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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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森の支配者

紫音が放った強烈な一撃が紫音の何十倍もの体格差があるグリゼルを地面へと殴り飛ばした。


今、目の前で起きた信じられないその光景に紫音のことをよく知らないフリードリヒ王子とユリファは驚きのあまりしばらくの間、呆然としていた。


「な、なんだ今のは……。あれは本当に……人間か?」


「それにあのドラゴンにも似た妙な姿……あれは魔法の一種なのでしょうか?」


次々と目の前で起きる未知の現象に二人は脳の処理が追い付かないでいた。

二人のそのような姿を横で見ていたメルティナは、これで紫音の評価を改めてくれるのではないかという淡い期待を抱いていた。


(シオンさんならきっと……)


この戦いに勝てると、メルティナは今の一撃でそう確信していた。

しかし、紫音とフィリアはそうは感じていなかった。


「フィリア! 追撃だ! 奴に体勢を立て直す隙を与えるな!」


「分かっているわよ!」


紫音の指示にすぐさまフィリアは応える。

口から巨大な炎の弾丸を形成し、グリゼルに向かって放つ。

その弾丸を何発も連続で放ち、空から雨のように降り注ぐ。


ドドドドドオオオオンッ!


フィリアが放った炎は、重く鈍い音を次々と鳴らし、グリゼルを襲う。グリゼルがいた場所には土煙が生じており、その姿を確認できていない。

もし直撃しているなら相当なダメージを負うことになるだろう。


「これでどうよ」


「……っ!? いや、待て……」


なにかに気付いた紫音は、フィリアに手を向け、制止するよう促す。


次第に煙が晴れていき、今まで見えていなかったグリゼルの姿を視認できるようになっていた。


「……言っただろ。最初の一撃だけは受けてやると……」


煙の中からグリゼルの声が聞こえてきた。

その言葉にすぎに反応し、紫音とフィリアは、戦闘態勢に入る。


煙が晴れていき、ようやくグリゼルの姿が拝めるようになる。

いったいどうやってあの攻撃を防いだのか、それとも単純に耐えたのか、あと少しすればその疑問も同時に晴れることになる。


「……っ! あ、あれは……」


「そういうことか……」


煙が晴れ、紫音たちがまず目に映ったのは、数本の大樹。その大樹がまるでグリゼルを守るように壁になっていた。

もちろん、これらの大樹は先ほどまでなく、グリゼル自身が移動したわけでもない。


おそらく答えは、グリゼルが戦闘前に口()()()()が関係しているのだろう。紫音はこの異様な光景についてそのような考えに至った。


「さあ、次は俺の番だ。……ッ!」


突如、グリゼルが立っている周囲の地面が大きく突出する。それも一つではなく、次々とまるで連鎖するように地面が盛り上がる。


先の読めない状況の中、紫音たちが警戒していた次の瞬間、


「……なっ!?」


盛り上がった地面から次々と樹根(じゅこん)が出現し、紫音たちに襲い掛かる。


「フィリア! 撃ち落としながら全部躱していけ!」


「くっ! 全部って無茶な注文してくるわね」


文句を言いつつもフィリアは向かってくる樹根に応戦しようと動き、紫音も協力して応戦する。

紫音は炎竜弾を、フィリアは炎の弾丸を放ち、次々と樹根を撃ち落とす。それでも次の樹根が紫音たちを襲い、とてもすべてを撃ち落とすことはできずにいた。


(やっぱりこいつ……ローゼリッテと同じ能力を持っているのか)


生き物のように動くその樹根を見て紫音の脳裏にローゼリッテの姿が映る。

ローゼリッテも樹根ではないが、血液を操る能力を持っている。それに加えてグリゼルが戦闘前に発した「森を司る龍」という言葉。

それらを踏まえて十中八九、グリゼルには樹木を操る能力を持っていると予想できる。


(大丈夫だ。ローゼリッテから操作系の能力の弱点を教えてもらっているからそこを突けばいい。……後は攻撃を喰らわなければ問題ない)


