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亜人至上主義の魔物使い  作者: 栗原愁
第5章 エルヴバルム編
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不可解な人間

「グッ!?」


紫音の拳がグリゼルに多大なダメージを与える。

隙を与えてしまい、紫音の拳による連撃を甘んじて受けてしまっていた。


少しの痛み程度なら樹木を操り、防御することなど造作もないことだが、紫音の一撃一撃がグリゼルにとっては耐えられない痛みとなり、操作が叶わず防御できずにいる。

いったん離脱しようにも紫音から受けた蓄積されたダメージやフィリアに逃がさないようにガッチリと両手を掴まれているせいで身動きが取れずにいた。


(嵌められた! こ、この人間……使い魔だけでなく、竜人族まで囮に使ったというのか!)


ライム、そしてフィリアに続くこの攻撃の流れはすべて紫音へとつなげるための布石だった。

グリゼルは今さらながらそのことに気付いていた。


(くっ……こうなったらこの人間を先に!)


頭を切り替えたグリゼルは、この中で一番厄介な敵から片付けようとグリゼルが動く。


片足を上げ、攻撃に集中している紫音目掛けて地面へと踏みつぶす。

油断していたのか、グリゼルが思っていたよりすんなりとうまくいった。足の裏には確かな感触があり、躱されてはいない。

しかしグリゼルは釈然としない気持ちでいた。


(お、おかしい……。直撃したはずなのになんだこの足から伝わる力は……。)


