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方向音痴の半竜娘は旅がしたい  作者: 揚げパン大陸
第2章 シャロル海の船旅
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第56話 指令? 炎の魔女を仲間にせよ! その1

 朝の8時過ぎ、俺達を乗せた馬車がゆっくりと進み始めた。…ついにフローベルを去る時が来てしまった。もうあのストロベリートルテが食べられないと思うと寂しい…。いや、他の町でも実は売ってるかもしれない!そう思うことにしよう。

 それはそうとして、本日の目的地は80キロ先のメルリー。一日の移動距離としては過去最長だったりする。まぁ、次なる目的が遠く離れたハートフィルに行くことだから必然的にそうなるのだが。

 歩かなくていいのは楽ではあるが、いかんせん暇だ。あっちの世界のようにスマホを弄る事に慣れていると、その手段を失った場合にこうも時間つぶしが難しいのかと気づかされる。


「あ!この街に来て最初に泊まった宿です!」


 外を眺めていたエリルが不意に声を発する。彼女は暇して無さそうなのが羨ましい。


「えーどれどれ…。あんなボロッちいところに泊まったの?」


 エリルが指さした建物を見つめてクレアが失礼なことを言う。確かに見てくれは若干貧相ではあるが…、ボロッちいは言い過ぎだと思う。


「ボロくないですよ!旅慣れてる私からすれば立派な宿ですよ」

「ごめんごめん。わたし箱入り娘だから」

「え?箱じゃなくて本ですよね?」


 うまいこと言うな。エリルはナチュラルに毒を吐くタイプなのか。さすがのクレアも怒らずに一本取られたという顔をしている。クレアとの相性抜群というべきか。この2人なら漫才師目指せると思う。

 一方、ミストは静かに外の流れゆく景色を眺めている。…まるで、もうこの街には二度と来ないかのように、名残惜しそうに感じる。そして…彼女からポツリと一言。


「結局ハムスターには会えなかったな…」


 ドテッと思わず肩透かしを食らう。そうだったそうだった…ミストは無類の小動物好きだったな。確か…クベスの小物屋でもまた会いたいとか言ってたな…。小物屋といえば……あれは…いつ渡そうか…。


「あらら、ミストったらハムスターが恋しいの?ハムスターなんて超メジャーな愛玩動物。この先の町でいくらでも見れるじゃない」


 クレアがやれやれと肩をすくめながらそう告げると、ミストが視線を景色からクレアに向ける。その目は明らかに邪険にしている目だ。そんな視線をものともせず、クレアは恐らく図書館で蓄えたであろう知識を存分に披露し始める。


「モルテナ山にはねー、モモンガっていう空飛ぶリスみたいなかっわいい動物がいっぱいいるの~。見たことないでしょ~?」

「………」


 クレアのわかりやすい挑発にミストは無言の睨みを利かせている…。もう…この2人仲良くできんのか…。すると、そこに救世主が。


「空飛ぶリスですか!?見てみたいですっ!!私も空飛びたいんですっ!モモンガを見れば、何かヒントを得られるかも!」


 エリルがのめり込むように勢いよくクレアに迫る。思いもよらぬ食いつきっぷり…。クレアも予想してなかったのか、たじろいでしまった。


「クレアは見たことあるんですか!?羨ましいです~~!」

「いや…実は一度も見たことなくて…。モモンガって警戒心強くて…人の気配感じるとすぐ逃げちゃうらしいし…」

「あたかも見たかのように話すクレア。さすが詐欺師だっただけあるね」


 クレアが白状した途端、ミストの仕返しタイムスタート。容赦のない言葉選びはさすがだ。


「詐欺師じゃねぇし!!闇の魔女だし!!」

「私達のこと散々騙したし、詐欺師みたいなものでしょ」

「このぉ~~!人が魔法使えないのをいいことに~~!」


 苦虫を噛み潰したような顔になるクレア。…最近、クレアが自慢して、エリルが介入して、最後ミストに仕返しされるって言う構図が出来上がってる気がする…。

 …にしても、こんなに自然溢れる世界なのに…動物たちの警戒心はあっちの世界とほとんど変わらんな。だったら魔物も出てくるなって話だ…。ってか、クレアって魔物従えたんだよな。


「モモンガは魔物にしなかったのか?」


 いや、魔物のモモンガなんか見たくないけど…。単純に興味で訊いてみた。


「モモンガ魔物にしたって迫力ゼロでしょ。バカじゃないのあんた」


 クレアは冷ややかな軽蔑の目を向けてきた。え?なに?訊いただけでバカ呼ばわり??

