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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第27話「万古不易」

 スクールバッグを床に置いて、倒れるように渉流の家のソファーに寝転がる。

 はぁー、落ち着く。

 ソファーに頭をうずめていると、タルタルとやぬが傍にやってきた。


「ただいま……って言ったらだめかな」


 ソファーに上がったタルタルは何も言わずに座った。


「ねえ、私っておかしい?」


 やぬは私の目を見ながら体を丸めた。

 もー……。


「あのね。お兄ちゃんに渉流をいじめるなって言われたんだ。ずっと一緒に居たら渉流が疲れるだろって。私はもっと一緒に居たいのに……」


 二匹は共に毛づくろいを始めた。


「私も分かってるよ? ずっと渉流の隣にいるのはまずいかなって思ってる。でも、帰るとこないし……渉流、優しいしさ」


 二匹を引き寄せて、目を瞑った。

 ここが家ならよかったのに……。


 ◆


 どうしたものか。

 家に帰ったらすずがソファーで寝息を立てていた。

 家に行きたいと言われて鍵を渡しておいたから別にいることは問題じゃない。

 ただ、起こすべきか寝かせとくべきかが分からない。

 んー……。

 とりあえず夕飯を急かしてくる猫たちにキャットフードを出す。

 音には細心の注意を払って。

 お前の家じゃないんだぞ……。

 冷房も直下で当たって、絶対に寒いだろう。

 少しだけ脚に手を当てると、キンキンに冷えていた。

 まるで冷蔵していたお肉みたいだ。


「風邪ひくだろ……」


 掛布団をかけると、すずはゆっくりと目を開けた。


「ああ、悪い。起こしたな」

「ん……」


 すずは掛布団をマントみたいに持って、俺の方へ向かってきた。


「どうした? やっぱ寒いんだろ。こんな冷房の……」


 すずは掛布団を俺の頭に掛けて、胸の中で目を瞑った。

 優しい息が胸を温め、冷たいすずの体が俺の体温を冷やしていく。

 だけど、心と顔は熱くなっていく。

 慣れん……。

 掛布団が剥がれ落ちていく。

 誰もいないのに、周囲に目がある気がしてすずを剥がした。


「起きろー」


 肩を揺さぶると、すずはまたゆっくりと目を開けた。


「風邪ひくぞ」

「ん……」


 やっぱり前にも感じたが、すずは寝起きが弱いんだろう。

 何の考えもなく、突拍子に俺の人差し指がすずの頬を押していた。

 柔らかくて、すべすべ……

 すずは瞬きをしながら、目を細めた。

 「うわー」と言わんばかりに、口を小さく開ける。


「な、なんだよ……」

「変態さん」

「いや、別にほっぺくらい……」


 触りたいんだ、俺……。


「起きてる時に触ったらいいのに」

「い、今やったろ?」

「まだ寝てた」


 まあ、一理ある……。

 すずは空に留めた俺の手を掴んだ。


「なに」


 表情筋を動かさず指を絡める。

 小さい手が、ぎゅっと俺の手を強く握りしめる。


「離さないよ」


 こうやって手を繋ぐのは初めてだ。

 そしてなんというか……。


「俺、トイレ行きたい……」

「ついていく」

「いや、来るなよ」

「ん」


 すずはゆっくりと手の力を抜いていく。

 一本、また一本、すずの指が俺の指の間から離れていく。

 んん……むずがゆい。

 手を離してすぐ、トイレに直行した。

 落ち着けー……。


「渉流―」


 トイレのドアがノックされた。


「どうした?」

「お腹空いた。映画も見たい」


 お腹空いたって……。


「出たら夕飯作るから」

「何作るの?」

「冷やし中華」

「楽しみ」

「おん」


 なんかもう、本当に家族みたいだよな。

 不思議な感覚だ。

 彼女とは言ってもただの他人の延長線上。

 他人であり、知人であり、友達であり、親友であり、彼女だ。

 なのに、家族みたいな関係値。

 馬鹿だから意味わかんなくなってきた……出よ。

 トイレを出るとすぐそばにすずが立っていた。


「何……してんの?」

「待ってた」

「あー……どうぞ?」

「違う。渉流を」

「あー、おう」


 でも、不思議だよな……。


「渉流、たまに考え込む癖ある」

「え?」


 バレてるんだ……。


「教えてほしい」

「教える?」

「うん。何考えてるのか、教えてほしい」


 何考えてるのか……か。


「大したこと、考えてないよ?」

「それでもいい。それがいい」



 変わったやつだな。

 台所に向かいながら、考えていたことを口に出した。


「渉流、なんか頭良さそうなこと考えてる」

「そうか?」

「だって私たちは恋人で、それ以下でもそれ以上でもない」

「まあ、な」

「他人とか、友達の延長とか思ったことない」


 確かに、考えなさそうだよな。


「すず、何も考えてなさそうだもんな」


 いたずらに笑う俺に、すずは包丁を手に取った。


「お、おい。ジョーク。冗談。な」

「ふん……」


 包丁は置いたが、まだ不満そうに頬を膨らませる。

 恋人か。

 また何も考えずにすずの頬に手を伸ばしていた。


「怒ってるんだよ?」


 眉を寄せて、目を細めて、すずは本当に表情に出すタイプだ。


「ごめん。なんか、ちょうど触れる位置にあったから」

「何。馬鹿だって罵った今度は低身長いびり?」

「いや、そんなつもりないって」

「渉流さいてー」

「ごめんごめん」


 マヨネーズを付けたきゅうりを向けると不服そうに俺の手から頬張った。

 ペットだな。


「やっぱ、猫か」

「今は人間」

「分かってるよ。女の子として見てるって」

「それちょっと馬鹿にしてない? 女性。レディーだよ」

「はいはい」


 昔、自分から女の子って言ってただろ……。


「そういえばさ。俺の友達、どうだった? 不快に思わせてたらごめん」

「ううん。いい人たちそうだったし、楽しかった」

「なら良かった。そういや、習字で賞取ってるんだな」

「書道だよ」

「あんま変わんないだろ」

「渉流。習字と書道は全く違う」

「あ、そうなの?」

「綺麗に文字を書くために練習としてやるのが習字。芸術なものが書道」


 へー、意外と違うもんだな。


「何書いたの?」

「飛花落葉」


 ひからくよう?


「干からびて、供養ってこと?」

「なんか惜しいかも」

「惜しいんだこれ」

「簡単に言うと――春に咲いた花も散り、青葉もやがて秋に枯れ落ちるように、この世の無常、自然の移り変わりを意味する言葉」

「いや、むずい」

「ふふっ、私も調べて書いた。飛ぶ花、落ちる葉で飛花落葉」


 飛花落葉か。


「なんでそれにしたの?」

「高校生に上がる直前だったから」


 移り変わりってことか?


「なるほどね」

「あの時は渉流にまた会えるって思ってなかった。冬なのに花が芽吹いちゃったみたい」


 あれ……すずってこんな賢かったけ?


「お前、ほんとにすずか?」

「なんか、またディスってない?」

「ごめんて」


 勘違いしてたか。


「渉流に会えてよかった」

「……。俺もだよ」

「この関係は万古不易だね」

「なんて?」

「自分で調べて」

「おい、聞き取れなかったって」

「反対の意味だから」


 反対の意味……?

 自然の移り変わりの対義語なんてないだろ……。


「早く夕飯作って映画見よ」

「あー、気になる……!」

「お腹空いたー」

「……分かったよ」


 ムズムズする……。

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