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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第9話「捨てないで――」

※少しばかり重いです。

 放課後、今日も猫宮が家に来ていた。


「ではまた来週です」

「おう」


 この頃、毎日猫宮と夕飯を食べている。

 捨て猫拾っただけで、こんなにも生活が変わるなんてな。

 ソファーで眠るやぬたちを撫でながら、サブスクアプリを開いた。

 何かを観ようとしたのに、猫宮との余韻が頭から離れない。

 この短期間で色々あったなー……

 ぼーっとしていると、猫宮から写真が送られてきた。

 星空に向かってピースしている猫宮の手。小さくて綺麗な手だ。

 映画見るか……誘ってみるか

 夜空の暗闇に映る俺の顔は笑っていた。




 数分後、猫宮が戻ってきた。


「なんの映画見るんですか?」


 猫宮から買い物袋を受け取った俺は、特段何も考えないでグロ映画を検索していた。


「渉流先輩、グロ見たいんですか?」

「あー……あ、いや、別に見たいのあったら付けてくれたらいいよ」


 リモコンを渡して台所に行くと、猫宮もついてきた。


「適当に検索してていいよ」

「んー……」


 コップを用意する俺に、猫宮はずいっと寄ってきた。


「な、なに?」


 目を細めて、口をへの字に曲げて、何か言いたそうにこちらを覗く。


「なんだよ」

「いいえ」


 そう言い残してリビングの方へと帰って行った。

 何かあるなら言ってくれよ……

 猫宮の様子を伺いながら、ジュースを注いで持っていった。


「誘ってくれたのに、何も見たい映画はないんですか?」

「あー……」


 ソファーに座る猫宮は、どこか機嫌が悪そうに見えた。


「それは、ごめん。なんか映画見たいっていうより、なんか、居てほしいなって思って……思って……」


 あれ俺、今めちゃくちゃキモイ言葉言わなかった?

 猫宮を見ると、猫宮は口を開けて俺から目を離せないでいた。


「あ、いや……違う……というか、なんというか……その、ほ、ほら。ホラーって一人で見ると怖いだろ?」


 動揺を隠せずにいると、猫宮は鼻でふふっと笑った。


「そうですね」


 な、なんとかなったか?


「じゃあ、一緒に見ましょ」


 どことなく嬉しそうにしている猫宮を見て安心した。

 ソファーに座った俺に距離を詰めてきながら、猫宮は買い物袋からお菓子を取り出した。


「ポッキー食べますか?」

「定番はスナックだろ……」

「美味しいからいいんです」


 そう言って猫宮は前髪を耳にかけながらポッキーを咥えた。

 うわ……なんか、なー……

 そんな様子を見ていると、目が合った。


「何ですか?」

「あー、いや……別に」


 目を逸らしてリモコンを操作していると、肩をつつかれた。


「食べますか?」

「貰おうかな」


 猫宮の方に視線を向けると、猫宮はポッキーを咥えてこちらを見ていた。


「ん」


 そう一言を言って、猫宮は目を閉じた。

 え……なに、え? ポッキーゲームでもしようとしてる?


「ん」


 目をぱちくりさせて、猫宮は俺の肩に手を置きながら近づいてくる。

 耳にかかっていた髪がさらさらと落ちては俺の首に当たり、鼻息が優しく俺の顔をかすめる。

 いや、いやいやいや。だめだって……俺たち付き合ってもないのに


「猫み……」


 口を開けた瞬間、猫宮は目を開けた。

 そして微笑むと俺の開いた口に、ポッキーを入れた。

 歯にカツンとチョコが当たる。

 ポキっ、ポキっと猫宮がポッキーを噛んで進んでくる。

 俺は先端をかじったまま、体が固まった。

 どんどん猫宮の顔が近づいてくる。

 待って……待ってくれ……

 もう目の先に来た時、猫宮のおでこが俺のおでこにぶつかった。


「んん」


 口に含んだポッキーを咀嚼し、猫宮は元の位置へと戻っていった。

 俺の口から出ているポッキーはもう、指の第一関節もない。爪先でやっと掴める程だ。


「渉流先輩、ちゃんと進まないとポッキー食べれないですよ?」


 そういった猫宮の肩を、気づけば押していた。

 ふぁすっと、クッションに倒れる音と、近づく唇。


「渉流先輩……?」


 心臓が鳴りやまない。

 手が震えて、足も震えて、涙が零れそうになる。

 触れたい。触りたい。自分だけが猫宮を知りたい。


「先輩……」


 猫宮の顔を見続けて固まっていると、近くでやぬが鳴いた。

 ……だめだ

 俺は冷静を取り戻して、猫宮から離れた。

 まだ心音は鳴りやまない。


「ごめん、猫宮……」


 猫宮は何も喋らずに起き上がった。

 やってしまった。

 付き合ってもいない彼女に、俺はとんでもないことをしでかしてしまった。

 嫌われる。見捨てられる。


「ごめん……俺を――捨てないで」


 この後の猫宮を見たくなくて、俺は頭を膝に入れ込んだ。




 俺が小学生に上がる前、母親が不治の病でこの世を去った。

 いつも遅くに返ってくる父親。会話のない静かな家。

 少しでも負担を減らせたらと、俺は家事を始めた。

 ある日、仕事から帰ってきた父親に言われた。

 「高校でも転校を続けるのは辛いだろうから、一人暮らし用のアパートを借りよう。」

 別々になるけど、父さんはずっと愛してるからな――と。

 俺は渋々頷いた。その反応を見て父親が笑ってくれたから。

 本当は一緒に暮らしていたかった。

 もう誰も、失いたくなんてなかった。

 なのに俺は、今。猫宮を傷つけた。


「ごめん……」


 謝り続ける俺を、猫宮は優しく体で包み込んだ。


「大丈夫ですよ」


 猫宮の声は温もりがあって、落ち着かせるように俺の体を撫でるようだった。


「捨てませんよ」

「ごめん……本当に、ごめん……」

「いいですので、頭出してくださいよ」


 荒い息で深呼吸をしながら、俺はゆっくりと頭を上げた。

 目に映った猫宮は優しく微笑んだ。

 その笑顔を見ていると、なぜか昔の事を思い出した。


「大丈夫ですよ。涙吹いて映画見ましょう」

「……うん」


 服の袖で涙を拭いていると、猫宮は俺に体重を乗せて来た。


「私もごめんなさい。ちょっと、やりすぎちゃいましたね……」

「いや、俺が悪いんだ……」

「では、お相子様で」

「そう、だな」


 肩の力を弱めて、俺も少し猫宮の方へ体を預けた。

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