その人のあり方 前編
今より小さい時に柳生宗千佳は親より動物図鑑を与えられた。
とあるページにチーターは世界で一番速く走れる。それはなぜか?
というクイズがあった。幼い柳生宗千佳は回答を見て驚いた。
足のバネが他の生物より優れているからだと。
その本に書いてある答えは今でも間違っていると宗千佳は考えている。
【大連工業地帯】
目の前に数十体のマシーンが現れた。
宗千佳は言葉を失う。さきほど一体を5体がかりでやっと倒せた。それが大量に現れたのだ。
ルルイエの指示は撤退しろだ。
ビリーも同じく指示に従って撤退すべきと言う。
宗千佳は僚機に撤退を指示する。目の前では連合の部隊が戦っていて、言えば見殺しである。
しかし、相手が明確に倫理違反をしていなければ加担をするのもいけないのだ。
すでにテロリスト達と自分たちの部隊は交戦しているから敵対してしまっている。
構わず攻撃してくると考えるのが普通である。
そんな中、また別の方向からマシーンの集団が現れる。
「ありゃ、華山道士連か。近くに居たのか。」
それぞれが変わった見た目をしたマシーンの集まりであった。
一体は大きな棍を。
一体は直剣を。
一体は手に子供が遊びで使うコマのようなものをつけていた。
また、随伴する三機のマシーンは神輿のように、棺のようなものを持ち上げている。
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「つまんねぇ、山での修行からやっと出張で来たら、戦争だなんて。」
コマをつけたマシーンの華山道士連のジーチンは文句を言う。
巨大な棍を持つマシーンの上官のリーは嗜めて注意をする。
「死ぬかもしれないお勤めか、死んでもおかしくない実戦か、どちらもかわらんだろう。棺の利用許可が出たんだからudaも本気なんだろう。」
華山での修行は危険であった。修行が目的とも言われるくらいである。
直剣を持つマシーンに乗ったリウは言う。
「名誉の負傷でもしていけよ、そしたらしばらく入院生活だ。お勤めもサボれるだろう。」
「そういうことも崑崙では許してくれるかもしれないけど、華山はダメなのよ。」
リウは一人だけ崑崙出身だった。
ジーチンのマシーンが先行する。
テロリストの黒いマシーンがバルカンで牽制するが、片手のコマが回転し、弾を散らしていく。
このジーチンのマシーンのコマの素材は木である。
気が軽くて硬くて柔らかいのが回転に向いていると本人は主張している。
「おい、無闇に弾くなこっちに当たるだろ。」
リウは直線的な軌道の弾道より跳弾を嫌った。
リーは全体に指揮を出す。
「はいはい、戦闘開始ね。戦闘が長引くかもしれないから、棺はまだ利用しないでね。」
リーは無理に前に出ず、ジーチンとリウに戦闘を任せている。
ジーチンはコマを使い敵の攻撃を受け流し、リウが反撃する役割分担ができていた。
駒単体でも回転を強めて相手を押しつぶすような使い方もする。
2体に気を取られていると、リーの巨大な棍が襲いかかるのだ。
華山道士連は武侠小説に出てくるような華山の剣士を復興させようという運動に端を発する。
華山に関わらず、崑崙や、カイラス山にも、山岳信仰を軸とした武装勢力が存在した。当時は各組織とも信仰を理由で敵対もしてが、各組織は共通の課題として金がなかった。組織の維持のため、連盟を組んで崋山の指揮の元出稼ぎをしているのである。
傭兵とは少し違い、どちらかというと予備兵とされた。
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宗千佳は三体の華山道士連のマシーンが交戦に入ったのを見て、自分達の戦力の無さに落胆していた。
こちらは1体をやっと倒せたのに華山道士連は数の不利を超えて戦えている。
連携も違う、発想も違う、何もかも違うのだ。
一つだけの確実なのは宗千佳は自分ほど稽古している人間はこの世にいないと考える。
だからこそ余計に悲しい。
ルルイエから通信が入った。
ドローンに囲まれている、戻って助けて欲しいと。
マリナが護衛にいたのにこの指示は余程切迫しているのであろう。
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マリナは品種改良された人間だ。
人間の姿をしていて、人間の知能を持って、誰よりも強く製造された。マシーンに乗るために小さい体の方がいいと、女性の子供の姿をしている。
そのように調整された。人間のまま最強に。
実際に戦場でマシーンを操ると最強であった。
