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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
巨人事変
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久我流

フランは何度も言う。

「倫理的とかそういう判断の次元ではありません、これは無謀です。」


戦闘倫理アドバイザーの仕事は兵士を理不尽な状況から守ることにある。

戦争では、命を捨てるような作戦や、それに逆らって後ろから撃たれる、などの兵士の命が軽んじられることは多々ある。

そのような事態を防ぐために命令系統を仲介するのだ。上官からの命令を兵士本人ではなく、戦闘倫理アドバイザーが指示を拒否できるので、兵士の安全は制度導入前より遥かに高くなった。

戦場以外の情勢、戦力差等を見て作戦立案を行い兵士を助けるのである。

しかし、自分から死ににいく兵士を止める術はない。


12体のマシーンにキョウジのマシーンヴァイオラは突っ込んでいく。

そもそも、マシーンのスペックはラタトクス工業が規定している。ヴァイオラは最新型ではあるが、その規定に縛られている。


なぜ、柳生のような旧来の武家が重宝されるかというと、マシーンのスペックは一定だから、人の能力こそが重要とされたからだ。

達人であっても12体に対して1体で挑むのは無理があるだろう。

加えて、黒いマシーンは規定を超えて強力だ。


先ほどとは違い1体に対しても有効打を与えられていない。

各々がうまく連携できているわけではないが、やはり火力も、視野角も違うのだ。


キョウジはシャオミの救出に焦っていたのだろう。

しかし、冷静な面もあった。

できるだけ多くの敵のマシーンを視界に入れながら立ち回り、揺動をしかけて、攻撃を誘って都度反撃を行う。


「撤退しましょう。」

フランの声はキョウジには聞こえない。


キョウジは昔、久我天根に習ったことを思い出していた。


目に向かって素早い突きを天根から受けた。キョウジは簡単に避けることができた。


次に天根はゆっくりとした突きを受けたが、避けることはできない。


天音はこう言う。人間の認知なんて怪しいものだ、体が速いからって、心が遅いことなんてよくあるから、自分の意識に騙されるんじゃない。


いつもそうだった天音は理屈を説明しない。

説明しないということは説明しないほうがよいことなのだとキョウジは理解している。


教えられた久我流の流儀は元々は九我と書き、久我流の根底となっている。


1つ 認知

2つ 認識

3つ 欲情

これが世の中の見え方を定義する。


4つ 過去

5つ 現在

これが行動理念を定義する。


6つ 敵

7つ 自分

これが世の中を分断する


8つ 楽観

9つ 悲観

これが人の心を狂わせないようにしている。


この9つ、この9観こそが人の強さに影響するという考え方が久我流の根本である。


「すごい、全然攻撃が当たらない」


フランは驚愕した。久我流というものは聞いていたが、人間の性能でこれほどの差が出るのか。


12体のマシーンがいても視覚情報はバラバラである。戦闘システムにより、各マシーンは連携しあっている。

それでも、人間の心はバラバラで、更に脳と視覚は別のものであった。

キョウジは全ての敵の認知を把握して一つの脳で敵が今何を見ているのかと、現実のズレを確認している。


「マシーンは強力だけど、チームとしてはダサいね。」


やっと一体のマシーンの腕を切り落とす。

切り落とした瞬間、一斉に他のマシーンがキョウジを射撃した。

キョウジはそれも理解した上で、腕を切り落とし、黒いマシーンの後ろに隠れた。


盾になったマシーンは味方の攻撃を受けて、戦闘不能になった。

少しだけ、ヴァイオラも被弾を許してしまう。


「やっと一体。」


「要請です。UDAから黒いマシーンの排除連携をするとあります。」


フランは味方が増えることが嬉しそうだ。しかしキョウジは端的に回答する。

「一旦断って。」


【大連工業地帯 日創部隊】


「ダメです、拒否されました。」


「拒否?多勢に無勢なのに?」


日創少尉は撤退の糸口として連携要請を出したのに、断られたことに動揺した。

