第39話 哀感?現実は非情なり
「起きて…起きて…」
頭の奥底で呼びかけるような声がして、俺はゆっくりと意識を取り戻した。
「…んあ!?」
とんでもなく間抜けな声を発してしまった。もしかするとよだれも垂れていたかもしれない。…それはさておき、目を開けた俺は勢いよく上半身を起こした。
視界に映ったのは、あの神秘的な池……ではなく、馬車の中だった。
「あれ??池…じゃない!?」
「池…?夢でも見てたの?」
隣でミストが怪訝そうに見ている。この感じ……あれ、おかしいな…。
頭の中がこんがらがっている。俺とミストは、クレアに乗っ取られて脱走したエリルを先回りして、モルテナ山の中腹にある池に向かい……そこで俺はミストに告った。――何の脈絡もないな。
いやいやいや…!まさか、えっ!?夢!?あれ夢だったの!?まさか夢オチ!?
「ユウキ!クベスに着きましたよー!」
そこには、クレアに乗っ取られて脱走したはずのエリルの姿が。脱走間際に見せた不敵な笑みはどこへやら…、いつも通りの無邪気な笑みを浮かべていた。…なんだよ。乗っ取られてないじゃんか。…まぁよかった。
嬉しいのか悲しいのかよくわからない気分の中、俺は2人の後に続いて馬車を降りた。久しぶりに太陽に照らされて思いの外まぶしい。だんだん目が慣れてきてようやく辺りに目を向ける。石畳の道の両脇には石造りの家々が並んでいる。フローベルよりは明らかに規模が小さいが、そこそこ活気がありそうな町だ。
えっと…とりあえずどうしようか…。なんか旅行先で目当てのところが閉まっていて、一瞬予定が真っ白になる時と同じ感じだ。
「あっ!あれがモルテナ山ですかね?」
エリルが西の方角を向いて指差していた。その先にはランドマークとでも言っていいくらい目立つ山の姿が。地図にも載ってるくらいだし、多分あれがモルテナ山なんだろう。…仮に違ったとしてもそう思っておこう。
すると、エリルが手に持っていた本がバサッと開いてクレアが飛び出した。
「おぉー!母なる山よ!懐かしいー!」
クレアはモルテナ山を見て感激している。そしてなんと感激しすぎて涙まで流し始めた。
「う…う…。もう二度と拝めないと思ってたのに……。再びこの目で見れて嬉しいよぉー!!」
号泣するクレアに、そこまで感激しなくても…と思ってしまったが、彼女にとってモルテナ山は特別なのだろう。ずっとフローベルの図書館に閉じ籠っていたわけだし、懐かしの風景を見れば涙も出るのかもしれない。…俺も元の世界に戻ったら涙が出るのかな。
…おっと、いかんいかん。下向きな感じになってしまった。
今はもう日が傾いて夕方になっている。クレアもいくら早く行きたいからといって、今から俺達を山に連れて行こうなんてことはさすがにしない。というか、仮に行くと言っても俺らが拒否する。山で野宿とかほんと無理。
…ということで、今日はクベスに泊まり、明日の早朝に山へ向かうことで合意した。
宿も見つかって、町をちょっと散策したり夕食を食べたりしてゆったりした時間を過ごす。…なんかもう冒険というか旅行ですな。この世界に来た当初は、妖精に道案内されたり魔物に襲われたりとファンタジックな感じだったが、今やヨーロッパのどっかに旅行に来てますって言っても違和感がない。…まぁ、ドラゴンハーフと魔女と一緒なんだけども。
夕食の後、宿に戻る道中で俺はチラッとミストに目を向ける。
「なに?」
ちょうどよく彼女もこちらを向き、怪訝そうな表情を浮かべる。……あの天使のような笑顔は、どうやら俺の頭で思い描いた空想だったようだ。
あんまりジロジロ見てると、彼女に冷たい視線を向けられそうだったので、俺はおとなしく視線を前に向けてトボトボと足を進めた。…なんというか、現実を突き付けられたような気分だ…。