 すると、俺の代わりにミストがクレアを睨み付けた。


「そうやってすぐ人のこと下に見るの良くないと思うよ?」

「別に~見てないけど?そう見えちゃったぁ?」


 クレアも負けじと睨みを利かせる。そしてお互いに顔を近づけていく…。


「っていうかモモンガも結局見たことないんでしょ?なんでもすぐ下に見るから、動物にも嫌われてるんじゃない?」

「き、嫌われてねーし…!こちとら魔物従えられるんだけど??」

「それは魔法で無理矢理従えてるだけでしょ。しかも別にそんな強くないし」

「ああん?あんたこそ水がないと何にもできないでしょうが!砂漠だったら勝ち目ないじゃん」

「砂漠なんか行かないから。それとも私が負けるところどうしても見たいの?強がり?」

「ああん!?ああん!?やんのかコラ!今すぐ馬車下りて決闘するぞコラ!」


 クレアがもはやチンピラみたいになってる…。2人とも喧嘩っ早すぎ、ここは馬車の中ですよ…。


「ふ、2人ともっ!喧嘩はよくないですー!」


 エリルが慌てて止めに入る。もはやこの場を止められるのはエリルだけだな…。俺が止めようとしたら殴られそうだし…。

 エリルのおかげで2人は言い争いを止め互いに顔を離す。…そしてそっぽを向く。……これ、ハートフィル着くまでにあと何十回喧嘩するんだろうか…。

 ――なんて思いながら外の景色を眺めていると、風も強くないのにどこからか紙切れが飛んできて、俺の顔にちょうど良く貼りついた。え…まさか…。

 もう嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしないけど、これで捨てたら罰が当たりそうなので…大人しく見ることにします…。

 紙を顔から取り除いて視線を向けると―――


“メルリーには炎の魔女がいるよ!仲間にしてね!以上!”


 と、手短な指示が書いてあった。“神より”と書かれていないけど、どう見てもあのちゃらんぽらん神様ですね。どうもありがとうございました。


「何か書いてあるの?」


 俺が呆れていると、ミストが横から覗きこんできた。俺は反射的に紙をミストから見えない位置に逸らす。


「あ、いや…!なんも書かれてないよっ…!」


 動揺したので嘘言ってるの丸わかりだな。反省…。案の定ミストは怪しんで、何とか紙に書かれた内容を見ようと体を近づけて腕を伸ばしてきた。…近い!近いです!


「ミストさん!ち、近いです…!」

「じゃあ見せて」

「どんな脅しっ!?」


 ミストがこんな脅しを使うとは…。めちゃくちゃ弱み握られたみたいだ…。まぁ、神よりって書いてないから別に見せてもいいか。俺は頭が沸騰する前にさっさとミストに見せることに。ミストは視線を紙に書かれた文字に移す。


「炎の魔女を仲間に…?一体誰が誰宛に書いたんだろう…?」


 ミストは首を傾げるが、答えは簡単です。神様が俺宛に書きました。…まぁ言えないっすね。にしても、ここで新たな魔女に逢えるわけか。でもメルリーは中継地点だから、今晩泊まって明日の朝にはパルマに向かう予定だったんだけどな…。

 てか、神様、お願いだからもう少し情報くれません??メルリーの町がどれくらい大きいのかわからんけど、町の人に訊けばわかるかな。炎の魔女か…。一体どんな人なんだろうか…。なんとなく、勝気な女性な気がする。なんとなく。


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