紫音は対亜人戦や魔物戦においてほぼ無敵の力を持っているが、弱点もある。

それは、純粋な亜人らの攻撃ではないもの。肉弾戦や魔法において無力化できるが、グリゼルのように操作系の能力で攻撃してくる相手には攻撃が通ってしまう。


操作しているといっても実際に攻撃をしているのは樹根のためグリゼルによる純粋な攻撃ではないため紫音の力が及ばない。

これと同じように武器を使用しての攻撃も同じ理由で紫音にとっては弱点ともいえる。


「これ以上好きにさせるわけにはいかないな……。フィリア、俺が合図したらあいつに向かって突進してくれ。道が開けたら後はこっちが仕掛ける番だ」


「……ああ、そういうことね。いいわ、ついでに向かってくるあの厄介な根っこも撃ち落としてあげるわ」


「頼んだ」


すぐに紫音の意図を理解したフィリアは紫音の指示に対して首を縦に振る。

その後、紫音たちはすぐには動かず、反撃の機会を窺うためグリゼルの攻撃に防戦一方でいた。


襲い掛かってくる樹根を撃ち落とし、撃ち漏らしてもその攻撃を躱す。そのような状況が続いていた。

しかし、それもいつまでも続くわけがない。


すべての攻撃を対処しきれず、徐々にグリゼルの攻撃を喰らうようになっていた。

紫音は自身に強化魔法をかけているうえ、小さく狙いが定まりにくいためか、奇跡的に直撃は回避している。

一方フィリアは、でかい図体(ずうたい)のせいで的になりやすく、躱しきれないでいる。さすがに直撃は避けているが、攻撃が掠るようになっている。


(あまり時間をかけていられないようだな。……だが、もうすぐ射程圏内だ)


「どうした? 手も足も出せない状況か? もっと俺を楽しませてみろよ!」


興奮したように声を上げるグリゼル。

まるで戦いを楽しんでいるような様子で休むことなく攻撃をし続けている。


(ここだ……ライム3(スリー)――放出!)


「ガハッ!」


突如、グリゼルの後頭部に小さな爆発が発生した。

脳を揺らすような衝撃にグリゼルは苦悶の表情を浮かべる。


「だ、誰だ……」


グリゼルは後頭部に未だ走る痛みに耐えつつ攻撃してきた犯人の顔を拝むため後ろに顔を向ける。


「おいおい……なんだよこれは」


そこには、紫音の従魔のライムが樹の上からグリゼルを狙うように立っていた。


「まさかスライムに一発喰らわされるとはな……。ここは潰しておくか」


言いながらグリゼルは、攻撃に参加していない樹根を操作し、ライムを排除した。


「しかしなんだ今の攻撃は? スライムにあんな攻撃なかったはずだ……」


思いもよらぬ犯人にグリゼルが戸惑う中、グリゼルはある違和感を覚えていた。


(しかしなぜここで奇襲を……? 威力はあるが、簡単に潰せるほど脆い。……相手にもならないではないか……いや待て。……まさかこれは陽動!?)


ハッとある可能性に気付いたグリゼルは、紫音たちの方へと顔を上に向けさせる。


「チッ! やはり陽動だったか。……っ! まずい……能力が機能していない!?」


上空からフィリアが猛スピードで降ってきている。

それも一直線にグリゼルに向かって突進してくる勢いだった。


本来ならここで操作した樹根で対応するはずだが、なぜか樹根は停止した状態で元の大樹の状態に戻ってしまっているように見える。


「バカ正直に真っすぐ向かってくるとはな……。嫌いじゃねえが、無防備すぎるんだよ!」


今度はこちらがフィリアを撃墜させようと、停止している樹木を操作しようとする。


「……うっ!? くっ!」


樹根に意識を集中させようとしたとき、突如激しい痛みが後頭部に走る。あまりの痛さに目が霞んでしまうほどだった。


(グリゼルの支配が及んでいないのか? でもこれなら……私の敵じゃない)


