第7話「嫉妬ですか?」
今俺は物陰に隠れて猫宮の様子を伺っている。
いや、別にストーカーしてるとかいうわけではない。
ただ、猫宮が他の男子と喋っているところを見かけてしまったから、一応飼い主として見ているだけだ。
「いやでも猫宮さん可愛いじゃん」
「ありがとうございます」
「正直、来てくれると結構盛り上がる気がするんだけどなー」
「すみません」
んー……なんともむずがゆい
猫宮の隣に立っている男子は、俺なんかとは違ってイケメンで、清潔感もあって、校則ぎりぎりでおしゃれをしているような人だ。
「ほらクラス委員の加恋ちゃんとかもくるしさ」
「用事がありますので」
遠くからだと猫宮がどんな会話をしているのか聞き取れないが、少なくとも会話が成立していることは間違いない。
まあそうだよなー。猫宮とて普通に男子と喋るよな
「用事ってあの先輩?」
「だとしたら何かまずいですか?」
「いや、まずいってわけではないけど……好きなの?」
「はい。好きですけど」
「あー……そう、なんだ」
気になる……少しなら近づいてもばれないよな
久しぶりに一年の教室が並ぶ廊下に足を踏み入れた。
それと同時に猫宮が笑みを浮かべたのが見えた。
「そういうことなので、失礼しますね」
「ああ……うん。まあ、振られたりしたら相談のるから」
「結構です」
俺以外にでも笑ったりするんだな……
猫宮の表情が崩れた瞬間は、俺の家でしか見たことがなかった。
独占状態だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
溜息交じりに去ろうと思ったが、振り返った時に肩を叩かれた。
「はい?」
また猫宮の方を向くとそこには猫宮が立っていた。
「ああ、猫宮。奇遇だな」
なんて作り言葉で挨拶すると、猫宮はさっきの男子に見せたような笑顔を向けてきた。
その笑顔を今は見たくなくて、そっぽを向いた。
見れね……
「俺、ちょっと先生に呼ばれてるからさ」
何か喋りそうだった猫宮を置いて、階段を下った。
今は猫宮と喋りたくない。
放課後、俺はまたクラスメイトに囲まれていた。
「というわけで、カラオケ行かね?」
どうやら猫宮の彼氏説が否定された俺は仲間だと認識されたらしい。
「ごめん。俺一人暮らしだから家事しなくちゃいけなくてさ」
「え、鳥って一人暮らししてんや!」
「すげー、絶対にゴミ屋敷になるわ」
「ちゃんとしてんなー。えら」
「ありがとう」
クラスメイトに褒められて悪くない気分がした俺は、時間を確認しながら少し付き合うことにした。
「そういや、鳥って本名なんか難しかったよな。なんだっけ」
「鴉越 渉流だよ」
「ああ、そうそう。鴉越だ」
「鴉越じゃ堅苦しいし、これからは渉流って呼ぶわ」
これが友達か、いいな
晩年、俺は友達という友達を作ってこなかった。
高校二年生にして初の友達。初のカラオケ。
俺は小学生のように心を躍らせた。
「渉流君、結構うまかったね」
「いやいや」
みんなとのカラオケ帰り。
家まであとわずかな距離にいた。
「家、こんな近かったんだ」
「だね。僕、あそこの家なんだ」
指さされたのはマンションを出て徒歩数分の距離にある家だった。
ちかっ
「ここだけの話、僕知ってるよ」
「ん?」
「後輩さん、たまに家に来てるんでしょ?」
「……は?」
「家近いから、見えるんだよね」
「あー……ごめん。黙っておいて欲しい」
ばれたくないなんて理由じゃなく、もっと深い理由で頭を下げた。
その理由はあまり分からなかった。
「言わないよ」
「ありがとう」
「いいよいいよ。あ、というか名前伝えそびれてたね」
「あー」
「僕は曽根崎 瑛大。好きに呼んでいいよ」
瑛大か……
「よろしく瑛大」
「うん。じゃあまた明日」
「おう」
瑛大はいいやつそうだな
夜に変わりゆく空を見ながら、俺は溜息を吐いた。
楽しかったけど、疲れたなー……
マンションに入ってエレベーターに乗り込む。
今日の夕飯、どうしようかな……
なんて考えを巡らせながら五階についたエレベーターを降りた。
ん……?
俺の家の前に誰かが立っていた。
あのシルエットって……
「猫宮?」
心臓の脈が速くなってきた。
それに比例するように、向かう速度を上げる。
「猫宮」
やはり俺の家の前には猫宮が立っていたようだ。
横顔からだいぶ疲れていそうなことが伺える。
「猫宮……」
肩に手を伸ばすと避けられた。
え……いつからいるんだ
時計はもうすぐ八時を記そうとしている。
「ごめん猫宮」
また手を伸ばしたが、猫宮はまた避けてそっぽを向いてしまった。
ええ……
とりあえず家の鍵を開けたが、猫宮は一向に動こうとする気配がない。
「猫み――」
「楽しかったですか……」
「え?」
こっちを向いた猫宮は始めて、偽りじゃない本当の涙を流していた。
「猫宮、」
「楽しかったですか……?」
そんな顔……
「私の連絡放って……いたずらしてくるクラスメイトと遊びに行って……私、気にかけてたのに……」
そばの廊下に置いていたスクールバックを取った猫宮は、目を擦りながら走り出した。
「まっ……!!」
すぐに追いかけた。
どこにも行かないで欲しかった。
泣き顔なんて、見せないで欲しかった。
「猫宮……!!」
エレベーターのボタンを押す寸前で、なんとか猫宮の腕を捕まえることが出来た。
「離して……ください!」
「ちょっと待ってよ……」
「私の事、嫌いなら言ってください!!」
猫宮はまた初めて、俺に怒りの表情を見せた。
なんだよ……
「嫌いじゃないって言ってるだろ?」
「じゃあなんで連絡無視するんですか」
「それは、気づいてなかっただけで……」
「私が家に来るかもって思わなかったんですよね」
「いや……それは、それは違うだろ」
「私の傲慢でしたか? 私がうぬぼれちゃったんですね!」
「いや……」
猫宮は俺の手を振り払ってエレベーターのボタンを押した。
「待てよ……」
怒りと後悔とがぐちゃぐちゃに胸で合わさる。
「ごめん……謝るから」
猫宮の顔が見れない。
でも俺は――
「どこにも……行かないでよ」
――君が好きだから
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