赤い光
華山道士連が発動した太極図は戦況を変えるだけの効果をもたらしている。
黒いマシーンのエネルギー供給は落ち、逆に道士連のは上がる。
もはや、戦闘と言える段階にはなかった。
20分の間に25体のマシーンを処理している。
ジーチンは楽勝、楽勝とご機嫌だった。
戦闘を苦労して楽しみたいやつなどいないのだ。
しかも、太極図の稼働時間はまだ20分はある。
それとは別に黒いマシーンのエネルギーが低下して、さらに動きが鈍る。
ラタトクス工業は本社が攻撃されるより前に、
イグドラシルシステムの一つ、アジア地区にエネルギーを照射する崑崙システムがエネルギー出力を低下させたのだ。
道士連のリー達は、戦闘倫理アドバイザーへの接続を停止していたからその状況を確認できない。
「さらに黒いマシーンの動きが鈍ったぞ。」
「ラタトクス工業のエネルギー規制のような動きだ。ネットの書き込みを見ると、個人へのペナルティでなく、全域にかかっているようだ。」
それはそれで事態を鎮静化するには最良だろう。
黒いマシーンが持っていた青いチェーンソーはそれだけ脅威だった。
しかし、違和感も感じていた。
「太極図はイグドラシルのエネルギーをコントロールするのだろう。なぜ、まだ機能しているんだ。」
リーは太極図の停止を指示した。
使用可能時間を回復するために。
【大連工業地帯 SAS部隊】
SASのロバートは慌てていた。
戦闘倫理アドバイザーとの接続はまだ切れてはいないが、イグドラシルからのエネルギー供給が弱まりまともにマシーンを稼働させることができない。
弱まったといっても、機敏な稼働ができないだけで、普通の重機程度の動きはできるから、マシーンを捨てるような判断にはならない。
「こんな危険な任務になるはずじゃなかったのに。週末には家に戻って家族とゆっくりできたはずなんだ。」
戦闘倫理アドバイザーのナタリアは答える。
「あなたは上官です、部下の命を預かっています。わかりますね。」
「ああ、わかってる、わかってるさ。」
魔法使いのビリーはロバートに撤退を薦めた。
ラタトクス工業の策とはいえ、マシーンでの戦闘をするには混乱が過ぎる。
もちろん、全体のパフォーマンスが低下しているのだから、戦闘を続行するのも可能だろう。
むしろ、黒いマシーンとのパフォーマンスの差が縮まっているのかもしれない。
それでも不測の事態では撤退するのが基本だ。
しかし、驚くべき事態は続く物だ。
全ての黒いマシーンが膝から崩れ落ちる。
「なんだ、壊れたのか・・」
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
ルルイエは戦場の全ての戦闘が停止したことを観測した。
「黒いマシーンは全て停止したのか?」
ラタトクス工業がエネルギー制限を行う方法には二つある。
一つは戦闘時に倫理違反や、パイロットを守る目的でマシーン側で戦闘倫理アドバイザーがエネルギー供給を停止するパターン。
もう一つは、今回のように地域全体へのエネルギー供給を抑制するパターンである。
地域という言葉というには、地球の三分の一であるからあまりにも広い。
談迷子はルルイエに言う。
「ラタトクス工業はこんな、マシーンを完全停止するような権限を持っているの?」
「そうではない、これは黒いマシーンがわざと停止したんじゃないか。」
【巨人内部】
数分前のこと。
日陰博士は興奮していた。
「波形がシンプルになった。巨人の受信は安定している。あの子供の言う通りだ。うまく、エネルギーを捉えることができた。これで、イグドラシルのエネルギー供給はもはや、不要だ。」
ナハトはほっとする。
「やっと、これで故郷や世界はラタトクス工業からの支配から抜け出すことができる。」
「ここからが正念場だ。できるだけ素早くな。全マシーンに更新プログラムを配布するぞ。」
「もう目的の半分は達成したんだ。できるだけ、相手を殺し過ぎるなと伝えろ、ABC兵器を持ち込まれても困るからな。」
【大連工業地帯 SAS部隊】
ロバートは黒いマシーンが再起動し、立ち上がるのを見た。
様子は変わらないようだったが、先程まで青く光っていたチェーンソーは今度は赤い光を放つ。
その赤い光はロバートのマシーンを破壊した。
先程の青い光はコクピットを丁寧に撃ち抜くような威力だったが、赤い光は雑に大きな範囲でマシーンを破壊しているを
特に最期の言葉を言う前に、ロバートの人生は終わったのだ。
「ロバート!!」
