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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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開幕の一撃

切り札などという発言をしている紫音の右手の人差し指には指輪が()められていた。


「ふーん、それで、その指輪がいったいなんなのよ?」


「この指輪、ティナが来る前に侵入者から手に入れた戦利品の一つなんだよ。……それで詳しく調べたところ『賢王の指輪』っていう魔道具でどうやらこの指輪の力によって契約した使い魔を呼び出される効果を持っているみたいなんだ」


「なるほどね……それで紫音の従者を呼び出すってわけね。……ん? でもそれなら、もっと早く使えばいいのに。魔物の軍団を引き連れることもできたはずでしょう」


「お前は俺を襲撃者にでも仕立てるつもりかよ。……そんなことするわけないし、そもそもこの指輪は一方通行なんだからそんなことしたら後のことが面倒だろ」


「なによそれ……。その魔道具、呼び出したら帰すことできないの?」


フィリアの質問に紫音は黙って頷いた。

紫音も初めのうちは歓喜に震えていた。この魔道具は、テイマーのように多くの使い魔を使役する者としては喉から手が出るほど欲しい代物。

これさえあれば、どんなに遠く離れた場所でも使い魔を呼び出すことができる。


しかし、この魔道具にはどうしようもない欠陥があった。

指輪に魔力を込めることで何体でも使い魔を呼び出すことはできるが、その後、元の場所へ帰すことができない。

そのため下手に大量の使い魔を呼び出したとしたら後々、面倒なことになる。


「使い勝手は悪いが、ここぞってときには役に立つんだと思うんだよ。……例えば、今とか……」


紫音は、魔道具を嵌めている手を前へ差し出しながら魔道具に魔力を込める。


「到着する前にフリードリヒ王子たちからドラゴンについての情報は聞き出したから……よし! あいつらに任せるか。召喚(サモン)――ハク、アディ!」


召喚の口上を詠唱すると、賢王の指輪から眩い光が溢れる。

その光が現れたと同時に紫音の前に二つの魔法陣が展開され、その魔法陣の上に白い狐に緑髪の女性が現れる。


「ハク、アディ。いきなり召喚して悪いが、今から戦闘が始まる。強敵だがお前たちがいれば勝てる戦いだから協力してくれ」


ハクと呼ばれた白い狐は、普通の狐と比べて雪を被ったような真っ白い毛並みの他に体も大きい。傍から見ると、紫音の背丈と同じくらいある。

もう一方のアディと呼ばれた女性は、一見人間に見える容姿だが、それは上半身まで。彼女の腰から下は樹木になっており、人型の魔物のように見えるが、ドリアードと呼ばれる木の精霊の一人である。


「あ、あれは……まさか精霊ドリアードか? 精霊が私たち以外のそれも人間に力を貸しているのか? しかもその存在を使役している……」


紫音のことをまだよく知らないフリードリヒ王子は自分の目を疑っていた。近くにいたユリファも同様の反応を見せていた。

精霊の存在や力は自分たちエルフ族の特権だと思い込んでいた彼らには目の前の光景が異様に見えている。


「一応、俺が考えた作戦をいくつか言っていくから全部覚えておいてくれ……もちろん、ライムもな」


紫音に呼ばれ、服の中から出てきたライムは紫音の肩に飛び移る。


「でも、いいの? 敵を前にのんきに作戦会議なんか……」


「俺たちが出てきてもなんの反応も見せないんだから大丈夫だろ。それよりも自分の心配をしていろ。お前が一番、作戦内容を忘れる可能性があるんだから」


「失礼ね。あまり私を見くびるんじゃないわよ」


心配するなというフィリアの言葉を貰い、紫音は全員に作戦内容を伝える。

時間にして数分ほど。それくらい少しの時間だけで作戦会議は終了した。


「さて……後はあいつを起こすだけだな。ライム!」


肩に乗っているライムに呼びかけ、ライムは体内に吸収していたあるものを外に出し、それを紫音に渡す。


「起こすって言ったってどうするつもり? あの木でできた巨大な繭みたいなヤツ、そう簡単に壊せそうにないわよ。まあ、私だったらそれくらいなんてことないから紫音が泣いて頭を下げるならやってあげないこともないわよ」


厭味たらしい言い方をしながらフィリアは紫音が困る様を楽しみしていた。ニマニマとした顔で紫音の反応を窺うと、心底嫌な表情を見せる紫音の姿が目に映った。


「それくらいのことで泣いて頭を下げてたまるか。……そんなことするくらいなら別の方法を考えたほうがマシだ。……それにもう方法は考えている」


そう言いながら先ほどライムから渡されたあるものを後ろに振りかざし、今にもそれを遠くへ投げ飛ばしそうな構えを取っている。


「……っ? えっ!? ちょっと待って紫音? ……それってまさか――」


フィリアの話を聞き入れず、紫音は手に持っていたそれを巨大な木の繭に向かって投げ入れた。

それは大きく放物線を描くように空を飛んでいき、そのまま紫音の狙い通り木の繭に直撃する。――次の瞬間、


ドオオオオオオオォォォォォンッ!