それに加え、紫音ごと地面に踏みつぶしているというのにいっこうに地面の感触を感じ取れないでいる。

この違和感を払拭するため確認しようと、グリゼルが顔を下に向ける。


「ま、まさか!?」


踏みつぶしたと思っていたが、それはグリゼルの完全なる思い違い。紫音はグリゼルの攻撃に真っ向から挑み、両手でグリゼルの足を持ち上げ対抗していた。


「人間が俺の力に耐えているだと!」


「悪いが、俺にこういうのは通用しないんでね。フィリア! 今だ!」


グリゼルが動揺している隙に紫音はフィリアに指示する。

指示された言葉はたった一言だが、すぐに理解したフィリアは、グリゼルに仕掛ける。


グリゼルの両手をガッチリと掴んでいる手に加えている力を横へとずらす。

すると、


「なっ!」


突如、グリゼルが保っていたバランスを崩しそうになる。

片足を上げているこの状況で重心をずらされてしまっては巨体なドラゴンの重さにもう片方の足だけで支え切れるわけもなく、今にも倒れそうになる。

グリゼルは慌てて重心を元に戻そうと身体を動かし、倒れないよう抗う。


「今だ……」


自分の身体にばかり気を取られ、いつの間にか紫音を踏みつぶそうとしていた足が離れてしまっていた。

この僅かな隙に紫音が見逃すはずもなく、これを好機とみて拳を構える。

そして、


「ハアアアァッ!」


「グウッ!?」


一瞬、紫音の存在を忘れていたせいでまたもやグリゼルの鳩尾に紫音の拳が決まる。

グリゼルは苦痛の声を漏らさずにはいられなかった。


「こ、こうなったら……」


痛みに耐える顔を浮かべながらグリゼルはフィリアへと狙いを定める。


「《グローアップ――フォレスティ・ストライク》!」


足を地面に強く叩き付けグリゼルは声を上げた。

すると、叩きつけられた地面から大きな盛り上がりが出現したと思ったら、


「――なっ!?」


次の瞬間、地面から勢いよく木が飛び出し、フィリアの身体に襲いかかってくる。

咄嗟のことでよけきれなかったフィリアは、衝撃でそのままグリゼルの手を離し、後ろへと飛ばされてしまった。


「フィリア!」


「ハハハハハッ! 残念だったな」


フィリアの拘束から離れたグリゼルはいつの間にか上空へと移動しており、空中で高笑いを上げていた。


「フィリア大丈夫か?」


「え、ええ……。モロに喰らったけどなんとかね……」


紫音がフィリアのもとへ駆け寄ると、フィリアは大丈夫と言わんばかりに無理に体を起こす。


「……さっきのはなんだったのかしら? いきなり地面から木が生えてくるなんて」


「それついてはたぶんだが……見当がついている」


「本当!?」


紫音の思わぬ言葉にフィリアは声を上げずにはいられなかった。


「おそらくあれは……成長促進系の魔法だ」


「そ、それって確か……植物の成長を促すだけの魔法のはずよ。さっきの見たでしょう。あんなに急成長するはずないじゃない!」


「でも……もしもその魔法に大量の魔力を消費すればあんなバカげた芸当も可能なんじゃないか?」


「……っ!?」


そう言われてしまえばフィリアは納得するしかなかった。

人間に比べ、竜人族の魔力の容量は何十倍もある。人間と違い、消費する魔力に余裕があるならば、それだけ魔法の威力も桁違いになるはず。

もし、それが可能ならただの成長を促す魔法も実際に影響を与える魔法へと変化していくと推測できる。

それがあのような事態を引き起こす結果となっている。


「今度はこっちから行くぞ!」


「来るわよ紫音!」


いったん、紫音たちと距離を取っていたグリゼルが反撃に打って出る。

大きく息を吸い上げ、口元から緑色の炎が溢れる。


「こ、これは……っ! フィリア! そこでじっとしてろ!」


見覚えのある動作にすぐさま察知した紫音がフィリアの前に出る。


「終わりだ!」


紫音がフィリアの前に出た瞬間、グリゼルの口から緑色の炎が放たれる。

グリゼルから放出された炎は、フィリアよりも威力もその大きさも段違いだった。


通常ならその炎に焼き尽くされ、焼死するのがオチ。

しかし、紫音にはこの攻撃すら通用しない。


(《シールド》!)


紫音は手を前に出し、無詠唱で魔法を発動させる。

後ろにいるフィリアも守るような巨大な光の盾を出現させ、向かってくるグリゼルの炎に対抗する。


(人間が発動させた防御魔法程度で俺の炎が……ん?)


自ら放った炎が紫音たちを包み込むように襲い掛かっているが、一向に紫音たちが焼かれる様を拝めずにいる。


「ま、まさか!」


悪い予感が頭の中によぎり、グリゼルは思わず炎の放出を止める。

そして紫音たちがいた場所には焼死体が、


「なっ!? 馬鹿な!」


その光景にグリゼルは自分の目を疑った。

焼死体があると思っていたその場所には、防御魔法でグリゼルの炎を耐え切っていた紫音たちの姿があった。


「フィリア、俺をあいつの元まで投げ飛ばしてくれ」


「え? そんなことしていいの?」


「ああ、一気にあいつとの距離を詰めるにはこれしかないからな」


「いいわよ。覚悟しなさい」


グリゼルが動揺している隙にまたもや紫音が仕掛ける。

フィリアが紫音の体を手の中に包み込み、グリゼルに照準を合わせ、思いっきり投げ飛ばした。


紫音は、前方から来る凄まじい風圧に耐えながらグリゼルとの距離を徐々に詰めていく。


「ハハハ! そんな方法でここまで来ようとするとはな。面白いぞ人間!」


歓喜の声を上げたグリゼルは、向かい打つため自分の周囲に樹根を集め、そのうちの数本を向かってくる紫音に放つ。


「っ!?」


しかし紫音は、樹根による攻撃に対して羽をはばたかせながら次々と躱していく。

今の紫音は体だけでなく、羽にも身体強化魔法を何十にも重ね掛けしており、グリゼルの攻撃が当たらないほど速度を上げていた。


「この! この!」


当たらないと分かれば手数を増やすまで。

単純にそう考えたグリゼルは樹根の数を増やし、紫音へと放つ。


しかし、いくら手数を増やしても速度を上げた紫音の前では敵わず、何度も紫音に躱されてしまう。

できることといえば少しでも自分との距離を詰めさせないよう妨害するだけ。


ジリ貧な戦況に次の手について考え始めていたグリゼルは、ふとある違和感を覚えていた。


(おかしい……。なぜ奴は俺の攻撃をことごとく躱そうとする。あれほどの力があるなら躱さずに樹根を破壊しながら向かって来るはず……。いや、あの人間はそれができないのか? 躱しきれないものに対しては魔法で受け流すだけで直撃を避けているように見える)