敵はテロリストでこの状況で断る意味があるのか。


「連合は敵ではありますから。断られることもあるでしょう」


わかる、それはわかるが、この異常な状況で敵味方を言っている状況なのか。

しかも自分達もこの場所に釘付けになるし、トランクケースのこともある。

日創は悩んだが、次の指示を出した。


「連絡ミスがあった。連携じゃなく、条約に基づきテロリストの攻撃から救援する、と伝えろ。」


【大連工業地帯 郊外】


フランは連絡内容を解説する。

「先ほど断ったUDAの部隊が側面から攻撃しています。人道的に救助するとのこと」


キョウジは興味がなさそうだった。

連携であればUDAのマシーンを守る必要がある。

足手纏いになるし、連合の敵のUDAである、自分にいつ射線が向くとも限らない。

だから、勝手に攻撃してくれるならそれがいいのだ。


UDAのマシーンは6体である。

黒いマシーンとの性能差はかなり大きかったが、キョウジにすると相手の連携が崩れればどうでもよかった。


側面から攻撃を受けて敵の認識がバラけたことを感じたら、そこからはキョウジの判断は速い。


1体のマシーンの頭を蹴り飛ばして、蹴り飛ばした頭をぶつけて怯んだ相手の1体のマシーンの足を切断した。


「少し離れてUDAの部隊に注意を割かせるか。」


「いいえ、終わりです。撤退していきます。」


長引けばUDAのマシーンやキョウジにも被害は出ただろうが、敵のマシーンは撤退を始めた。

戦闘不能になったマシーンも含めてである。


「ほら、なんとかなったでしょ。」


フランは声を振るわせる。

「そういう死ぬか生きるかの賭けような戦場から守るために倫理アドバイザーの私がいるのです。それをないがしろにして倫理的ではありません。」


無謀とか、自分の身を心配を、と先ほどまで言っていたのに。

いざ終わってみると結果論に追われて別の理由で人を責めてくる。

賢い人は違うんだなと感じたし、実際アドバイザーとしての言葉を無視したのは悪かったと思っている。


「相手の連中はろくに戦闘訓練も受けてないんだ、そういう練度の差からの状況把握はプロの感を信じてほしいんだ。」


「貴方は人間がいかに体調によって能力が上下するか知らないんですよ。個人の判断は非常に曖昧なんです。」


「すごく、いいことを言うね。」


キョウジは次の問題にとりかかる必要がある。

UDAは次の敵になるからである。


また、シャオミのビーコンがUDAの部隊から発信されていることも気になる。


「UDAの連中に連絡してほしい、救助に感謝したい。何か預かり物があるんじゃないか、ってね。」


【大連工業地帯 日創部隊】


「やりました、黒いマシーンの部隊は後退していきます。」


日創はその知らせを聞いてほっとした。


「相手のマシーンに引き続きコンタクトしろ、次はあれと戦うのはかなわんよ。そうだな、協力に感謝する。こちらは避難民を抱えている、人道的に保護を要請したい。とな」


そうは言っても日創の部隊の方が多勢であるから、客観的にはおかしいが、あれだけの戦闘を見せつけられては要はキョウジと戦いたくないのだ。


「返信が戦闘アドバイザー経由でありました。何か預かり物はないか?です。」


日創はトランクケースに目をやる。

さて、難しい。このトランクケースの中身を欲しいのは連合の三谷だけであろうか。

もし、変な回答をして、あのマシーンが襲いかかってきたら?

避難民を盾に命乞いをするか。


「こちら避難民とたくさんの敗残兵の集まりである。預かり物の特徴は何か、と聞け。」


弱者は弱者としてちゃんと弱者を装うのだ。

「回答がありました。特徴は言えない、こちらで探してもよいか?避難民保護についても協力はする。とのことです。」


連合とコンタクトすることは問題ない。

しかし受けた任務は連合の三谷秀一にこのトランクケースを渡す事だ。連合にではない。


「では、そちらで探してくれ。協力はするから。」


ラタトクス工業の戦闘倫理アドバイザーがいる中で、避難民を無視して戦闘を始めて、物品を強奪することはできないからだ。日創は手順を心得ている。


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