第33話 出発!モルテナ山へ その1
フローベル3日目の朝。さすがに今日も観光…というわけにはいかない。名残惜しいがこの街ともお別れだ。
「今日こそはモルテナ山に行くんだからね!」
クレアが朝からやかましいくらいに元気だ。朝が弱い俺にとっては羨ましいと言うか、その溢れる元気はどこから来るんだと不思議に思えてくる。
そして俺はふと、ミストの方に目を向けた……が、彼女と0.5秒くらい目が合った後、目を逸らされてしまった。……昨日のアレは…夢だったんだろうか。
気を取り直し、俺は街で手に入れた広域地図を広げる。精度は高くなさそうだが、モルテナ山もきちんと載っている。ざっと見た感じ、ここから北に60キロくらい離れている。…休憩なしで歩いたとしても15時間かかる…。今朝の8時だから、着くのは夜の23時か。うん、死ぬな。
「歩く以外の手段ってないのかな…」
鉄道とか車を期待するわけじゃないけど、これから60キロ歩くと考えると尻込みというか軽く絶望してしまうので、ちょっとでも楽できる方法が無いか模索したくなるのだ。
パカ…パカ…パカ…
そこへ、軽やかな蹄の音を立てながら、2頭の馬が引く屋根付きの馬車が通りかかった。
「あっ!駅馬車です!」
エリルが指差してそう言った。…なるほど駅馬車はあるのか。ちょっと希望が見えてきたぞ。
「モルテナ山の方に向かう駅馬車もありそうじゃないか?」
「ちょっと地図見せて」
すると、ミストが近づいてきて俺の持っている地図を覗きこんだ。……近い。近い近い!
「ミストに地図渡すよ!」
俺は慌てて地図をミストに押し付けるように渡す。
「……。モルテナ山の麓にクベスっていう町がある。そんなに大きな感じじゃなさそうだけど、そこに行く駅馬車があるかも」
地図をミストが持ったまま、俺達はクベス行きの駅馬車に乗ることにした。
いや~、馬車があって良かった~。スピードは遅いとはいえ、自分の足で歩かないだけだいぶマシだ。馬車に他の客は乗っておらず、3人が横になれるくらいのスペースがあった。所要時間は7時間ほど。…よし、寝るか。
寝ているだけで目的地に着けるありがたさに感謝しつつ、早速上半身を寝かしてみる。…と、ふとミストが視界に映った。彼女は壁にもたれる形で座り込んでいる。のんびりした雰囲気の中、頭をコクリコクリと動かしてウトウトしている。
「……なに見てるの」
ミストと目が合ってしまい、彼女は不機嫌そうな表情を浮かべた。俺は気まずくなってきて、体を横に向けてその場をやり過ごそうとする…が、なんだか落ち着かない。結局、体を反転させてミストの方に向き直った。
「横になった方が気持ちいいぞ?」
俺が横になるのを勧めると、ミストは軽くため息をつくものの、素直に体を寝かせた。
「…あんたはいつまでこの世界にいるつもり?」
「エリルを実家に送り届けるまでかな…」
「渦潮は見ないの?」
「まだ気になってるのかよ。それならあっちの世界の、それもわりと遠くないところで見れるし」
「ふーん…」
会話はそこで途切れたが、ミストが何を思ったのかはよくわからないし、考える間もなく眠気が襲ってきて、心地よい眠りへとついたのだった。




