバーのレイジーは言う。

「このままでは、どっかで被害が出るよ。迎えようとしているのはどこにいる?今はパターンを変えながらハックできているけど、相手のマシーンの方が演算速度が速いんだ、そのうち対応されるよ。」


「もう少し先だ。パスカルと銀次にできるだけ対応させて。数で有利を取れないなら戦うな。」


久我流には魔法使いが3名所属している。

パスカルはそのうちの一人である。

銀次は久我流のエースと言われる男で、久我幻魔よりは年上であったが、それでも若者である。


【巨人内部】


「ナハト殿、連合は久我幻魔のチームを投入してきました。かなりまずいです。」


「港は解放したんだろ。もう少しで増援がくる。それまでは持ち堪えろ。」


「イグドラシルの接続が回復したら、もう止められなくなります。」


「そのための増援だろう、私の部下は素人なんだ、プロが来たら劣勢になるのは当たり前だろ。」


日陰博士はジャハムとナハトの話を聞いてやや不安であった。

「おい、ヴィンス、出てはくれないか?」


日陰博士と一緒にいる若者はヴィンスという。

「あんたの警護が俺の任務だけどな。」


「とは言っても、増援が来るまでにこの巨人が破壊されたら警護もできまい。」


ヴィンスはその依頼を受けて特に表情を変えなかったが、コントロールルームから出ていった。


【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】


宗千佳は久我流のチームがエネルギー低下状態の中、互角以上に黒いマシーンを破壊していくのを見た。


決して早く駆動するわけではない。

ある一体はハッキングされ、数秒止まった瞬間に破壊。

ある一体は迂闊にチェーンソーで切り掛かった際に左右から挟まれて破壊。

ある一体はチェーンソーが赤く光ったところをチェーンソーを狙われて爆発して破壊。


異常なのだ。


宗千佳は思い出していた。昔の記憶を。

なぜチーターは早く走れるのか。

足のバネが強いからである。その答えは本当なのか。

チーターは走り切った時、チーターは疲労を感じないのだろうか、いや感じるだろう。

であれば疲労するだけの努力をしたのだろう。

もしかすると、毎日走ることで鍛えていたのかもしれない。

そんな努力は生まれつき体がよくできていたことで否定されるのだ。

走る努力をしているチーターはいないのだ、と。


宗千佳は子供である、女性である。

努力しても、大人の男性には勝てないのだろうか。

それを否定するために努力したのだ、そしてラタトクス工業の作戦コマンドに選ばれるまでになったのだ。


それでも、黒いマシーンには敵わない、目の前で警護すべきルルイエが殺されそうになっても、何もできないのだ。


それを何もしないまま見守るのは人の在り方としてよいのか。


自分がどうしようないという現実を超えて、目の前では、久我流の久我幻魔がエネルギー供給の低下を無視して、更に性能が増した黒いマシーンを駆逐しているのだ。


努力が実らないことを突きつけられて、現実を打開する久我幻魔の技量を見せつけられた。


悔しい思いなのだろうか、どんな思いだろうか。

ルルイエを連れて、撤退することしか、もうできることはなかった。

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