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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第26話「夏休み明け、教室にて始まる」

 夏休み明けの教室。

 時計の針は七時半を指す。

 始業まで一時間もあると流石に誰もいないみたいだ。

 だからと言って……。


「来るなよ……」

「やだ」


 隣の席というか、席の半分をすずに占領されている。


「せめて椅子使ってよ」

「ここがいい」

「誰か来たら恥ずかしいからさ……」

「見せつける」

「お前、ほんと羞恥心捨ててきたのか?」


 すずに呼ばれて朝早く学校に来たが、何の目的があるのかも分からない。


「なあ、これ何の時間?」


 あくびが出る。

 流石に眠い。


「夜更かしした?」

「まあ……ちょっとな。こんな朝早くから呼ばれると思ってなかったんだよ」


 すずは隣の机に置いたスクールバッグに手を伸ばした。

 ただ距離があるから取れていない。


「それくらい立って取れよ」

「やだ」

「もう……俺取るよ」


 すずを介して隣の机に手を伸ばす。


「膝枕する?」

「しない」


 全く……。

 スクールバッグに手が触れたとき、教室のドアが開いた。


「あ……」


 ドアの前に立っていたのは瑛大だった。

 俺の情けない声に瑛大は笑った。


「おはよう、渉流君」

「あ、ああ。おはよう」


 すずはこくりとお辞儀すると、気恥ずかしそうに目を伏せた。


「恥ずかしいなら隣の席に座ってくれよ」

「……いやだ」


 すずの息が耳に当たる。

 うわ、なんか変な気分……。


「瑛大、早いな」

「そっくりそのまま返したいよ」


 瑛大はバッグを机に置くと、いそいそと前の席に座った。


「本当に付き合ったんだね」

「おう。あ、そうだ。すず、瑛大だ。俺の友達」


 すずは無言で小さく頷いた。


「よろしくくらい言ったら?」

「よろしくお願いします……」


 とても不服そうだ。


「ごめんな瑛大」

「ううん。僕は気にしないよ」


 というかそうじゃんか……。

 嫌な事に気づいてしまった。


「なあ、すず。ちょっと悪いけど帰ってくれないか?」


 俺の言葉にすずは「なんで?」と首を傾げた。

 いや、居てほしいけど……。


「その……あいつらに殺されるかも」

「私がいる」

「いや……だからこそというか」

「僕がなんとか言ってみようか?」

「いや……うーん」


 ちょっと怖い。

 傲慢かもしれないが、すずも友達も欲しい。

 どっちかを取れなんて、ちょっと難しい。


「まあ、大丈夫だよ。付き合っててもそんなに気にしないと思うよ」

「でもさー……」

「渉流君。案外みんなの事好きなんだね」

「渉流、天邪鬼」


 二人から詰められて顔が熱くなる。


「いや別に……」

「渉流、ツンデレ」

「お前は黙ってろ」

「彼女さんにそんな言葉使いしちゃだめだよ渉流君」


 瑛大の言葉にすずも大きく頷いた。


「あー、もう……。分かったよ」

「分かればいい」


 何様だ……。


「ちなみに、もうすぐ来るみたいだよ」

「え……」


 何と言おうか全く考えがまとまらない。

 どう……しようか。


「というか、もういるみたいだね」


 瑛大が指差した方を見ると、窓の外にギラギラと光る無数の目が見えた。

 なぜかそこだけ煙が上がっているようにも見える。

 これが地獄か……。

 次の瞬間、ばんっと扉が開いた。


「抜け駆け……」

「裏切者……」

「有罪だ。あいつを処せーー!!」


 赤い布に向かって突進する闘牛のように、みんな俺をめがけて足を走らせた。


「はいはい、みんな止まって」


 そんなみんなの前に瑛大は立ち塞がった。


「なんだお前も抜け駆けか!」

「まさか三……」

「鴉越がソッチだったなんてな……」

「なんでだよ……」


 なんだかんだ、こいつらとのバカやってる時間は楽しいもんだ。


「渉流楽しそう」

「は?」

「やっぱり、天邪鬼だしツンデレ」


 こいつ……。


「な、なんだよ。お前、瑛大だけじゃなくて俺たちまで喰おうってのか……!」

「ちげーよ」

「ケダモノだ!」

「おい、俺たち全員喰われたら六……」

「さっきからお前ら、うるせーよ。俺まで変に見えるだろ……」


 はあ、馬鹿だなー。

 にやけが止まらない。


「まあ二人は放っておいて、付き合ったんだろ?」

「ああ……おう」

「んじゃ……とりま、一応は自己紹介しとくか」


 そう言って一人ずつ顔を覗かせた。


「俺は渡瀬 潤一。一応サッカー部の副部長やってる」

「え、俺はー……中学では野球部のベンチ温め役だったかなー」

「名前言え馬鹿」

「え、言わんとあかんの?」

「お前、これ自己紹介だぞ?」


 潤一はツッコミながら頭を抱えた。


「ベンチ要員四番、芦川 碧海(あおみ)です!」

「お前一旦黙ってろ」


 潤一は碧海の頭をがしっと掴んだ。


「はい。続きまして、えー……」

「変な自己紹介にする必要ないからな?」


 いつもこのグループのツッコミは潤一だ。

 流石にワンオペで疲れるだろうとは思いつつ、面白いから放っておいている。


「渉流は有罪。俺は村井……」

「一応僕も。曾根崎 瑛大だよ」

「瑛大ナイス」

「え、俺だけ苗字のみ?」


 これまでずっと黙っていたすずは小さくお辞儀をした。


「猫宮 小鈴です」

「あ、聞いたことある。どこだっけ……なんか賞取ってなかった?」

「あー……多分、書道ですかね」

「あ、そうそう。去年の冬あたりに取材されてなかった?」

「はい」


 ええ、すご。てか、潤一良く知ってんなー……。

 彼氏なのに知らなかった。

 まだまだ知らない事ばかりだ。


「すげー。俺バカだからなんも分かんねーけどよ、すげーな!」

「そんな碧海も、前イラスト買われたんだろ?」

「お、そうなんだよ! なんか、適当にぱぱって書いてたら依頼来てさー」

「あ、ちょっと分かります」


 すずが食いついた。

 なんか……いい感じっぽいな。

 すずは目を輝かせている。

 嬉しそう……。


「よかったね、渉流君」

「え、ああ……おう」


 瑛大に見られていたみたいだ。

 ――よかったよ、ほんと。

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