突如、森の中で爆発が巻き起こる。

耳をつんざくような轟音を鳴らし、周囲に爆発による衝撃波が発生する。


爆発の発生源を中心に強烈な余波が吹き荒れ、木々が大きく揺れる。

しばらくしてその揺れも収まり、辺りに静けさが漂う。


「な、なんだったんだ……今のは?」


「今の爆発系の魔法に似ていましたが彼、魔法の詠唱をしていませんでしたよね」


「おそらく先ほど投げていたあれのせいだろうが、一体なにをしたんだあいつは……」


全員、爆発による被害はなかったもののフリードリヒとユリファは、突如発生した爆発に困惑していた。


魔法の詠唱をする素振りを見せなかったところから先ほど紫音が投げ入れた物体がすべての原因だということはすぐに分かった。

しかし、その正体までは分からずにいた。


「たぶんあれってシオンさんが作った爆弾ですよね。……でも、前に見せてもらったものより威力が大きすぎませんか?」


フリードリヒたちが爆発の原因について検討している中、メルティナの口からその原因を匂わせるような発言を口にしていた。


「メルティナさんが前に見たっていうのは威力を抑えたものですよ」


「でも、量を抑えないと威力が大きくなりすぎて被害も大きくなるっていう理由であんなの作っていないはずなのにな……」


「なんじゃお主ら知らんかったのか? シオンの奴、何本か作っていたみたいじゃぞ」


「お、おい君たち! 一体なんの話をしている! 今の爆発はいったいなんだ!」


謎の爆発に取り乱しているのか、フリードリヒは声を上げながら爆発の正体について追及していた。


「お、お落ち着いてくださいお兄様。……あ、あれはシオンさんが作った爆弾です」


「ば、爆弾だと! あれほどの威力、魔法以外でできるわけがないだろう!」


「わ、私も詳しく知らないんですt……。ア、アルカディアに自生している爆発する植物を原料にしているくらいしか……」


などとメルティナたちが一方的な会話を繰り広げている中、その原因を作った紫音たちはというと大きくため息をついていた。


「はあ、びっくりした……。まさかこんなに大きな爆発が起きるなんてな……。アディ、助かったよ」


「気を付けてくださいマスター。私が咄嗟に守らなかったらどうなっていたことか……」


紫音がアディにお礼の言葉を口にするが、アディは主人の後先考えない行動にほとほと呆れ返っていた。

しかし、アディが紫音たちの前に木の壁を出現させてくれたおかげで爆発による衝撃波を防ぐことができたのは事実。

アディからの注意の言葉はしっかりと受け止めておこうと紫音は胸中でそう思った。


「紫音……こういうのは前もって言いなさいよね。びっくりしたじゃない」


「悪い悪い。でもおかげで壊せたようだぜ」


紫音の宣言通り木の繭を破壊することができた。

紫音たちが見上げるほど大きな木の繭も今はもうその影を見ることすらできないほど崩れていた。


そして破壊された木の繭があった場所にフリードリヒは言っていた通りドラゴンの姿があった。

ドラゴンは眠っているのか、目を閉じており、紫音たちの存在に気づいていない様子だった。


「これ……フィリアの倍以上はあるんじゃないか?」


「当然よ。私の予想した通りあれは成人した竜人族よ。力も体格も私の比じゃないわ」


あまりの大きさに紫音は生唾を飲み込んだ。

ドラゴンを見るのはこれで二回目だが、目の前にいるドラゴンはフィリアとは違い、成人した竜人族の竜化した姿。


本来なら出会った瞬間、逃げ出さなければならないのだが今の紫音たちはこのドラゴンと戦うという使命があるためここで逃げるわけにはいかない。


しばらくドラゴンの姿に圧倒していると、「ん、んん……」という声を漏らし、熟睡していたドラゴンの目が開かれる。


「なんだ……お前ら」


ドラゴンの口から低く深みのある男性の声が聞こえてきた。


「ひどい騒音が聞こえてきたと思いきやいったいなんの騒ぎだ。……こっちは気持ちよく寝ていたというのに」


時折、あくびをしながら紫音たちに向かって文句を言っていた。


「俺たちはソルドレッド王から試練を受け、お前と戦うためにここまで来た。寝起きで悪いが、俺たちの相手をしてやってはくれないか?」


