第29話「激動のチョコ合戦、2」
箱からチョコが消えた。
誰も手に届かない場所に置いてあったのにだ。
「なんでチョコないの……」
すずは悲しそうな声を上げた。
あー……もう。
「誰か取った?」
そう問いかける俺に、みんなは「さあ」と、首を傾ける。
そうだよな……。
さっきまでみんなでボードゲームをしていた。
誰もこの箱のそばになんて寄ってないし、互いが互いの事を見ていたはずだ。
取っていたら誰だって何か言うはずだ。
「最後、ちゃんと残ってたよな?」
「俺、確認したよ」
俺の言葉に潤一がすぐ答えた。
「最後に箱に手を伸ばしたのは瑛大。その時点でのこりは四枚だった」
ちゃんと見てんな……。
「潤一、実はお前も強がってるだけでかなり欲しかったな~?」
碧海はにやにやと笑った。
「うるせ、今はそんなことより消えたチョコ捜しだろ」
「瑛大が持ってるとか?」
「確かに『管理してるよ」とかって言いそうだな」
「持ってないよ。持ってたらすぐに言うし」
まあ、それもそうだ。
「また今度チョコ持ってくるから、犯人捜しなんてやめようよ」
瑛大はそう言って席に着いた。
まあ一理ある。
ここでもし仮に誰かがチョコを奪っていたら、友情に亀裂が入ってしまう。
「んー……。俺、ねこねこを悲しませたやつ許せねぇよ。なあ、鴉越」
「ん、あ、ああ。そうだな」
あぶね……数秒遅れてたら瑛大の案に賛同するとこだった。
「まあとりあえず、みんなのポケット確認からいこうか」
村井は目を光らせて、碧海のポケットに手を突っ込んだ。
「お前、まさか鴉越と同じで、ソッチの人間だったのか!?」
「だから、俺はソッチの人間じゃない」
ひとしきり調べ切ったのか、村井は碧海のポケットから手を出して首を横に振った。
碧海ではないか……。
「潤一、調べるぞ」
「好きにしろ」
潤一のポケットに手を入れた村井は眉をひそめた。
「お前……」
「なんだよ」
「でかいな」
「は?」
場の空気が一瞬にして凍り付いた。
「え……いや、え? あー」
「お前、犯人じゃなくても死刑だな」
「さーせん……」
村井は一歩引いて席に着いた。
何やってんだ……。
「村井に代わって俺が調べる」
潤一は溜息交じりに瑛大のポケットへ手を入れた。
「んー、まあないわな」
「持ってたら渡してるよ」
「うん。んじゃ一応、渉流もな」
「おう」
潤一は俺のポケットに手を入れた。
うわ……変な感じ。
何もないポケットを探り終えた潤一はお手上げ状態で手を広げた。
「一応、ねこねこも調べた方がいいんじゃ?」
「持ってたら言うだろ」
「でも、たまに忘れてる時あるじゃん」
「まあ……確かにな」
村井に言われてか、すずは俺の方へ歩いてきた。
「どうぞ」
え……すずの、ポケットに手を入れるのか……? 俺が?
ほぼ下着に触れるようなもんだ。
いいか俺、これはただの調査だ。
「早く……」
すずも顔を赤くしていた。
早く済ませよう……。
すずのポケットに手を入れる。
うっ……何も感じるな。考えるな。
その瞬間、俺は始めて頭の中に宇宙を展開した気がする。
これが、無なのか……。
「ない。なにもない」
「渉流君……感情、死んだ?」
ほのかに、温かかった。
「となると……一応、カバンもチェックするか?」
「いや、そこまでしなくていいだろ。だって、そんな時間ないじゃん」
「碧海、そう言って隠し持ってんじゃねーの?」
「なんだよ。なら調べてみたらいいじゃんか」
碧海は何も考えないで机にカバンをひっくり返して広げた。
散乱する教科書や筆箱に水筒、弁当。
「お前、片付け面倒になるだろ」
「こっちのが手っ取り早いだろ」
「まあ……」
だが碧海の言う通り、カバンの中にチョコは隠していなさそうだ。
「んー……」
みんな頭を悩ます。
そんな中、すずが俺の袖を引っ張った。
「私……もういいよ」
そうにもいかないんだよなー……。
「みんなの仲、悪くなるのは嫌」
「ねこねこ……」
「いいや、せっかく持ってきてくれた瑛大に対して盗むようなやつ、俺は許せない」
潤一は腕を組んだ。
「そうだな。俺も許せないよ」
瑛大の気持ちを考えるとやるせない。
そこにすずへの行為となると、さらに許せない。
「あ、あの……」
すずはゴミ箱を持ってきた。
「一度、本当に食べてないのか、確認しない?」
「確かに。まずはそこから先だったな」
「あったまいい~」
そう言って瑛大はまたゴミ箱をひっくり返した。
「だからお前……」
「掃除なら後でやるって」
「みんなでな。はぁ……」
埃や消しカス、紙の切れ端などが広がる。
包み紙が目立つ色でよかった……。
何個か拾うと、ざっと見て残っている包み紙はなくなった。
「みんな、何個持ってる?」
「六~」
「四個かな」
「俺、二個だわ」
「七枚」
「僕は五枚」
「んで、六か。瑛大、これって何枚入り?」
「……三十枚だね」
「え」
みんな口を開けたまま固まった。
「ちょっとまて……残り四枚あったはずだろ?」
「おい、潤一~」
「いや、僕も見てたよ」
どういうことだ……?
「チョコ入ってたりしない?」
「してないな」
「四枚は、第三者が食べたってこと?」
「いや、教室には誰も入ってきてないぞ」
ん?
「ゴミ捨てたのは?」
「俺」
潤一が手を上げた。
「外に出てた空の包み紙持って捨てたよ」
「外に出したのは?」
「僕になるかな。中にチョコが残ってた場合、固定してくれる設計になってるから、最後にひっくり返しておいたんだ」
つまり……?
「最初から、残ってた四枚は空だったってことか?」
「そう……なるかもね」
「え、じゃあ食べたやつを中に居れた不届き者がいるってことか?」
その言葉に瑛大が反応を示した。
「昨日……弟が箱触ってたんだよね」
「瑛大……弟、何してた?」
「チョコ、食べてたのかも……」
「おいおいおい、なんだよー」
どうやら犯人は瑛大の弟らしい。
「まあ、一件落着か」
そうでも……なさそうだな。
すずは不服そうな顔を浮かべている。
「すず、帰りにアイスでも奢ろうか?」
「渉流お金ない」
「痛いこと言うなよ……」
「渉流の家で一緒に食べる」
こいつ、みんなの前で……。
「家行ってんの?」
「え、やった? やってるだろこれ」
ああ、ほらもう……。
帰るまで、俺とすずは碧海と村井から質問攻めにあった。
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