第25話「これからのこと、」
特大サイズの花火が打ちあがる。
俺は、この光景を見たことがある。
そうだ……。雫石にも同じ事を言われたんだ。
◆
中学二年生になり、知らない学校の指定された席に座った。
相変わらず、みんなとは仲良くできない。
父さんからはメールで怒られた。
愛想よくしなさいって。
じゃあ引っ越しをやめてくれたらいいのに。
人間関係を築けば悲しくなるだけだ。
みんな俺を見て「誰だと」騒ぐ。
でも転校生に話しかける勇気のあるやつなんて、
「ねえ」
いるはずが……ない。
「ねえ、聞いてる?」
物好きもいるみたいだ。
無言で頭を上げると、そこには一人の女子が立っていた。
綺麗な人だ。
きっとちやほやされている。俺とは間反対の人間だ。
「なんですか」
「転校生なの?」
「数か月で消えるけどね」
「え、そうなんだ。大変だね」
よくもまあ知りもしないで言えるもんだ。
同情なんて気持ち悪い。
「私は雫石 智音。隣の席だから、分からないことあったら聞いてね」
はぁ……。
「いい子ちゃんアピールは終わったか」
「え?」
「みんなに媚び売って、さぞ気持ちがいいだろ」
「そんなんじゃないよ。単純に君のことがもっと知りたくて」
「変わったやつだな」
「えー、いきなり喧嘩腰な君も変だよ」
それもそうか……。
◆
そんな出会いだった。
彼女――雫石 智音との出会いは。
そこからいつも話しかけられて、ある日に外へ遊びに誘ってきた。
でも俺は断った。
引っ越しの準備もあったし、単純に傷つけたくなかったから。
いや、また保身だな……。
「すず、お願いがある」
「なに?」
「絶対に向かいに来るから、ここで待っていてほしい」
しばらくの間、すずは俺の目をずっと見ていた。
行ってほしくないよな……。
「……分かった、待ってる。ここで、待ってる」
「ありがとう」
俺は誰かに依存するのが怖かったんだ。
手放したとき、俺が相手がどんな感情になるのか。
それを嫌というほど味わってきたから。
母さんも、昔の友達も、父さんも、すずも、居なくなったら心が苦しかった。
だから突き放してきた。
その付けが回ってきたんだ。
雫石……。
思えば、初めて雫石が俺の心に手を伸ばしてきた人だった。
もっと大事にしていればよかった。
「待ってろ……」
壁をよじ登り、上から見渡した。
雫石は屋台の裏で座り込んでいた。
肩をしぼめて、小さくなっている。
今、行くよ……。
壁の上を歩き、雫石の頭上までやってきた。
「雫石」
俺の声に、ぱっと頭を回す。
「上だよ」
上を向いた雫石と目が合った。
何とも言えない気持ちが腹を駆け巡る。
言葉が見つからない。
頭を悩ましていると、雫石が壁に手を伸ばした。
「ばかお前、危ないだろ」
下に降りると、雫石はぎこちなく笑顔を作った。
「いいよ……笑顔なんか作らなくても」
「嫌、だよ……」
違う。そんな言葉が言いたいんじゃない。
「俺さ、雫石と出会った頃のこと思い出したよ」
「ほんと?」と体を前のめりに近づいてきた。
近いわ……。
「あの時から、俺は嫌な奴だったな」
「んー……でも、仕方なかったんじゃない?」
「いや……まあ」
許されるとは思っていなかった。
言葉が詰まってしまう。
「渉流くん。私はね、そんなところを含めても好きなんだよ。まだ、小鈴ちゃんと付き合ってても、その気持ちは変わらないよ」
真剣な顔をしている雫石を見れない。
俺はいつだって誰かを傷つけている。
もう正解が分からなくなってきた。
でも、
「ごめん。俺はすず、小鈴が好き」
「うん。知ってる」
「約束を守らなかったのはごめん。まだ、あまり思い出せてないけど確かに外で遊ぶ約束をしていたのは思い出した」
「うん」
「でもあの時は……いや違うよな……」
息が詰まる。
手が無意識に震える。
「大丈夫。責めてないよ」
俺はダメな人間だ。
悲しませた相手に気を遣わせて。
一人も、自分守れていない。
「俺……最低だな」
「うん。だから、最低なままでいてよ」
「……どういうこと」
「そうしたら、だめな男だったって、渉流くんこと忘れられるから」
そう……か。
「なんて冗談。渉流くんは精一杯頑張ってるよ」
「いや……誰も守れてない」
「ううん。小鈴ちゃんを守ってる。私と友達になる気もないんでしょ? それは、彼女である小鈴ちゃんからしたら、嬉しいと思うな。私なら嬉しい」
嬉しい……。
「だから、私はもういいよ」
笑顔で瞑った目から、涙が零れ落ちていく。
「小鈴ちゃんを、幸せにしてあげて。それが、渉流くんの出来る罪滅ぼしだよ」
心が軽くなる。
でも同時に、雫石に守られた気もしてくる。
中学生の時みたいに。
正直、話しかけられて嬉しかった。
心を閉ざしていた扉を、雫石は開けてくれた。
また、雫石に開けられるのか?
そんな情けない俺でいいのか?
だめだ。
「雫石」
短く、深く、息を吐く。
「それは罪滅ぼしなんかじゃない。俺がまた保身をするための手段でしかない。だから、気のすむままに俺を殴ってほしい。物理的でも精神的でも」
「は……?」
「俺は最低なやつだ。だから何も出来ない。だから、サンドバッグになる」
腕を広げる俺に、雫石は小さく笑った。
「大丈夫。私はそんなに弱くないから。でも」
笑顔を見せた雫石は、俺のおでこへデコピンをした。
「じゃあね。私はお腹空いたから焼き鳥買ってくる。これからの人を大事にね」
「……おう」
雫石は足早に人混みへ押し入っていった。
そんなに弱くない……。確かにな。
ジンジンと痛むおでこをさすって、俺はすずの元へ帰った。
「すず」
たこ焼き屋の前、すずはちょこんと地面に座っていた。
ほんと、猫みたいなやつ。
「渉流」
「待たせてごめん」
「ううん。帰ってきてくれてうれしい」
すずはそう言って笑顔を見せた。
そうだな……。
「たこ焼き食べる?」
「うん」
「花火見る?」
「うん」
「じゃあ行こうか」
「にゃん」
「それ癖になってない?」
すずは恥ずかしそうに笑った。
これからの人は大切に。
「まずはすずを大切にしないとな……」
「ん?」
「なんでもない」
「にゃん」
こいつはまた。
「シリアスの後に、高頻度でにゃんを出してくるなよな」
「何言ってるの?」
「はぁ、なんでもないよ」
ほんと、悩みがバカみたい消えていくな。
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