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方向音痴の半竜娘は旅がしたい  作者: 揚げパン大陸
第2章 シャロル海の船旅
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第57話 指令? 炎の魔女を仲間にせよ! その2

 日もだいぶ暮れた17時過ぎ、80キロの道のりを辿り、ようやくメルリーの町についた。…疲れた。乗り疲れってやつかこれ…。とりあえず今宵の宿を探さないと。

 わりと小さな町っぽいけど、宿はいくつかあるだろう。


「今日もこの私にふさわしい豪華な宿にしないと!」


 クレアが張り切って良い宿探しをしているが、ミストが呆れ顔を浮かべる。


「宿代はユウキに出してもらってるんだから、ちょっとは慎んだら?」


 ありがとうミスト言ってくれて。ぶっちゃけご都合主義でお金の心配はいらないのだが、ATM扱いされるのは心にグサグサ来るので、そう言ってくれるのは非常に嬉しい。


「せっかく元の姿に戻れてウキウキしてるんだから、ちょっとくらいわがまま聞いてよね!」


 ガン!!


 なんか鈍い音が響きました。えぇ、上から木製の看板が落っこちてきて、クレアの頭に直撃しました…。南無…。


「あが……」


 クレアはそのまま白目むいて倒れてしまった。突然のできごとに呆気に取られる俺達…。看板が落ちて頭に当たる確率って…どのくらい?


「く、クレア!?大丈夫ですかっ!?」


 エリルがワンテンポ遅れてクレアを抱きかかえる。クレアは口をあんぐりと開けて気を失っていた。ミストはじっとその様子を傍観している。多分、天罰が下ったと思ってるだろう。


「その看板、宿屋の看板だね」


 ミストが看板を見てそう告げる。確かに、宿屋って書いてあるな。

 ふと横に目を向けると、わりと年季の入った木組みのこぢんまりとした建物があった。


「ここにするか」


 倒れたクレアを担ぐのもアレだし、まぁ何かの縁ということで…。2人も同意したので、ここに決定。

 とりあえずクレアを担ごうとしたら、ミストが魔法で道端にある消火用の水を操り、クレアに巻き付けて持ち上げた。おぉ…そんな使い方もあるのか。

 中に入ると、受付には俺達と同年代だろう女の子が立っていた。淡い栗色のミディアムヘアに丸っこい瞳の大人しそうな見た目をしている。


「あ…いらっしゃいませ…」


 女の子はたどたどしい口ぶりだ。この宿屋の人だろうけど、あんまり慣れてないのかな…?アルバイトとかそう言う感じ?


「ここの看板が落っこちましたよ」


 俺はそう言って看板を差し出す。…と、女の子が慌てふためいた。それも体全体でわたわたする感じで。


「えっ!?あっ!す、すみませんっ!!あわわ…!ま、まさか…その気を失ってる人…この看板が当たって…!?」

「別に気にしないで。この子頑丈だから」


 オドオドして謝る女の子に対し、ミストは平然とそう告げた。…まぁ、あながち間違いではないけども…、悪意を感じる…。


「す、すみませんっ!すみませんっ…!どうお詫びすれば…!」

「あの!ここに泊まってもいいですか?」

「あ…、あわわっ!」


 エリルが元気よく尋ねる。その勢いに女の子はたじろいでしまう。俺とミストは苦笑い。しかし、女の子は勇気を出して拳を握りしめる。


「も、もちろんですっ!怪我をさせてしまったお詫びに宿代は取りません!どうぞっ…お部屋にご案内しますっ!」


 女の子は先頭に立って案内してくれるものの、動きがカチコチである…。極度の上がり症ですな…。親の手伝いをしてるとかか。


「ご両親のお手伝いしてるんですね。偉いですね」


 俺が悪気も無くそう言うと、女の子は立ち止まって振り向いた。


「い、いえっ…!私が、この宿屋の管理人ですっ…!…というか、私しかいません…!」


 まじかよ…。なのになぜそんなに緊張してるの…?この宿全然人来ないの…?なんか…心配になってきた…。建物は結構年季入ってるし…、部屋はどうなんだ…?ドキドキしてきた…。

 少し行くと、女の子が立ち止まって、震える手を部屋に向けた。


「こちらの4部屋をお、おつかいくださいっ…!」


 えっ?4部屋もいいの!?見た感じ他に部屋無さそうだけど…。


「全部の部屋使っちゃっていいんですか?」


 俺が尋ねると


「だ、大丈夫ですっ…!他に泊まる人いないので…!」


 女の子はそう言って、4つの部屋のドアを順々に開けた。


「ど、どうぞっ…!」


 とりあえず、部屋を拝見してみよう…。どんな感じなのだろうか…。

 ドアの先に顔を覗かせると―――あれ?意外と綺麗だ。きちんと清掃されてるし、小物類も整えられている。ベッドのシーツもしわ一つない。


「で、ではっ…!わたしはこれで…」


 女の子はそう言って、案内が終わったにもかかわらずカチコチな動きで去っていく。…あ。


「あ!ちょっと待ってください!」


 俺が呼び止めた。“アレ”をついでに訊いておこう。女の子はロボットのような動きで振り返る。


「は、はい…!?な、なんでしょう…!?」


 いやいやそんなびっくりせんでも…。


「この町に炎の魔女っていますか?」

「ほ、炎の魔女…!?い、いないです…!この町には…!」


 女の子はそう告げて、再び壊れかけのロボットのように歩いて行った。

 …えっ!?いないの!?マジかよ神様嘘ついたのかよ!…まぁあの神様なら嘘つきそうだな…。


「うわー!お部屋きれいですー!」


 部屋に入ってはしゃぐエリルの声が聞こえてくる中、ミストは部屋の外から水を操ってクレアを部屋に運び、ベッドにそのまま寝かせると俺の方を向いた。


「ユウキ、あの手紙…もしかして誰かがユウキに宛てたもの?」


 俺は視線を合わせずに冷や汗を垂らす。やばい…バレそう。いや…神様が書いたとはさすがにわからないか…。


「ユウキ…何か隠してない?」

「!?」


 ふと顔を横に向けると、ミストの顔が目の前に迫っていた。いやぁぁ!!近い近い!!


「やっぱり隠してる。もうバレバレだよ」


 え…?まじ…?もうこれ隠せないやつ…?え…?神様、ミストにバラしてもいいですか??何もペナルティないですよねっ!?

 俺は冷や汗を滝のように流す。それでもミストは俺に顔を近づけていく。


「さぁ白状して」


 やばい…!もう鼻同士がくっつきそうな近さだ…!――その時


 ヒラ…と、紙切れが俺の頭に乗っかった。……どっからきたんだよ。

 紙切れには文字が書いてあった。一言“いいよ”とだけ書いてあった…。……あんの神様、今度会ったら説教してやる!!


「いいよ…?なにこの紙」


 ミストが紙切れを見て首を傾げているその時、俺はガシッと彼女の肩を掴んだ。


「えっ!?な、なにっ…!?」


 真面目な顔で肩を掴む俺を見て、ミストは一転、顔を赤らめて動揺している。


「ミスト、実は俺…」

「えっ…!??」

「神様とおしゃべりできるんだ」

「………………は?」


 ミストは何言ってんだコイツという目で俺を見たのだった。

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