「……あのエルフの小僧が王? ああ、そういえばそうだったな?」


まだ寝惚けているのか、そのような独り言を言いながらもそりと起き上がる。

そしてドラゴンは、自分に挑戦を仕掛けてきた相手の姿をじっと見ている。


「ほう、人間の挑戦者か。ずいぶんと久しぶりだな……。今まで戦いもせず、こそこそと俺のねぐらに侵入するエルフどもばかりで退屈だったがこりゃあいい退屈しのぎだ。……しかも同族付きか。これまた珍しい」


フィリアの存在に気付いたドラゴンは、嬉しそうに声を弾ませていた。


「本当に珍しい組み合わせだな。もう竜人族は鎖国をやめたのか?」


「残念だけど鎖国は続いているわ。私は家出して外の世界に出ているだけよ」


「アハハハハ! こりゃあオモシロい! 俺と同じか。お前も国に嫌気がさして出た口か?」


「オイ、そういうのは戦闘が終わってからでいいからいい加減、返事聞かせてくれないか?」


話が長くなりそうだと感じた紫音は、二人の会話に口を挟んでいった。


「竜人族相手に一歩も引かぬその心意気、嫌いではないぞ。……よし、お前のその心意気に免じて挑戦を受けてやる」


「本当か?」


「ああ、でも俺は手加減とか苦手な口だから下手したら殺しちまうけど……それでもいいか?」


突如向けられた威圧感に紫音の額から冷や汗が流れる。


「……つ!? あ、ああそれくらいの覚悟は持ってるから心配するな」


「いいだろう。……戦闘に参加するのはお前らだけか? そこにいる奴らも加わるのか?」


メルティナたちの存在に気付いていたドラゴンは、顔をメルティナたちの方へ移しながら訊いてくる。


「あいつらはこの試練を監視するたんなる立会人だ。戦闘には参加しないから気にするな」


「そうか。では、戦闘の巻き添えを喰らわぬように気をつけねばな」


どうやら戦闘中、流れ弾などの被害に遭わないよう配慮をしてくれるようだ。

その点は紫音自身、気になっていたため少し安心した。


「さて、さっそく始めるとしようか。……ふむ、やはりここは前口上とか必要なのだろうか……よし!」


なにかを思いついたドラゴンは、紫音たちを威嚇するように羽を広げ、声を上げた。


「俺は森を司る龍――緑樹龍のグリゼル! 挑戦者のお前らには先攻の権利を譲るとしよう。俺が一撃喰らうまでなにもしないでやるから死ぬ気で来るがよい!」


「……ずいぶんと舐められたものね。おかしな口上なんかしているし。しかも同族とはいえ、この私を前にしても余裕でいるなんて」


「相手が舐め切っているならこっちはそこを突くまでだ。ライム! ハク! アディ! 作戦通り行動開始だ!」


紫音の指示の下、ライムたちは紫音とフィリアから離れ、自分たちの仕事を行うために持ち場へとついていった。


「ノーガードで攻撃を喰らってくれるならあれで行くか。フィリア、すぐに戦闘始まるから竜化しておいてくれ」


「最初は紫音がやるのね……まあいいわ。最初は譲ってあげる」


紫音にそう言いながらフィリアは戦闘に備え、竜化する。

その間、紫音も緑樹竜――グリゼルに先制攻撃を与えるための準備を始めた。


「リンク・コネクト――『竜人武装』!」


リンク・コネクトにより、紫音の姿は様変わりし、フィリアと同じ竜人族の力を得た姿へと変化した。


「な、なんだお前!? その姿は……」


「こっちの手の内を晒すわけねえだろ。それに、まだこれだけじゃないぜ。《炎竜弾――10連》右腕付与(エンチャント)、《フィジカル・ブースト》右腕集中!」


詠唱を終えた紫音は、その場からジャンプすると同時に羽を広げ空へと飛翔する。

グリゼルよりも高く飛び上がると、そのままグリゼルへ向かって降下していき、拳を振りかざす。

降下する速度はどんどんと加速していき、振りかざした拳にも力が加わっていく。


――そして、


「炎竜崩拳っ!」


紫音の強化された拳がグリゼルに襲い掛かった。


「グオオオオオオオオオオォォォォォッ!?」


思いもよらぬ強烈な一撃にグリゼルは叫ぶ声を上げ、地面へとめり込む。

紫音が放った拳を合図に戦闘の火蓋が切って落とされた。


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