第59話 指令? 炎の魔女を仲間にせよ! その4
翌朝、俺とミストはエリルとクレアに炎の魔女について話し、あくまで興味があるから逢ってみようという感じで話を進めた。
「ふーん、めちゃつよ魔女かー…。このわたし、闇の魔女より強い魔女なのかなー?いや、わたしよりは弱いか…」
話を聞いたクレアが早速自分のことを持ち上げる。もうこれは強がりでは…?っていうか、闇の精霊からミストの方が強いって言われてなかったっけ?
「もうあんたは魔女じゃないでしょ。魔女だったとしても弱いけど」
「あああん!?魔女探しの前に決闘じゃコラ!!」
もう朝っぱらから喧嘩すんのやめてくれ…。もう9時は間に合わんなこれ…。
「2人とも喧嘩はだめですってばー!早く炎の魔女さん探ししましょう!」
「エリルの言う通りだ。できれば9時の馬車が出るまでに逢えれば御の字だし」
俺もエリルに乗っかり、2人の決闘を未然に防いだ。…まぁ、仮にやってもミストの圧勝だろうけど…。
ということで、俺達は手分けして町の人達に炎の魔女について尋ねて回った。俺の予想では10人くらいに訊けば、一人くらいは知ってる人がいるだろうと思ったが……。
「……知らないねぇ。魔女がこの町にいるなんて聞いたことないな」
道行くおじさんが肩をすくめてそう答える。まじかよ…。もう余裕で10人以上に訊いたぞ…。なのに、1人も知ってる人がいないってことは…
「知らないってさー。もういないんじゃないの?ってか、誰から聞いたの炎の魔女がこの町にいるって」
聞き込みを終えたクレアが気怠そうにそう言ってきた。どうしよ、どうやってごまかすか…。
「フローベルの図書館に本を返す時に聞いたの」
代わりにミストが答えてくれた。ありがとうミスト…。
「ふーん…。まぁいいけど…、あと30分しかないよ」
クレアは道端に立つ時計の針を見る。今の時刻は8時半になっていた。ううむ…、もう諦めるか?もしかしたらこの町じゃなくてパルマにいるのかもしれないし。
「早く夕暮れ時のパルマの海沿いに行きたいんだー。街がオレンジ色に染まって、海を見れば島々の間の水平線に沈む綺麗な夕日…。なんてロマンチックなの!」
「素敵ですね!私も綺麗な夕日見てみたいです!」
エリルとクレアが夕日の話で盛り上がっている…。俺も夕日見てのんびりしたいよ…。でも神様が仲間にしないとやばいって言うからさ…。
まぁとりあえず…あと30分だけ頑張ってみるか…。
「そこの人たち」
――突然、どこからか声をかけられた。少年の声だ。声のした方を向くと、キャスケットを被った少年が道端の石積みに腰かけてこちらを見ていた。10代前半、あっちの世界で言えば中学生くらいの子供だ。
「炎の魔女を探してんの?」
少年はフッと冷ややかな笑みを浮かべてそう尋ねてきた。……え?もしや知ってるパターン!?
「キミ!知ってるの!?」
俺はかなりの食い付きで少年に尋ね返した。少年は尚も表情を変えずに
「知ってるよ」
そう答えたのだ。キタァァ!!道がようやく開けたぞ!!RPGでも町の人と会話しまくることで道が開けたりするしな!諦めかけていたところだからめちゃめちゃ嬉しい。
「是非教えてくれないか!?」
俺が目を輝かせて早速情報を訊きだそうとすると―――少年は右手を差し出した。
「お兄さんの有り金全部くれたら…教えてやるよ」
少年はフッとにやけながらそう告げたのだ。ミストは少年を睨み、クレアは呆れ顔になる。
俺は少年の目をじっと見つめる。―――そして
「いいよ」
俺はそう言って、財布を手に持った。少年の顔がびっくり仰天している。…まぁお金は神様が何とかしてくれるんで…。
「ただし、先に情報を教えてくれ」
俺は条件を突き付ける。お金渡して逃げられたら嫌だしな。少年はコクリと頷く。
「わかった。…そこの建物にいる」
少年はそう言って、とある建物を指差した。――俺は怪訝な表情を浮かべた。何故なら、少年が指差したのは…俺達が泊まった宿屋だったからだ。
少年は俺の反応を見て面白そうににやけ、再度右手を差し出してきた。
「ほら、約束通りくれよ」
俺は黙って少年にお金を渡す。少年は両手いっぱいの硬貨を見て目を輝かせる。
「うわぁ!こんなに!!よっしゃぁぁ!!あんがとなー!」
簡単に感謝の意を述べて走り去っていこうとした。あ……ちょっと待て!