これまでの紫音の不自然な行動にグリゼルは様々な仮説を立ててみるもののまだ確証を得ていなかった。


(なにか訳でもあるのか? しかし、先ほどの俺の炎に対しては真っ向から防いでいた。いったいなにが違う……)


頭の中でいくら考えを巡らせても答えを出せずにいる。

しかしグリゼルは、この答えを知ることこそ紫音の攻略に繋がると考えたのか、途中で断念せずにいた。


「しかたない……。試してみるか」


そこからグリゼルの戦法が少しだけ変わる。

樹根による攻撃はそのままでそれに加えて炎の放出も併せて攻撃を仕掛ける。


「マズいな……。バレる前にもう一撃入れたいところなんだが……」


突然の戦法の変化に紫音の弱点がグリゼルに勘付いているのではないかと直感する。

これでは下手な動きを見せるわけも行かず、攻めあぐねていると、


後方から炎の砲撃が飛んできてグリゼルの攻撃を次々と撃ち落としていく。


「紫音! 援護するわ! 早く行きなさい!」


フィリアの後方からの援護射撃により、攻撃の活路を見出した紫音は、羽をはばたかせグリゼルのもとへ向かう。


「させるか!」


たとえフィリアに撃ち落とされてもここは森の中。

操ることができる樹の数は無限に近い。


グリゼルは新たな樹根を地中から呼び出し、紫音に襲わせる。


「ムダよ!」


しかし、それもフィリアによって破壊されていく。

これまで紫音に比べれば大したことないと思っていたが、ここにきてようやくフィリアの存在が大きくなってきていた。


フィリアに気を取られている内に紫音はグリゼルとの距離を詰め、攻撃を入れられる範囲に入り込むことに成功した。

そして、拳を振り上げ、もう一撃入れようと、強化した拳をグリゼルに振るう。


「まだだ!」


紫音の拳が入ろうとした瞬間、グリゼルは紫音との間に樹根を出現させ、紫音の攻撃を対抗する。


(こいつの力の前には盾にもならないだろうが、威力を殺す程度の役に立つはずだ。仕掛けるなら破壊された瞬間だ)


紫音の力を見てそう考えたグリゼルは、無駄な抵抗に出る。


「……な、なに?」


しかし、グリゼルの考えた作戦は無駄に終わった。

紫音の拳は、盾にした樹根の前に阻まれ、破壊できずにいた。


「……チッ」


軽く舌打ちをした後、紫音はグリゼルが呆けているうちにフィリアとともにさらに上空へと距離を取る。


残されたグリゼルは、今の出来事である確信へと至った。


「そうか……。まさかあいつにはこの攻撃が通用するのか。だからあいつはあれほど樹根を躱していたのか……。しかしそれなら……なぜ俺の炎には……」


まだ多くの謎は残るが、紫音攻略の手がかりを見つけたグリゼルは、勝機を感じ取っていた。


「まだ終わりじゃねえ。もっと楽しもうじゃねえか!」


攻撃の糸口を見つけることに成功し、高揚感を得たグリゼルは、笑みを浮かべながら紫音たちに声を上げていた。

その光景に紫音たちは、少し冷や汗を浮かべていた。


「どうやら紫音の弱点がバレたようね」


「まあな。あれだけヒントを出しちゃったらさすがに勘付くよな……」


「どうする? これじゃあ接近戦に持ち込むなんて難しくなるわよ」


紫音の拳の威力を痛いほど経験したグリゼルがこれ以上、接近戦に持ち込めるはずもなく、かと言って遠距離での攻撃はどれも今の姿のままではすべてあの樹根に阻まれてしまう。


八方塞がりなこの状況の中、紫音はある決断に出る。


「フィリア、いったんこの姿はやめるわ。……今度は()()で攻めるぞ」


グリゼルはまだ知らなかった。

紫音の実力はまだこれだけではなかったことを。


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