現場判断
「状況は?」
ナハトは巨人のコントロールルームで、退屈をしていた。
「港の制圧は完了しています。」
「子供と、ラームはどうした。」
子供とはシャオミが捕まえた青髪の子供、ラームは電子使いラームであり、談迷子と交戦中である。
初老のジャハムが答えた。
「子供は消えました。目の前にいたのです。しかし、消えました。ラーム殿は例の談女史の確保に向かっています。」
「黒幕はさっさと退散か。計画はもう揺るがないという判断かもな。」
事実、黒いマシーンをこれだけ展開していて、連合、udaを退けている。
「いっそ、本当にここに独立王国でも作るのも面白いかもな。」
「無理でしょうな。第一、補給が持たないし、何より我々には政治と治世のノウハウがないですから。それができるのは古典の世界のハンニバルとか、ヤン・ウェンリーとかじゃないですか。」
ナハトは王という看板に対して期待の低さにため息した。
「なら素人の王様ごっこを終わらせるだけだ、そろそろ次の段階に移したい。」
日陰博士が、話に割り込んできた。
「そうだなそれがいい、さきほどのミサイル攻撃を受けていつまでこいつ(巨人)が持つかはわからんからの。スニファーは用意できているから、トレースを取得してから解析までどれくらいかかるが勝負だな。」
であればと、ジャハムはマイクをナハトに渡した。
ナハトはマイクを持って再び宣言する。
「ナハト王である。イグドラシルの支配の悪については宣言した。それを管理するラタトクス工業というのは神話の悪口を言うネズミのことだ。各世界にエネルギーを供給し、無限の争いを起こしている。まずは、その支配に制裁を与えることとする。この巨人の主砲により、上海、杭州にあるラタトクス工業の支部を今から破壊してみせよう。」
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
ルルイエは放送を聞いていた。
「だから、早く退散を、狙われています。」
「狙うったって杭州までどれだけ離れていると思ってるんだ。巨人の映像は見ているが、とてもあんな主砲で届くわけがない。」
今から殺しますと、言われて何もせずに待っている人間は常識的なのだろうか。
ルルイエは目の前で起こっている状況がハッタリでないことを理解していた。
「巡航ミサイルを使えば防空網にひっかかるんだからハッタリだよ。」
黒いマシーンの出現と、電子使いラームの存在、SASすら手を焼いているのに、後方の役人が何を言っている。
ルルイエは杭州支部の偉い人との通信を切断して、同支部の知り合いに連絡を始めた。
一刻も早く退避するようにと。
【巨人内部】
後ろでのボディガードをしている若者が笑っている。
「ここから杭州まで届くわけがないじゃん。」
ナハトはジャハムに目配せをして、ジャハムは軽くうなづく。
「では宣言通り主砲を発射する。」
ドン、ドンッと2発の破裂音が響いた。
とても大きな閃光と同時に。
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
ルルイエはその閃光を観測している。
「まずい、職と給料の支払いがなくなる・・」
上海支部に連絡しても、杭州支部に連絡しても、もう繋がることはなかった。
二つの支部の全てのオンラインツールはオフラインのステータスを示していた。
「やばい、次は本社だ。」
【巨人内部】
「うまくいったか?」
ジャハムは全てうまくいったと伝えた。
「そうか、非人道的な行為だな。民間人をこれほど殺すとは。」
「はい。ろくな死に方はできないでしょう。」
対して日陰博士は慰めるわけではないが、次の行動を促して、若者の元に戻った。
「おい、あれどうやったんだ?杭州まで砲撃が届いたのか?」
「そんなわけないだろう。無理だよ。」
若者はへぇっと納得していた。しかし別のことが気になっていた。
「博士ってこういう作戦もできるんだな。兵器作りだけかと思ったけど。」
「科学者に一番大切なものはハッタリだよ。ハッタリというハリボテで外観を作って資金調達してから中身を作るんだ。」
「そうじゃない。民間人を犠牲にするというところだよ。」
日陰博士は若者を二度見した。若者のことを侮っていたようだ。
「自分の世界は大東亜戦争だよ。作った兵器で人を殺させておいて今更自分だけ綺麗さを求めることはない。」
ナハトはメディアチェックをジャハムにさせる。
メディアでは一斉にナハト王が攻撃を宣言し、巨人の主砲が光った瞬間に支部が吹っ飛んだことを報じていた。
情報が錯綜している。
日陰博士は早くしないと主砲の攻撃じゃないことがバレるぞ。
と伝えた。
再びマイクを構える。
「見た通りである。この巨人の主砲からは誰も逃げることはできないのである。」
ジャハムは、リスボン、クジャラート、ケープタウンと伝えた。
