表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
巨人事変
PR
13/77

変わった日

日創少尉の目的は大連の工業地帯の鎮圧から、トランクケースを保護することに変わった。

巨人から現れる黒のマシーンの強力さを鑑みて、どちらの任務の方がマシかは明らかである。

部隊を後退させながら、逃げてきた兵士も合流している。

今は50名程度にまで膨れ上がっていた。


マシーンは6体が残っている。保護した避難民も20名はいる。

流石にこれほどの人数になると、敵も簡単には攻撃は難しい。


道がかなり痛んでいて、まともには進めない。


初動はかなりの積極的に攻撃をされていたが、相手は、浄水施設と港を確保しようとしているようで、少し後退すると攻撃は牽制程度になった。

「こんなところで長期戦をするつもりなのかね。」


港を制圧したら海から新たな補給がなされるのであろうか。

エネルギー供給はイグドラシルからされているが、人間に必要な水、食料、またマシーンのメンテナンス用の部品、あらゆる物が戦場では必要だ。

もっというと、それを支える労働力も必要となる。

ただのヤケクソのテロリズムであればそこまでは必要としないのかもしれないが、明確な破壊目標の表面はないから、長期戦を考えているのだろう。


問題はトランクケースである。謎の女?から渡されたこのケースがこの戦場に関係するのであれば、敵の目標が自身になることが予想される。


「まだこちらからは目視はできませんが、進路上に敵の黒のマシーン12体、どうしますか?」


先行している部下から報告が入ったのだ。

どうしますか?という相談に対する回答は苦しくても回答するのが上司の努めである。


「進路を変えるか、この場に待機だな。」

ここに来るまでに、二体の黒いマシーンと交戦したが、手痛いダメージをもらった。

黒いマシーンのスペックは明らかにイグドラシルのレギュレーション違反で高性能すぎるのである。

最終的には一体を戦闘不能にまで持ち込んだが、こちらのほぼ全力をかけてである。


「話を聞いてみるか、さっき捕まえた敵のパイロットを連れてきてくれ。」


連れてこられた敵のパイロットは、初老であった。

手は拘束されている。


近くの瓦礫にシートを被せて座る。

敵のパイロットは日創を見ていた。


「さて、テムーレン、あなたは誰だ?」

名前は所持品からわかっていた。


「ナハト殿に仕えるものだ。さきほどから音声が流れているだろう。」


この戦場で拷問するのも日創はめんどくさかった。

「まず抵抗なく喋れることを喋ってくれないか。テロの目的、主張、戦力の詳細、部隊の配置、こちらに有利であればあるほど、君の安全を保証にしよう。」


「捕虜としての扱いを求める。」


「テロリストに戦場の条約は効かないのよ。とりあえず喋れることだけ喋ってよ。」


「祖国では若者はみんな外に出てしまった。理由はイグドラシルの支配による。だから、こうやって抗議をしめしている。」


「抗議たって、この大連で主張しても、イグドラシルのシステム自体は宇宙にあるし、ラタトクス工業の本拠はウェールズだ。何の意味がある。」


「テロリズムというものはいつも、敵側に無意味に見えるのだ。しかし、社会には影響を与えてきた。我々の現状を知ってもらうのが第一だ。」


「現状を知りました、可哀想ですね。で、さようなら、と帰ってくれるならそれでもいいよ。」


日創の目的はこの男から情報を引き出すことでない。


「撤退してくれるのであれば、その主張は聞いてみたいから、お前の大将に繋いでくれ。」


【大連工業地帯 巨人内部】


「ナハト殿、捕まったテムーレンからUDAの少尉が繋いでくれと連絡がありました。」


ナハトは部下のジャハムからの連絡に対して面倒そうだった。


「一応、自分は王という設定であるが、王に少尉とは身分が合わないな。それはそうと港の確保は進んでいるか?」


「ほぼ完了済みです、一部倉庫で抵抗がありますが。」


「敵を追い込みすぎるなよ。」


状況確認をして、ナハトはテムーレンの通信チャネルに接続する。


「こちら、UDAの日創です。応答いただかありがとうございます。」


「日本人か、礼儀正しいのだな。」


「ありがとうございます。もう、日本人ではありませんから。今はUDAの軍人です。」


「話の内容は?」


「避難民が多くいます、そちらの撤退をしたいのですが、そのように手配してくれませんか?」


ナハトは少し悩んだ。王ならどう回答するだろう。テロリストなら?軍人なら?


