第60話 指令? 炎の魔女を仲間にせよ! その5
ようやく見つけた炎の魔女――それは宿屋の女の子ルルでした。スーパー上がり症だった彼女が人格豹変したみたいに冷徹な表情を浮かべて、これからチクった少年をコテンパンにしに行きます…。
そういえば…あの少年、自分がチクったこと絶対言うなって言ってたな…。悪い。言っちゃったわ。
「どっちの方へ行きました?」
ルルは傍にいたクレアに尋ねる。自分より背が低いものの、クレアはその凄まじい威圧感に完全に気圧され、手下のように右の方を指差した。
「あ、あちらです…」
ルルは軽く頭を下げると、そのまま歩いて行った。――呆然と眺める俺達。一体何が起きたんだ?って思っちゃうよこれ…。…え?あの子が炎の魔女だよね…?もう怖くて仲間にしたくないんですけど…。
「追いかけましょう!」
エリルが先陣切って走り出した。さすがエリル。彼女の人格豹変をものともしていない様子。まぁせっかく見つけたんだし、追いかけてみるか…。
――ということで、俺達はルルの後を追う。すると、前方にはルルの姿が。カチコチの動きではなく悠然と歩いている…。…そしてその先の小さな細い道には、あのキャスケット少年が道端に座り込んでいるのが見えた。なにやらお菓子を食べているようだ。…逃げた方が良いですよ。
俺達は少し離れた位置からその様子を覗くことに。…何だこの緊張感は。
「うめぇー!こんな高級なチョコ菓子食べれるなんてサイコ―!………ん?なんか熱いな…」
少年は幸せそうにショコラを頬張っていたが、空気が急に熱くなったのを感じ、顔を上げて横を向くと、メラメラと燃える炎に包まれながら見下ろすルルの姿があった。
「あ……」
少年は一瞬にして顔中に汗が噴き出し、いたずらがバレた時の子供みたいな顔をする。
「随分と高そうなお菓子を食べてるねドリー。もしかして…私のことバラして手に入れたお金で買ったの…?」
ルルは灼熱の炎の中で冷たい視線を浴びせかける。ドリーと呼ばれた少年は慌てふためき、勢いよく立ち上がって後ずさる。
「ま、待てルル!これは違うっ!近所のおばさんから貰ったんだ!ルルも食べるか!?」
ドリーはごまかすが、ルルは信用していないご様子。
「ドリー…。往生際が悪いよ…。今、後ずさるときにポケットからお金の音が聞こえたよ?ポケットの中見せてごらん」
「あわわわわわ…!」
ドリーが普段の彼女のようになってしまった…。俺達はただ呆然とその様子を眺めている。
「ドリー!!」
「わああああ!ご勘弁をぉぉ!!」
次の瞬間、ルルは体の周りの炎を消し、両手の拳でドリーの頭をぐりぐりし出した。ドリーは地べたに座り込んで号泣している。……まぁ、火あぶりじゃなくて良かった。どうやら2人は知り合いのようだな。
俺達は2人のところへ近づく。
「ルルさん…!あの…!」
俺が勇気を出して声をかけてみる……と、ルルがぐりぐりしつつ顔を向けてきた。その目は、なんだ邪魔者か?殺すぞコラ!…って感じの目でした。
「えっと…、今日は9時の馬車でパルマに向かう予定だったんですけど…、もう9時過ぎちゃったんで…、今日はこの町に留まろうと思いまして…、良かったらもう1泊してもいいですか…?」
彼女の機嫌を逆撫でしないように慎重に尋ねる。―――すると
「えっ…!?あ…!も、もう一泊ですか…!?」
突然、ルルの態度が普段モードに変わったのだ。…いや、どっちが普段モードかわからんが…とりあえずこっちを普段モードとしよう…。
「はい。是非」
俺はにこやかな営業スマイルを見せつける。
「あ…、で、でも、その…まだへ、部屋の掃除が終わって…なくて…!」
「別に連泊なんでしなくていいですよ!それと、今夜の宿泊代はちゃんと払いますんで」
「え…!?い、いいんですか…!?そ、その……、こ、怖くないですか…?」
え?めっちゃ怖いですけど?できれば一目散に馬車に飛び乗ってこの町を去りたいですけど?
「今のうちに…!」
その時、ぐりぐりから解放された少年が隙を突いて逃走し出した。命からがら逃げていくようだ…。まぁ…死ななくてよかったな…。
「あ…!」
それに気づいたルルが手を伸ばすも、少年の姿はどんどん離れていく。ルルは顔を俯かせて表情を曇らせる。
「そ、その…、私が炎の魔女だというのは…誰にも…言わないでほしいんです…」
ルルは俯いたままそんなことをお願いしてきた。
「なんでそんな頑なに隠そうとするわけ?魔女って結構ちやほやされるもんよ?」
端から様子を見ていたクレアが思ったことを口にする。そうだよな。魔法が使える魔女は普通の人にはできないいろいろなことができる。しかも魔女の数も相当限られていて、どの町にもいるというわけじゃないんだから、ちやほやされるに決まってる。
なのに、この子は魔女であることをひた隠しにしていた。何か理由があるんだろうか…?
「…だから、隠してたんです」
ルルがボソッと口にした。
「別に…私は…ちやほやされたくないんです…。それに…怖がられるのも嫌で…」
ルルは涙をポトリと零す。…そうか。でも、あの姿を見たら多分誰だって怖がります…。
すると、ルルの前にミストが立ち、身を少し屈めて背の低いルルに視線を合わせた。
「すごくわかるよその気持ち」
ミストは優しい微笑みを向ける。もう天使ですね。
そんな天使の視線を避けられるはずもなく、ルルは顔を上げてミストに目を向けた。
「私もそう思ってた時期があったよ。周りの人と違うって良い部分もあれば嫌な部分もある。でも、せっかく魔法が使えるんだし、それが誰かの役に立てるなら、私は喜んで魔法を使おうと思う。嫌なところは克服しちゃえばいいんだし!あなたの力を求めてる人だっているんだよ?私達なんだけどね」
「……!」
ミストの言葉を聞き、ルルは何か気付かされたような表情になる。―――その時
俺達の前を3人の男たちがドタドタと走りながら横切った。男はなんと顔が狼みたいになっていた。…え?ここへきて新たな種族が…?
そしてあろうことか、そのうちの一人が少年を担いでいた。縄でグルグルに縛り付けて、声が出せないように口にテープを貼り付けていたが――その少年は、ドリーっぽかった。
「あれ……?今のって…」
突然の光景に俺は唖然として走り去っていた方に目をやる。どっからどう見ても誘拐なんですが…。
「ど、ドリー!?」
ルルは一転して慌てふためく。…せっかく良い感じになってたのに、これはよからぬ事件のにおい…?