「続けて、リスボン、クジャラート、ケープタウンを攻撃する。この攻撃が終わり次第、ウェールズのラタトクス工業本社を破壊する。」
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
ルルイエは混乱している。
「何で、そんな田舎ばかり攻撃する?」
杭州よりもさらに距離が遠い、ケープタウンに至っては地の果てである。
談迷子が横から割り込んできた。
「着弾時刻がおかしいんです。杭州支部は巨人が攻撃する前に爆発しています。」
「あの電子使いはどうした?」
「さっさと逃げていきました。」
「着弾が何?どういうこと?」
「主砲の攻撃に合わせて、現地で攻撃をしているということです。」
ルルイエはわからない。
「何のために?」
そりゃあ。と談迷子は答える。
「恐怖を与えるためでしょうか。」
ルルイエは本社からのコールを受けた。
「何をしている、はやく巨人を止めろ。本社が破壊されるかもしれんのだ。」
そのやりとりをしている裏で巨人が主砲を3回発射した。
轟音である。
トレーラーの中にいたルルイエと談迷子は耳がキーンっとなり、思考が停止している。
談迷子はその状況でも、何かを調べている。
「さきほど宣言にあった三箇所も破壊されようです。」
ルルイエは本社と会話をする。
「はやく、そこから脱出してください、次は本社です。」
「脱出?ここより完全なところがあるわけないだろ。みんな本社の地下シェルターに避難を開始している。それより状況はどうなんだ?緊急事態なのか?」
ルルイエは電話の先の男が何を言いたいのかわからない。
「緊急事態なんだな?現場のおまえがそう判断するんだな?」
ルルイエはどう見ても緊急事態でしょうと伝える。
「わかった。」
そういい電話が切断された。
ルルイエは猛烈に嫌な予感がしている。
【巨人内部】
「三箇所はボヤを起こしました。」
ジャハムは淡々と報告した。
「後は待つだけか。長かったな。」
「田舎の支部でありましたから、スムーズに破壊できましたな。最初の上海、さっきの杭州だけは才賀殿がうまくやってくれましたがね。」
「ラタトクス工業は判断するかな。」
「本当に奥の手があるのであれば、ね。」
【ラタトクス工業本社】
ウェールズにラタトクス工業の本社はある。
ラタトクス工業の目的はイグドラシルの維持運営である。
必要であれば宇宙までいって、イグドラシルの修理だってする。
各国でシステムが不正利用されていないか、戦争で非道なことをしていないか、そのようなことをシステムを元に監視している。
「早くしないとこの本社も破壊されるぞ。」
「しかし、制御機能を使うとあらゆるインフラも影響をうけるのだぞ。」
「制御をかけるのは崑崙システムだけだ。全てにじゃない、それだけであの巨人は立っていられなくなるだろう。」
「現場からは緊急事態と聞いている、現場の意見を無視するのもよくないからな。」
「病院や人体に影響がある設備はエネルギーレベルを低くしても問題ないように規格を作っているのだから現場の戦争好きが影響を受けるだけだろう。」
「我々にとってはデメリットがないというわけか。」
会議室にコールの音が響く。
「ルルイエです。少し様子がおかしいのです。」
「何がだ。」
「主砲の発射前に着弾しています。これは巨人の攻撃ではありません。」
「だから、どうしたのだ。」
「ハッタリをするのであれば何か要求があるのが普通です。」
「根拠は?」
「現場の空気です。」
「それは根拠とは言わんよ。」
「いいから早くエネルギー供給の制御をかけろ。」
ルルイエの後ろから何か女の声がする。
だめだ、話を聞いて、大変なことになる、と。
会議室の中心にブレーカーのスイッチのようなものが配置された。
「では、緊急コード0451を可決する。」
【大連工業地帯 ラタトクス工業部隊】
ルルイエは目撃した。
大連地区の明かりが一斉に消えるのを。
緊急コード0451は大連に一番近いイグドラシルシステムの崑崙ユニットのエネルギー出力を6割に抑制するのものだった。
ラタトクス工業はある程度イグドラシルに関する介入が可能で、そのうちの一つがこのエネルギー制限である。
連合、UDA、ナハトの部下の黒いマシーンの動きが明らかに遅くなった。
全体のエネルギーが落ちるということは戦力差には影響しないが、巨人はどうか。
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「エネルギー供給の低下を確認した。」
日陰博士は印刷された数値を確認して伝える。もっとも、見ればわかるほどに、大連の街並みは暗くなっていた。
しかし、巨人はイグドラシルからのエネルギー供給が減衰したのにかかわらず、かわらず、立っていた。