それは最強の兵士を作る実験であったが、ラタトクス工業は後にあまりにも人よりも優れた能力であったから、
違法薬物の投与により肉体強化の嫌疑でイグドラシルへの接続権を剥奪されていた。
マリナは優秀を目指した個体にも関わらず、優秀すぎるから排除されたのである。これほどの理不尽はない。
そして、ラタトクス工業に保護された時、マリナはイグドラシルから排除されたから、それにより働く術がないという理由で、ラタトクス工業が仕事を斡旋することになった。
その雇用が戦闘目的であったのだ。はたしてそれは倫理的なのだろうか。
マリナは何体かのドローンを排除しているが、息も上がっていないし無傷であった。
しかし、敵の数が多すぎる。
その時、談迷子はトレーラーから飛び出していた。
逃げ出すつもりなのだろう。
ルルイエは驚いていた。飛び出して何ができるのだろうか。猫のフェンリルも同じく飛び出した。
意外だった。談迷子はボロのスーツの男に向かっていく。
マリナは外に出てはダメと伝える。
劣勢である。確かに劣勢ではあるが、まだ負けたわけではない。
しかし、さらに庇いながら戦えるわけがないのだ。
ボロのスーツの男は言う。
「倫理的に動くということは犠牲を増やすと言うことだなぁ。」
マリナの死角から一体のドローンが飛びついて、足に噛み付く。
この数の中、足をやられたらもう、無理である。
思えば知らない人がより良い人間を作ろうとして、ラタトクス工業は良かれと思ってマリナを雇って、今日は談迷子を助けるために自分は死んでいくのか、ボロのスーツの男の言う通りだった。
他人の倫理で生まれて、知らないところで拒絶されて、他人から与えられた倫理によって人を助けよううとしている。
「違います、犠牲が増えるのは人を傷つけようとする人がいるからです。」
その言葉の瞬間、ドローンは弾丸をくらって、弾かれて、その後にフェンリルに噛み砕かれた。
談迷子の手元の拳銃から硝煙が上がっている。ルルイエが護身用に渡した銃である。
「へぇ、珍しいドローンがいたもんだ。今は猫に偽装してるんだね。」
負傷したマリナは足を布で縛ってまだ動けることをアピールした。
一気にドローンが向かってきたらもうダメだから、平気なフリをした。
談迷子は続けて、近くのドローン2体に発砲する。
先ほどはフェンリルがトドメをさしたが、今回は弾丸だけで機能停止した。
ボロの男は不思議そうな顔をしていた。
ドローンの構造を解析してアンテナ部分を破壊したのだ。
そこに信じられない精度で弾丸を命中させている。
マリナは守るべきものに守られている。
「マリナさん傷は?」
「2、3分時間をくれれば治る。今戦うと不利かもも。」
すでにマリナの傷は塞がりつつある。
「そうか、やはり久我幻魔のチームの談迷子の次世代か。」
談迷子は静かに応える。
「私も母から聞いています。十二人の魔法使いの一人、電子使いラーム。身なりが汚いとは聞いてなかったけど。性格が最低だと。」
ラームはそれを聞いて少し笑った。
「あんたの母親も大したもんだったよ。傭兵同士が戦場で会ってさ、相手がいいやつだなんて思わないだろ。誤解さ。俺はあんたの味方かもね。」
「どっちでもいいですね。」
ルルイエはトレーラーの中で何度も宗千佳がいつ着くかを確認している。
さすがに自分が出ていってもすぐに死ぬのは明らかだから、せめて何かをしている気持ちになりたかった。
ラームはドローンを少しずつ二人に近づけて包囲している。
「そうだいいやつか、わるいやつかなんてどうでもいい、俺の仲間はお前の母親のチームにも何人か殺されちまった。若いやつもいいやつもいたのによ。」
マリナの傷はほとんど治っていた。談迷子は少しずつ後ろに下がり、逆にフェンリルは少しずつ前に出ている。
宗千佳とビリーがこちらに向かっているのだ。時間稼ぎは有利になる。少しでも時間稼ぎをしなくては。
ボロのスーツの男はマリナの傷が治っていくのには気付いていた。ここで一気に攻めないのは、マリナの事より談迷子の方が脅威と考えているのに他ならない。
瓦礫の影から、野球ボールくらいのサイズの浮遊ドローンが浮かび上がる。
「あんまり使いたくなかったんだけど、神風ドローンってやつだよ。」
言った側から談迷子は撃ち落とす。
同時に犬型ドローンも攻撃を仕掛けたが、
談迷子はその場からほぼ動かずにかわして、先ほどと同じく破壊した。
マリナは談迷子に語りかける。
「こちらから仕掛けよう。そのうちやられる。」
「足が治ったんなら、このまま逃げて、二人ともやられる必要はないよ。」