「避難民については迷惑をかけているのは理解している。撤退を認めよう。ただ、マシーンは放棄して撤退してくれないか。」


戦力としては削ぎ落とす、そして人は助ける。多分これが王なのだろう。

日創にすると、交戦すればマシーンを破壊されるのはわかっていたからどうでもよい。

問題はこのトランクケースである。


「マシーンを放棄しては、何かあった時に避難民を守ることが困難になります。」

半分は本当である。戦場で戦力の放棄とは相手に全てを委ねるということである。


「我々も避難民に迷惑をかけたくないのだ。まず、少尉の部隊の武装を強制的に解除した後でも、それはできそうだ。」


「ありがとうございます。攻撃まで少し時間をいただけますか?その間に結論を出します。」


「構わないよ。」


通信は切られた。

ジャハムは軽く礼をして、戦況を伝える。

「西区はほぼ制圧しました。東区はもう少しで完了します。」

日創少尉が立ち往生しているのも西区である。


ナハトは順調な進捗に対してこのような荒事をしていることに対しての疲労を蓄積していた。


「ラーム、サムライ、青髪の少年、誰もまともに役に立ちやしない。味方は老博士のみか。」

老博士は日陰博士のことである。


ジャハムは進捗がありましたと伝える。

「西区の制圧地帯が攻撃を受けています、6体のマシーンが大破。」


ナハト王は眉を歪める。

「6体も、連合か。ラタトクス工業の魔法使いは後退したのだろう。大量のマシーンを投入していたのか。」


ジャハムは敵は一体です、と答えた。


【大連工業地帯 日創部隊】


仲介をありがとうと、テムーレンに礼を言う。

テムーレンも日創の丁寧な対応に感謝を述べていた。


避難民と部下とトランクケース全てを守るのは重い。

部下たちはマシーンから降ろして、自分だけトランクケースと一緒に潜伏するのはありだと考えはじめた。

しかし、このトランクケースの中身も問題だ。

体力的にどれくらい持つのだろうか。また、敵に見つかったら命令違反となる。


少し遠くから戦闘音が聞こえた。


【大連工業地帯 郊外】


キョウジの戦闘倫理アドバイザーのフランは驚愕していた。

先程はUDAの部隊を撤退させ、今新たに現れた6体のマシーンをキョウジは破壊したのだ。

マシーン、ヴァイオリの性能の問題だけであろうか。

イグドラシルのレギュレーション違反のマシーンである。

普通は複数機撃破すること自体が異常だ。異常に異常を重ねている。


一体は出会い頭に破壊して、二体には瓦礫の崩落に巻き込ませ、三体は正面から技量で押し切った。


「キョウジさん、どういうことですか、これではまるで、魔法使いではないですか。」


「相手のパイロットが連携できていないだけだよ、さっきのUDAのチームの方が余程よかった。」

戦場に慣れているキョウジと、慣れていないナハトの部下。マシーンのスペックでは埋められない差が確実にある。


戦闘倫理アドバイザーに接続している間は上官からの連絡は制限される。理不尽な指示からパイロットを守るためである。

イグドラシルからすると倫理的な正しい行動を見守ること、普及することのために必要である。

そのため、三谷からの指示はフラン経由で行われることになるのだ。


「三谷さんから指示がありました。あまり戦いすぎるな、とのことです。」

戦場で無駄に戦いたい奴があるのだろうか。受け取り手からしたら腹が立つコメントであるが、三谷の思いは優しさからだ。


「気をつけているよ、そこら中にUDA、テロリストの強い敵がいて、味方がいない。シャオミも見つからない。」


シャオミの位置を表す目標のビーコンは少しずつ近づいている。

「目の前に2体のマシーンが哨戒しています。」


了解と答えると、キョウジのマシーンからは音が消える。

久我流の歩法である。

「こんな、すごい。」

フランは一流である。様々な実戦も経験している。

しかし、キョウジの久我流の技は異常であった。

思えば、魔法使いの存在、黒いマシーン、巨人、時代錯誤のテロリスト、キョウジという存在。全てが異常であった。


キョウジはするりと、二体間に割り込み、マシーンの脇をほぼ2体同時に撃ち抜く。

パイロットは何をされたかもわからなかっただろう。


「すごい・・・」

上海の才賀故我のマシーンも異常だったのだ、旧型とはいえ、おそらくこのテロリストが扱うマシーンと同じくレギュレーション違反をしていた。

しかし、あっさり倒してしまったからキョウジの腕に逆に気付かなかったのだ。


【大連工業地帯 日創部隊】


日創少尉はテムーレンの前で悩んでいた。

少しだけ、戦闘音が響いてくる。

無線で部下に報告を求めた。


「どうした?UDAの増援か?」


「いえ、緑色のマシーンが黒いマシーンと交戦しています。」


「正確に報告しろ、新しく現れた勢力のマシーンは何体いる?」

「一体です・・」


先程の観測ではマシーンは十二体はいる。

そんなに強力な兵器があるのだろうか。

日創少尉にとってはまたとないチャンスであった。


【大連工業地帯 郊外】


「キョウジさん、無茶苦茶です。敵の数が多すぎます。こんなの全然倫理的ではありません。」


キョウジはマシーンの集団につっこんでいた。

黒のマシーンは全て強力である。

一撃を受けたら破壊されるような力を持っている。


「戦力差があると戦ってはいけない倫理は弱気っていうんだ。」


さすがに、数が多く、連携しているため、なかなか倒すことができない。

キョウジは続けて言う。

「その倫理は結果論で変えてみるよ。」


フランは諦めて、できるだけ戦闘に関する情報をキョウジに提供する。

戦場は少しずつ、兵器から人へと支配権を移していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