第24話「もう戻れない」
「お久しぶりです。雫石先輩」
「久しぶり」
すずと女子は笑顔で会話を始めた。
「……すず、知り合い?」
「そうだよ。雫石先輩」
知り合いか……。
「ねえ小鈴ちゃん。この男の人とは知り合いなの?」
「あ、彼氏の渉流」
「へー……」
悪寒がする。
雫石と呼ばれた女子が俺を睨んでいる気がする。
「小鈴ちゃん。ちょっと一緒に回っていい?」
「まあ……いいですけど」
「ありがと。渉流くんもいいよね?」
すずと友達になってくれるかもしれない。
これはチャンスだ。
「ああ、もちろん」
「そう? よかった」
雫石とすずに囲まれた。
どうやら真ん中は俺でないとダメみたいだ。
「あの雫石先輩。私の隣に来てもらえませんか」
「小鈴ちゃん。ごめんね、それは出来ないかな」
「……じゃあ帰ってください」
「それなら渉流くんに聞こうよ」
二人の顔が、横からひょいと覗いてくる。
「どうするの、渉流くん」
「帰して渉流」
小鈴とは相性がよくないのだろうか。
知り合いなら相性いいと思ったのにな……。
「すずが嫌がってるから帰ってくれ」
「それじゃあ仕方ないから小鈴ちゃんの隣に移動するよ」
こっちは仲良くなりたいのか。
すずは雫石をジト目で見ながら、小さく頷いた。
「よろしくね、小鈴ちゃん」
すずは黙って俺の腕を掴んだ。
あ……。
「すず」
「なに?」
「髪、めっちゃいい感じじゃん」
「……うん。時間かかっちゃったけど、綺麗にできたんだ」
「浴衣も似合ってる」
「そう?」
「この花、なんて名前なの?」
「え、分かんない。でも綺麗だよね」
「うん」
「二人でイチャイチャしないで」
雫石は俺とすずの真ん中に分け入ってきた。
「ハナモモよ。その花」
「おう、良く知ってるな」
「まあね。天下無敵……その通りね」
「天下無敵?」
「ハナモモの花言葉よ」
へー……。
「良く知ってるな」
「まあね」
「私だって分かるもん」
すずは雫石の浴衣袖を掴んだ。
「んー、パンジー……!」
「ヒスイランよ」
「どうせ、永遠に友達とかでしょ」
「……そうよ」
おう。永遠に友達か。
「いいじゃん。二人の仲ってことでしょ?」
何か不味いことでも言ってしまったのか、二人して俺を睨みつけてきた。
「なんだよ」
「渉流くんって案外馬鹿なのね」
「同感です」
「は? いや、二人が友達になって、ハッピーじゃん?」
「もう私にはなんの道も残ってないよ……」
雫石は目を伏せて呟いた。
なんの道も……。
かき氷屋の前、すずが立ち止まった。
「……私はいいですよ。雫石先輩と友達になっても」
「だめだよ」
止まっていると後ろから来る人たちに押される。
人多すぎだろ。
「それじゃあ私が、美しくいられなくなっちゃう」
雫石の言葉を皮切りに、人混みにもまれてみんなとはぐれてしまった。
こんなことなら手を掴んでおけばよかった……。
「渉流くん」
雫石の声と共に、俺の右手が掴まれる。
どうやら雫石はすぐそばにいたらしい。
「すず見てない?」
「はぐれちゃったね」
つま先立ちで周りを見渡すが、すずは見当たらない。
「早く探さないとな」
「大丈夫だよ。もう高校一年生なんだから」
「いや、彼氏として」
「……私もはぐれるのは嫌、かな」
まあ確かに……友達にさせるためには必要か。
「分かった。好きに掴んでていいから、探すぞ」
「……うん。掴んどくね」
一歩踏み出した瞬間、大きな音が鳴り響いた。
花火……。
「綺麗だね」
夜空にデカデカと、赤い花が咲く。
……一緒に見たかったのに。
「ごめん、雫石」
「え」
雫石の手を強く握って、強引に人を押しのけて前に進む。
せめて途中からでも、すずと一緒に見たい。
「ちょっと待って、ねえ。渉流くん。手、離れちゃう」
違う、違う、どこにいるんだ……。
「ねえ」
雫石が俺の手を強く引っ張った。
「待ってよ……」
「なんだよ。すず見つけないと」
「置いてかないで……」
震えた声が俺の体を止めた。
なんだよ……。
ドンッと、青色の花火が空に打ちあがる。
「行かないで……」
花火に照らされる雫石は、涙を流していた。
「な、なんで泣いてるんだよ」
「約束……守ってよ」
まるで子供みたいに、手首で涙を拭いて歯を食いしばる。
「だから……その約束って、なんだよ。俺、知らない」
「……。引っ越さなくなったら、会ってくれるんじゃなかったの?」
間をおいて語られたのは、全く記憶にないものだった。
「そんな約束、してないだろ」
「したよ?」
「いつ」
「転校する前、放課後の教室で」
放課後……?
「知らない」
「私、返事も貰ってないよ?」
「返事?」
聞き返した俺に、雫石は袖をぎゅっと握った。
憤りを感じる。
「いや……ごめん。覚えてなくて」
「私、渉流くんが好きだった……」
「……は?」
「告白した……」
「え、いつ?」
「約束する前」
必死に記憶を掘り起こす。
だめだ……人間関係なんて築くだけ無駄だと思ってたから、覚えてるわけないんだよな……。
「覚えてないんだね……」
「いや……うん」
言葉が見つからない。
謝っても許されることじゃないだろうし。
「いいよ。小鈴ちゃんのとこ行ってきな。というか行ってきて」
「いや……」
「いいから、行ってよ……」
雫石は俺の肩を強く押した。
「わる……」
「行って……!」
謝ろうとしたが、人混みに呑まれてしまった。
告白……中学生の時に?
頭が追い付かない。
じゃあ、さっきまでの言葉の意味は……?
自分の愚かさに嫌悪感がする。
謝らないと……。
引き戻そうとしたところ、誰かに手を掴まれた。
「渉流」
泣き目のすずが、俺の手を掴んでいた。
「行かないで……」
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