第28話「激動のチョコ合戦、1」
「んん~」
瑛大がお土産にチョコを持ってきた。
柑橘系のすっぱくて甘い匂いと、若干のほろ苦さを抹茶が作り、それでも甘いチョコが口の中に広がる。
すずも笑顔で美味しそうに頬張っている。
「これ美味いな」
「な。なんか、こう、すげーよな?」
「うまい言葉言えないなら黙っとけよ」
「美味い!」
「碧海、それどの漢字?」
「え、あー! 確かに。上手いわー」
「お前ら……頭おかしくなるわ」
激しく同感だ。
「猫宮さんも喜んでくれて嬉しいよ」
「んん~」
ほっぺを押さえて、目を閉じて、足をばたばたと動かす。
こんなにも美味しそうに食べる姿は見たことがない。
俺の料理にはこんな喜んでくれないのにな……。
「猫なのにチョコ食べるんだな」
「え?」
何も知らないみんなは目を丸くした。
「渉流君。それってギャグ?」
「いや、なんでもないよ」
ボケではあるんだよな……恥ずかし。
すずを中心に、みんな瑛大の持ってきたチョコに手を伸ばす。
不思議な時間だな。
何も喋ることなく、ただ美味いチョコを咀嚼するだけ。
「な、ボードゲームしようぜ!」
碧海は頓狂に叫んだ。
「急だな」
「碧海、学校にボードゲーム持ってくるとか……。最高だな!」
村井は碧海の肩に手を回した。
ここ二人はいつも馬鹿だ。
「バレたらまずいだろ?」
「大丈夫だって。もう放課後なんだしさ」
「勝者は残りのチョコでどうだ?」
「碧海、お前ほんとさ……最高なやつだよ!」
「お前ら瑛大が持ってきたチョコだろ……」
二人にツッコむ潤一、それを眺める瑛大とすず。
客観視しているけど、今はこの輪の中に俺もいる。
こういう暮らしがしてみたかった。
「いいじゃん」
潤一は俺の発言で頭を抱えた。
「僕はいいよ。みんな用のチョコだし、みんなでやるボードゲームも楽しそう」
「まあ……それなら、やるよ」
◆
もうだいぶ時間が経った。
残り一ターンですずが勝ちそうだ。
「ねこねこ所持金は?」
「百万」
「四倍差はもう無理だな」
「つえー」
まあ見ての通り、謎にすずのぼろ勝ちだ。
そして碧海はすずの事を「ねこねこ」と呼ぶようになった。
「でも何気に瑛大も七十万だろ?」
「そうだよー」
「チョコは三位まで山分けじゃだめか?」
「村井君。チョコは勝者にだけ、だよ」
みんなあのチョコの虜だ。
まあ、かく言う俺も若干口があの味を求めているくらいには虜になっている。
「鴉越~、ビリは何かないのか~?」
碧海はにやにやとした顔面を浮かべる。
俺の所持金はすずの一割ほどしかない。
つまり最下位ということになる。
だからあのチョコを手に入れることは無理だ。
「何もない」
「え~、一位はチョコ貰ってるし、二位の言うこと聞くとかどうだ?」
「僕は賛成だよ」
「は? 瑛大……」
「んじゃ、決まりだな」
はぁ……終わった。
最後のターン、特に何もなく終わった。
何言ってくるかなー。
頬杖してボードゲームを眺める。
隣に座る瑛大の番だ。
「所持金入れ替え使うよ」
「え、ここでまさか瑛大が一位に!?」
すずは口をあんぐりと開けた。
よほどチョコが欲しいらしい。
「違うよ。これは最下位と一位以外しか入れ替えれないカード」
「な、なに!?」
「ランダムだから、僕になっちゃうかもしれないけどね。渉流君に罰ゲームは可哀想かなって」
瑛大……。
「瑛大、愛してる」
「ははっ、やめてよ」
瑛大はサイコロを机に転がした。
「三ってことはー……。お、おめでとう碧海君」
「な……んて、ことだ……」
「あははっ、よかったじゃん碧海!」
俺の所持金が、碧海の席に移動していく。
その様子に村井は腹を抱えて笑う。
「笑いやがって! でも、まだ俺のターンは残ってるんだ!」
「まさかお前、やるのか……。ここで、」
「おう」
「あの技を!」
「ああ、行くぜ。必殺!」
碧海は立ち上がった。
ん……?
歩き出した碧海は俺の隣で立ち止まった。
「鴉越様、どうかこのわたくしめにお許しを……」
服をパッパッと払い、深々と土下座を見せた。
「いや……別にそこまでしなくていいって」
「ほんとか?」
「いいよ。座れよ。まだターン終わってないだろ」
「ありがたき幸せ」
椅子に着いた碧海は、サイコロを振った。
「六、六、六。ぞろ目だ……!」
ん。
「待て、碧海。今なら潤一を超えるチャンスなんじゃないか? このままサイコロを振れよ。合計十九を出せば、お前の勝ちだぞ」
「おお、行くぜ!!」
ん……十九?
碧海はまたサイコロを机に投げた。
「四、二、五。くっ……十一だったか」
「ちなみに、合計は十八までだよ。碧海君」
瑛大は項垂れる碧海にとどめを突き刺した。
暗算は早かったのに……そこは分からないのかよ。
「全く……茶番が長いぞお前ら。猫宮さんうとうとしてんだろ」
「な!」
確かにすずは俺の方に身体を傾けている。
仕方ない。
すずの頭を俺の膝に乗せた。
変な気分だ。
別にやましいことじゃない……やましいことじゃ。
視線を机に戻した俺は、みんながこっちを向いていることに気づいた。
「あ、後で起こすから」
「……見せつけてきやがって」
「なんだよ……。眠そうだったからやっただけだろ?」
「くー、俺も膝枕してー」
「やってほしい方だろ」
「あたりめーだろ」
寝顔……見せたくないだけなんて言えないな。
そのまま村井、潤一もターンを終わらせてゲームは終了した。
「いやー……ただただ、ねこねこが強かった」
「字面終わってるだろ……。畳語は一つまでにしろ」
「なんだ? じょうごって」
「小学生からやり直してこい」
呆れる潤一から視線を下にずらす。
すずは目を開けていた。
うわ……起きてたのかよ。
「おはよう……」
小さな声で言うと、すずは手を猫の形にした。
「にゃー……」
小さくそう言っては笑って、勢いよく起き上がった。
「私のチョコ!」
起き上がって早々、すずはチョコの入った箱に手を伸ばした。
「よかったな」なんて声かけようと思ったが、すずの体が不自然に固まった。
「どうした?」
「……ない」
「え?」
「チョコがない……」
「は?」
立ち上がって確認すると、確かに箱の中に入っていたチョコが全て消えていた。
どういう……ことだ?
※この作品は他サイトでも掲載中です。




