その人のあり方 中編
柳生宗千佳はルルイエが攻撃を受けていると連絡があり、トレーラー前まで戻っていた。
驚くべきことに守るべき談迷子が、銃を持って先頭に立っている。
「どういう状況?マーガレット?」
マーガレットは戦闘倫理アドバイザーである。
「談迷子さんの前にいるのが、電子使いラーム、魔法使いの一人です。」
「電子使いって。」
同じ魔法使いのビリーはSASの部隊と前線に残っている。
この世界では魔法使いに対抗できるのは魔法使いだけである。
勿論圧倒的な物量があれば別であるが。
「相手が魔法使いであれば、人間へのマシーンでの攻撃は許可されるの?」
「電子使いラームは談迷子さんの誘拐が目的ですから、それから守るためであれば問題ないでしょう。戦闘条約14項 人を守るため。に該当します。しかし・・魔法使いとの戦闘は推奨はしませんね。」
「人を守るなというアドバイスは倫理的じゃないわね。」
それは違うのである。戦闘倫理アドバイザーの仕事はパイロットの安全であり、守るべき人の中に柳生宗千佳も含まれるのだ。
「ルルイエに連絡して!トレーラーを下げて、電子使いラームは柳生宗千佳の部隊が相手すると。」
「・・・了解しました。お伝えしますね。」
犬型のドローンが展開されていた。
対して、談迷子、マリナがラームと対峙している。
「推奨される作戦は?」
「電子使いラームは生身です、離れた位置から機銃による攻撃がいいでしょう。」
「了解。」
戦闘倫理アドバイザーの意見を素直に聞いていた。柳生宗千佳もまた作戦コマンドである。
置かれた状況に不安なのだ。
「では、全機でラームに攻撃を仕掛ける。マリナ達に当てないように。」
おかしい状況であった。
本来、マシーンが5機も到着していて、ラームは談迷子から目をはなさいどころか、ドローンを一機も宗千佳達に回さないのである。
「では、射撃開始。」
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柳生宗千佳は父に聞いた。なぜチーターは速いのかと。
その答えは与えてもらった絵本と同じであった。
先生に聞いた、友人に聞いた。
しかし、どの答えも同じである。
「チーターは天性の足のバネを持っていて誰よりも速く走れる。地上生物で一番速いのだと。」
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一斉に射撃を開始したにも関わらず、ラームは微動だにしない。
弾丸の軌道がそれているのだ。
しかも、近くにいるドローンのいずれにも当たらない。
「撃ち方やめ。」
マーガレットは分析する。
「クラッキングです。各機の火器制御プログラムのバイナリデータが少しずつ壊されています。」
「復旧は?」
「すでに自己修復プログラムが働いて修正は完了していますが、先ほどの射撃時点で3回もクラッキングと修復が繰り返されています。」
電子使いの一番恐ろしいところは、イグドラシルのエネルギー供給網に紛れることである。
マシーンは全てエネルギー供給網を利用してコントロールされているから、ある程度のクラッキングを受けてしまう。
もっとも、それができるのが電子使いの強さであり、他にそんなことは誰もできないのである。
「各機、クラッキングに対してイグドラシルからのエネルギー強化を止めて、バッテリーモードにきりかえて。」
エネルギー供給にはムラがあるから、各マシーンはバッテリーを持っている。
しかし、UPSのようなもので2、3分しかバッテリーでの活動はできない。
バッテリーモードに切り替わるとコクピット内の照明が全て落ちた。
「再度、射撃を。」
そう言った瞬間、いや、言う前に、宗千佳の僚機の村田のマシーンの機銃が爆発する。
「やめ、撃ち方やめ。」
爆発の原因がわからない以上、余計な動きは避けるべきだ。
「全く戦闘にすらならないじゃない・・・」
マーガレットは静かに答える。
「そう・・理解できない、わからない。だから魔法使い(ウィザード)と呼ばれているんです。」
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「そうそう、それでいい。無駄に被害を出しても意味がないし、こちらのカミカゼも安物じゃないんだ。」
目の前では談迷子とマリナが睨みつけている。
「俺だって暇じゃない。目的があってここに来てる、殺人鬼でもないし、家に帰って寝たい気持ちもあるんだよ。」
マリナはナイフを構えながら言う。
「何を言いたいんですか。」
「違う違う。そうじゃない。そのままの意味なんだ。要求があるから話を聞けって言ってるんだよ。」
談迷子は無言で銃を構えている。
「理解できないね、じゃあ、あんたの母、先代談迷子の居場所でもいいよ。どちらでもいい。」
「なぜ、母を・・」
そのとき、ラームに飛び掛かる人影があった。
刀を抜いた柳生宗千佳であった。
マシーンでは戦闘にならないという判断をして、生身で飛び出したのだ。
マーガレットは無謀さに、もはや呆れていた。
しかし、犬型のドローンに阻まれる。
柳生宗千佳の動きは達人であった。
マシーンの操作は素人そのものだったが、流石に剣術の大家である。
ドローンの攻撃をまるで糸を巻くように刀で引き込んで、地面に叩き落とした。
それほどの衝撃がないように見えたが、ドローンはもう動かない。
「強いやつらが3人か。怪我するかもしれんな。」
そう言い立ち上がる。
「談迷子さんよ、あとでコンタクトするからそれまでに協力するか考えておいてくれないか。礼金を出してもいいんだ。」
急ぐわけでもなく、慌てるわけでもなく、ラームはその場から立ち去った。
柳生宗千佳はその光景を見て、一応は役に立てたと安堵したが、実際には誰からも相手にされていないし、戦力にもなれていないのは明らかであった。
しかし、この後、更に無力さを思い知るのだ。




