第10話「ドキドキ映画鑑賞会」
コップに入れたジュースが生ぬるくなった頃、俺たちはやっと動き始めた。
「なんの映画見る?」
猫宮は俺にくっつきながらずっとポッキーを頬張る。
「ホラー? アクション? コメディ?」
ジャンルを色々と上げながらリモコンを操作していると、猫宮からポッキーを食べる音が消えた。
「渉流先輩って、本当になんで私がここに来るのか分からないんですか?」
「まあ……うん。前は会いたいって言ってたけど」
「そうですね……」
空になったポッキーの箱をテーブルに置きながら、どことなくしょぼくれた顔を浮かべる。
ええ……なんで?
疑問が頭を駆け巡る。
「もしそれで傷ついてるなら、ごめん……」
そう謝ると猫宮は小さく頷いた。
「私、猫嫌いです」
「え?」
突然のカミングアウトに呆然としてしまった。
「それは……またなんで」
「……嫌いだからです」
特に理由なんてないのか、あるのか、そっぽを向いては溜息をこぼした。
「まあいいです。映画見ます」
「お、おう……」
きっと何かを訴えかけたかったのだろうが、俺にはよく分からなかった。
猫が嫌いなのに、俺に会いに来るってどういうことだよ……ていうか、本来は猫に会いに来てるはずなんじゃ? いやでも前は会いたいって面と向かって言われて……あー、分かんね……
「ホラー見たいです」
俺の右手に持ったリモコンを、俺の指の上から操作してそれっぽい海外の映画をクリックした。
『ザ・サーカス』いかにもB級映画にしか見えない映画だ。
一分とちょとの広告が、俺の思考を巡らせる時間になってしまう。
さっさと始まってくれればいいのに。
「先輩は……好き――」
は……?
「――ですか?」
はあ?
「あー……えっと、何が?」
「猫さん」
これは試されているのだろうか。
今ここで好きと言えばいいのか、逆に猫宮に合わせて嫌いだと言ってしまった方がいいのか。
分からん……
「猫は、嫌いじゃないよ」
「だと思います」
「なんでお前が決めてるんだよ」
「だって……なんでもないです」
「なんだよ」
「なんでもないです!」
気になって聞いただけなのに、猫宮はちょっと怒り気味で体を近寄せてきた。
なんで怒ってるのに近寄って来るんだよ……
せっかく映画が始まったというのに全然内容が入ってこない。
猫嫌い……俺には会いたい。で、俺は猫が好き? で、猫宮はそれを強く思ってる……だからなんだよって話なんだよな……。だめだ、頭がおかしくなる
生ぬるいジュースを一口、俺は思考を放棄してモニターの画面に集中した。
映画も折り返し地点の広告中。チラッと猫宮の顔を見てみたが、やはりまだ怒っているように見える。
俺、なんか悪いことした……?
何か話しかけようと口を開くも何を話せばいいか分からなくて困っていると、猫宮は腕を絡めてきた。
「ちょ、お前」
「何ですか」
「距離……」
「渉流先輩が好きな猫なので、分かりません」
もー……
今刺激するのは危険だと思った俺は、渋々頷いて諦めた。
映画の情報と猫宮からの多方面の情報で眩暈がする。
「これ見終わったら、どうする?」
気さくにそんな言葉をかけたが、猫宮はさらに体を寄せてくるだけで何の返事もなかった。
どっちだよ……
また何かを話そうと口を開いたが、広告も終わって映画が始まってしまった。
そんなこんなで、よく分からない映画鑑賞の時間は終わっていった。
「怖かったですね」
猫宮は映画が終わる頃には怒りを忘れてくれたのか、いつもの表情に戻っていた。
「そうか?」
「すみません。ずっと腕借りちゃって」
ん?
「私、ホラーは苦手で……つい強気な態度で隠そうとしちゃうんです」
あー……? それってつまり、
「猫宮、怒ってなかった?」
「え?」
まじかよ……あの表情と言葉使いで怒ってないことある?
「なんか……まあ、いいや。怒ってないんなら」
「にゃん」
「猫嫌いじゃないのかよ」
「あまり好感は持てませんね」
「猫になにされたんだよ……」
机に置いていたリモコンを手に取った猫宮は、またホラー映画を流し始めた。
「腕貸してください」
「はいはい……」
二本目の映画も見終わり、猫宮は目を擦り始めた。
夜も遅くなり始める。きっと眠いんだろう。
「流石にそろそろ帰るか?」
「まだ居たいです……」
「いや、帰ろうか」
「んー……」
どうやら眠くなると語尾を伸ばす癖があるようだ。
そういえば……
「お前、今日は親に何て言ってきてるんだよ」
「映画パーティーです……」
まあ間違ってはないか……
「まあでも、そろそろ帰らないと」
「そうですね……」
うとうとしながら、スクールバックを持って立ち上がる。
送ってくか……
「猫宮、帰るぞ」
「にゃぁ……」
ここでも忘れないのかよ……
外は蒸し暑いが、少しばかり涼しい風が吹いている。
もう来週は夏休みか……
「猫宮、起きろー」
エレベーター内で目を瞑った猫宮の肩を揺さぶると、猫宮はあくびをしながら目を開けた。
「渉流先輩、海行きませんか?」
「海?」
うんうんと頷く猫宮。
猫宮と海か……
「二人きり?」
「はい」
「二人かー……」
「私とじゃ嫌ですか?」
「嫌ではないけど……」
なんて説明すればいいのだろうか。
二人きりが嫌というか、猫宮限定とは言いえないし、誰か男が数人来ても面倒だし、かと言って断りたくはない。
男子高校生だからこその理由なのだが、それを伝えるのは無理がある。
「分かりました。やめときましょう」
猫宮は軽く溜息を吐いた。
あー……もう馬鹿やろう
「行くよ、海……」
そう言うと猫宮は子供のように無邪気な笑顔を見せた。
それだけで耐えようと思う心が構築されるには充分だった。
眠かったら可愛さ倍増されるのか?
そのまま家までは抵抗があって行かなかったが、近くまでは送っていった。
海か……猫宮、水着……な
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