「魔女の名前はなんて言うんだ!?」
「ルルだよルル!あと、俺がチクったこと絶対本人に言うなよー!」
少年はそう告げて、タタタっと軽やかに走り去っていった。…ルルか。なるほど。
俺は踵を返して宿屋へと向かう。3人も慌ててそれに付いてくる。
「宿屋って…、いたのはあの上がり症の女の子だけのはず…」
ミストが俺の隣に来てそう言う。…そうだ。確かに、宿屋には壊れかけのロボットみたいな歩き方をする女の子しかいなかった。そして彼女は確かに、炎の魔女はこの町にいないと言った。つまり――――
「俺達はまんまと騙されたってわけだ!けしからん!問い詰めてやるっ!」
俺は1人意気込み、白状させるべく宿屋へと足早に進んでいく。ドタドタと歩き、宿屋の受付へと飛び込んだ。
宿屋の女の子は受付のところで何やら書類を書いていた。俺が姿を見せると、女の子はビクッと反応してこちらに目を向ける。
「あ、あの…わ、忘れ物…ですか…?」
相変わらずぎこちない口調でそう尋ねてきた。チェックアウトした人間が戻ってきたらそう思うだろう。だが、俺はカウンターに腕をついて女の子に迫った。
「ひっ…!く、クレームか何か…ですか…!?」
「違います。あなたの名前を教えてくれませんか?」
「る、ルルです…」
よし…名前は合ってるな…。それじゃあ、この子が嘘をついていたのか…問い詰めようじゃないか…。
「あなた…炎の魔女じゃないですか?」
もう時間もないので単刀直入に訊いてみた。さぁ…どういう反応を示すか…。
「ち、違います…!わたしは…た、ただの…い、一般人です…!」
「本当ですか…?嘘を…ついていないですか?」
俺は心を鬼にし、冷徹な視線を向けてルルに迫る。
「つ、つ、ついていません…!」
ルルは早速涙目になっている…。端から見たらこれは脅迫ですね。だが、俺は手を休めずに演技を続ける。
「…そうですか。いや…その、俺達は魔物退治の旅をしてまして…、これから鬼強い魔物を倒しに行くんですけど、炎の魔女がいないと勝てそうにないんですよ…。もう絶対仲間にしないとまずくて…、この町にいるって聞いたものですから……、いないってなるとかなーり困っちゃうんですよねこれ」
俺は手を額に当てて溜め息をつき、困った感じを見せる。魔物退治とかもちろん嘘なんですけどね。困るのは本当だけども。
「あわわわ!あわわわわ!」
ルルは手をワタワタし始めた。なんのパラパラ踊りですか…。
「もうこれ下手したら死んじゃうかも…。でも魔物は退治しないと多くの人が危ないし…。もうこれは死ぬ覚悟で行くしかなさそうですね…。あぁ…炎の魔女さえいれば…」
「あわわわわわわ!」
とりあえず罪悪感を感じさせる作戦でいきますが、いまいち効果が出てるのかわからん…。罪悪感を感じて動揺しているのか、はたまたただ単にコミュニケーションでテンパってるだけなのかわからん…。
「今日俺らはパルマに行かないといけないから…、あと20分足らずで出発しなきゃいけない…。あぁ…どうしたものか…」
深いため息を1つ。…これでどうだ?
「あわわわわわわわわわ!」
ルルは手を高速でワタワタさせていた…。もうさっきからあわわしか言ってないぞ…。
「ルルさん!お、落ち着いてください!」
すると、後ろでやり取りを見ていたエリルが前に出てきて、ルルを落ち着かせようとする。
「キャスケット被った男の子から聞いたんです。ルルさんが炎の魔女だって!私も炎の魔女さんに逢ってみたいなぁって思ってるんです!」
エリルは何の悪気も無くニコッと笑みを浮かべてそう言った。…そう言ったのだが―――
次の瞬間、ルルは手をピタリと止めて顔に影を落とした。……ん?
ボゥ!!
途端、ルルの周りが勢いよく燃え上がったのだ!えっ!?えっ!?あっつい!!
俺とエリルはびっくりしてカウンターから離れた。……てか大丈夫なの!?
「キャスケット被った男の子から聞いた……?それ…本当ですか……?」
ルルは炎に包まれながら、これまでと真逆の表情で聞いてきた。お、怒ってるの…?てか口調も変わったし…。
「は、はい…!」
エリルは驚きつつも頷いた。…すると、ルルの体の周りの炎が消え、彼女はゆっくりとカウンターから出てきてそのまま外に出ようとした。
「ちょ、ちょっと…!どこいくんですか!?」
無言のまま出ていこうとしたルルを俺が引き止めようとすると、彼女は立ち止まって顔を半分振り向かせた。これまでと打って変わって冷酷な表情を浮かべている。ラスボスと言っても違和感ないくらい…。
「そいつをコテンパンにしてきます」
ルルはそう告げて外に出ていった。………え?あの少年死んじゃうんじゃないの??