その光景を見ていたビリーは、ロバートの名前を叫んだあと、SASのメンバーに撤退を要請する。
その間にまた一体のマシーンが破壊される。
しかし、エネルギー供給が制限されたマシーン動きは遅い。対して黒いマシーンは制限前と変わらない動きをしている。
魔法使いのビリーについても同じである。初めてビリーは戦場で死を覚悟した。
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
「はい、敵のマシーンは再起動して、前よりもさらに動きが凶悪になって、それ以外のマシーンは想定通りにパワーダウンしています。このままだと、虐殺になります。」
ルルイエは本社に電話して、早くエネルギー供給を再開するように伝えている。
「何を言っている、エネルギー供給は停止したんだ、だから黒いマシーンの動きが鈍らないわけがないじゃないか。」
「それはそうですが、現実はそうなんです。」
談迷子が独り言のように呟く。
「ラームの言っていたこと。本当だったんだ。逆さ桜が存在する。」
「なんだって?」
「ずっとずっと、謎だったんです。」
「だから何が?」
「太閤秀吉は、大阪で穴を掘って掘り続けた。何を探していたか、見つけて、それを家康は埋めさせたんです。」
「わかるように伝えて。」
談迷子は震えている、それは恐怖からか?興奮からか、果たして本人にもわからない。
「イグドラシルのシステムはすでにあったんです。それを槇島博士が見つけて、コピーして宇宙に浮かべた。」
「イグドラシルのシステムがあったって?どこに?」
「大戦が終わっても梅田の地下を人々は掘り続けた理由は?なぜ地盤が弱いのにそんなところに巨大地下空間を作ったのか。そして槇島博士は見つけた。逆さ桜の間を。・・・だからラームは槇島博士の研究所を探してるんだ。いけない、梅田に行かなくては、母に知らせないと・・・」
ルルイエはわからないし、飲み込めない。
「ちょっと待って、じゃああの黒いマシーンはその元からあったシステムのエネルギーを受信しているということ?」
「それが私の考えです。」
ルルイエは馬鹿馬鹿しい話としたいが、否定する材料もない。
一番大きな疑問を伝えた。
「そのシステムをどうやって作った?作ったのは誰だ。」
「天沼矛・・を使い。」
「なに?」
談迷子は途中まで言いかけてやめた。
「そんなのわかんないよ・・。」
【巨人内部】
日陰博士の警護をしていた若者は確認していた。
「イグドラシルのエネルギー供給が強いから、梅田から出ていたエネルギーを拾うことが出来ていなかった?」
日陰博士はわかりやすく説明する。
「そうアンテナを設置するのに一番大切なことは?」
「大きさかな?」
「それも大切だな。だから、アンテナとして、この巨人を用意した、ここまで大きいアンテナがなくても、指向性が合えばいいんだよ。どの方向と通信をするかだ、それが曖昧だった。」
「曖昧?」
「イグドラシルのエネルギー供給、まぁ、エネルギーの波だな、それが邪魔してうまくキャッチできてなかった。とは言っても、ある程度取得して、我々のマシーンはイグドラシルからのエネルギー供給と合わせて、普通以上のパフォーマンスを得ていたわけだ。」
「イグドラシルのエネルギー供給が低下して、方向がわかったのか。じゃあ、次の問題は梅田かね。」
「そうなる、ラタトクス工業は梅田のエネルギー発生源を破壊しにかかるだろう。」
割り込むようにナハトが答える。
「まだ、ラタトクス工業が梅田のエネルギー発生源の存在に気づいてはいないから、それまでに我々が先に抑える必要があるな。」
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
宗千佳は事態がどんどんと悪い方に向かっていくことに気づいてはいた。
もはや、自分がなんとかできるレベルは超えていた。
作戦コマンドとして呼ばれたのに、ルルイエはこちらの話を聞くこともないし、SASとビリーとは連絡もつかない。
そうなのだ、自分は子供なのだ。
ルルイエは今でも情報収集して、次に何をするか最善を考えるし、それはたぶん正解なのだろう。
社会において何もしないのは判断の一つではある。
しかし、何もしないと何もできる気がしないのは別である。
現状に悲観して、何もできない、絶望している間に誰か大人がなんとかしてくれる。
あわよくば敵がみんないなくなってくれる。
どれも自分が干渉しない都合のいい子供のような考えだった。
しかし、宗千佳にとっての本当の絶望はこれからだった。