談迷子は今度は自分から犬型ドローンを攻撃するが、犬型ドローンは飛び跳ねてかわす。
動きに適応したのだ。
「拳銃で攻撃するやつなんてあんまりいなくてな、少し時間がかかった。」
ドローンは15体はいて、それぞれ談迷子を搭載されたカメラが監視している。
動きの全てを捉えて、拳銃の動きに適応しているのだ。
犬型ドローンは全て同じタイプに見えたが、索敵と攻撃をそれぞれ分担している。全てのカメラ、音声、熱センサー全てが連動してラームが統括している。
犬型ドローンはもう迂闊には攻撃してこない。浮遊型が追加で2機浮かび上がる。
同じく、浮遊型にも弾丸は当たらない。
ゆっくりと談迷子に浮遊型ドローンは接近する。
「逃げた方が賢明だぜ、爆薬は多くはないけど、怪我するには十分な量だ。女性を傷つけるのは性に合わないんだ。」
ジリジリと追い込まれていた。フェンリルは犬型ドローンの大部分を抑えていたから、談迷子の支援には回れない。
今度は談迷子はラームに発砲する、頭に2発。しかし、これは犬型ドローンが射線を塞いだ。
それに合わせてフェンリルが連携し、何体かの犬型ドローンを破壊する。
「俺に防御を集中させて、戦力を削るのか。久我流は違うなぁ。魔法使いとやり合うより余程怖いねぇ。流石、インディナ2世。」
談迷子は喋りだす。
「変な名前つけないで!。一応聞くけど、狙いは何?渡してもいいものなら渡すけど。」
頭を撃っておいてから交渉を始めた。ラームは要求を答える。
「逆さ桜の場所だ。あんたが、位置情報を掴んでいると聞いている。」
「・・・何よ、花見でもする気なの?」
ラームは語り出す。
「これは虚構である。桜の下には屍体が埋まる。多くの血を吸いて、桜は色づく。血を向く、逆さ桜の化粧は美しい。」
驚いた談迷子は思わず聞いてしまう。
「それをどこで?」
「知ってるだろう。かごめかごめだよ、籠の中の鳥はいついつ出会う、鶴と亀が滑った。後ろの正面だぁれ、逆さの桜下に落ちた。
籠の中の鳥に俺の雇い主が興味があるんだ。」
「・・・」
うーむ、と言い懐から手帳を取り出したラームは、その手帳を読みあげる。
「見つけた、何を埋めたのか、なぜみんなが掘り起こしたのか、その理由の逆さ桜がここにはあったのだ。私はここで研究と対策をしよう。世界が壊れないように。この黄金の間で。」
手記の署名には槇島とある。
「槇島博士の手記まで・・・じゃあ、母の話は本当だったの・・・」
ラームは手帳を閉じて、協力してほしいんだ。損する話でもないだろう。と続ける。
「残念だけど、冗談を。母も、だれもずっと見つけられない槇島博士の研究室を私が見つけられるわけじゃないでしょう。」
自信のない回答に対して目にはメラメラと好奇心が宿っているのが丸わかりである。
ラームは協力を求める言葉とは裏腹にドローンは少しずつ、さらに有利な位置どりをしていく。全てのドローンがまるでサーカスのように連動して。
「人間の脳ってのは電気信号の集合体なんだ。幸運にも自分は電子使いだから、脳にアクセスして、直接聞くことにするよ。」
その言葉は脅しであったかもしれない。マシーンに比べて人間の複雑な脳に繋いで記憶を取り出すなんてできるとは思えないからだ。
しかし、本当かも知れない。
もう談迷子の弾丸もマリナの攻撃も通じない。フェンリルの性能のみが頼りであったが、ラームはなぜか、フェンリルの対策について研究済のようだし、流石に敵の数が多すぎる。
その時であった。マシーンの音が響いて、ドローンが火柱に包まれる。
柳生宗千佳とその僚機、ビリーが到着したのである。
トレーラーで慌ていいたルルイエはほっとして、涙が出そうになった。
ラームは全く慌ててはいない。
「そもそも魔法使いと言われるやつらが、これくらいで遅れを取ると思われているのなら、頑張り甲斐があるってもんだね。」
談迷子は到着したマシーンに見向きもせず、その隙にラームに何度も発砲する。
目を離すと、すぐにラームの攻撃に飲まれるということを理解していたからだ。
つまり、5機のマシーンと魔法使いのビリーがいても、その戦力差は埋まっていないことを予感させられた。
そんな状況であった。結局、自分を守り切った談迷子に対してマリナは感動していた。手腕よりもその人を守ろうとする行動にだ。今まで謂わば超人の自分を誰も助けてくれなかった。
しかし、マリナは弱い他人を助ける義務があった。それは理不尽である。
それなのに今日はこの自分よりは大きいが小柄な魔法使いでもない、超人でもない女の子に助けられたのだ。