停止したままの樹根にグリゼルの能力が発動していないと読んだフィリアは、厄介な樹根を降下しながら潰していく。


紫音から聞いた通り操作系の能力にはある弱点がある。

術者は操作系の能力を発動するとき操作する物体に常時、意識を集中する必要がある。グリゼルの場合はそれが何十本もあるため当然、それだけの集中力が必要となる。


ここで意識を逸らす、または途切れるようなことが起きれば能力が消え、元の状態に戻ってしまうという弱点がある。

これは二年前のフィリアとローゼリッテの対決の中でも同じようなことがあったためフィリアにもすぐに理解できた。


突如舞い降りた絶好の機会にフィリアが逃すわけがない。

炎の息吹を吐きながら上空で停止した樹根を焼き払いながらグリゼルまでの道を作る。


「まさかスライムの攻撃で能力に支障をきたすとは……。いいだろう、来い! 今度はぶつかり合いと行こうじゃないか!」


徐々に距離を詰めてくるフィリアに樹根の操作が間に合わないと判断したグリゼルが接近戦での戦いに向かい打つ。


「ハアアアアアアッ!」


気合を入れた咆哮を上げながらフィリアはグリゼルに向かって突進する。


ガンッ!


まるで硬い岩同士がぶつかったような音が響き渡る。

フィリアがグリゼルに頭突きに似た突進を仕掛けるが、グリゼルはよろけることなく、真っ向からフィリアの攻撃に耐えていた。


「どうした……。これで終わりか?」


「っ! ま、まだよ……」


羽をはばたかせ前へと力を加えるが、グリゼルはびくともしない。


「この程度では俺は倒せねえぞ!」


「この!」


フィリアは、いったんグリゼルから離れ、すぐさま腕を振り下ろし、グリゼルの顔面に拳をお見舞いしようとする。

しかし、その拳はグリゼルが手を伸ばし掴み取られることで防がれてしまう。


「……っ!」


攻撃の手を緩めることなくフィリアは次の攻撃に出る。

空いたもう片方の腕を振り下ろし、同じように拳を放つが、その攻撃を読んだグリゼルによって容易に防がれてしまった。


「今度はこっちから力比べと行こうじゃないか」


グリゼルはフィリアの両手を逃がさないように掴み取り、前へと押す力を強める。

ここで引き下がるわけにはいかないフィリアは、負けじとこちらも両腕に力を込める。


二人の竜人族による押し合うが突如、開始されるが、その均衡を長く保つことができるわけがない。

やはり大人と子どもの力の差という単純な話なのか、一時は、互角のように見えたが、徐々にグリゼルの方に分があるように見える。


「くっ……」


押し負けないよう全体重を前に掛けながら力を入れるがそれでもグリゼルには通用しない。


「やはりこの程度か……。ここは負けを認めてもう少し大きくなってからまた挑むんだな」


「あんたバカでしょう……」


「……ん?」


「あんたとの力量差なんて戦う前から分かり切っていることなのよ。……それなのにどうしてこんなマネしていると思う?」


(……? どういう意味だ……っ!? ま、まさかこれも――ハッ!)


「悪いが、こちとら早々に負けを認めるわけにはいかないんでね」


グリゼルが気付いたときにはもう遅い。

いつの間にか二人の間に入り、グリゼルの懐に入り込んだ紫音が攻撃の態勢に入っていた。


赤く燃え盛る炎を拳に纏わせ、ガードが空いた懐に狙いを定め、拳を振るう。


「ハアアァッ!」


「グハッ!」


開始時にグリゼルが受けた強烈な一撃が今度はグリゼルの鳩尾に入る。


(こ、こいつ……。これも陽動だったのか)


腹から全身に走る痛みに襲われながらグリゼルは恨めしそうに紫音を睨み付ける。

戦いはまだ始まったばかりだ。


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