第22話「隣」
しばらく、静かに泣き続けるすずを抱きしめていた。
どうしたらいいだろう。
言葉が見つかっていないのに体は先に動いてしまう。
すずからゆっくりと離れるが、ぎゅっと抱きしめられた。
「どこにも行かないで……」
まるで子供みたいだ。
いや、子供になってしまうんだ。
俺だって、親にもっと甘えたかった。
そうだ。
俺も似たような事を体験しているじゃないか。
話したくてもそこにいなくて、いつも仕事ばかり。学校の行事に来ることもないし、甘えることなんてできない。
すずと似ている。
きっと一緒に乗り越えられる。
すずに寄り添うことなら出来る。
「すず。俺だけがすずを背負うのは無理だよ。だから、辛いだろうけど一緒に頑張ろう。俺はいつでもここにいる。すずの隣にいる。辛かったらいつでも来ていいから」
なぜか言葉がするすると出てきた。
なんだろうこの気持ち……。
何かの覚悟が決まったような感覚がする。
「絶対にいる。約束するよ」
すずは俺の背中に回していた手を離した。
目の下が腫れた顔が見える。
不安そうに体を震わせている。
俺も、なったことがある。
「……分かった」
体育座りの体勢でソファーに横になるすず。
頭の先は俺の方向ではなかった。
それが寂しい気持ちもあった。
だけど、逆に頑張ろうと思う気持ちも湧いてきた。
何も喋らないし動かないすずを横目に、台所へ視線を移した。
お兄さんは腕を組んで俺を見ていた。
やべー……。目の前で抱きしめちゃった。
瞬きで会話する俺とお兄さん。
「あの……」
何か言おうと口を開いた矢先、お兄さんがこちらに歩いてきた。
殺される……。
「なるほどね」
お兄さんはすずの隣に立った。
優しい目を向けている。
「小鈴。厳しい現実、鴉越君だけに頼っちゃだめだぞ。嫌われちゃうかも、なんてな」
すずはばっと起き上がった。
ゆっくりと顔をこちらに向けてくる。
まるで「本当?」と言いたげだ。
「あ、いや。嫌いになってないよ」
フォローを入れたが、ずっと目を見られる。
「ごめんね」
「いいよ」
「ごめん……」
すずは頭を下げた。
心がチクチクと痛む。
また抱きしめたい。
だけどそれはすずにとってよくないことだ。
我慢しろ俺……。
「でも確かに、鴉越君は理解ある人だから頼りたくなる気持ちは分かるよ。気遣いとかも出来るしね」
「……そう。そうなの」
意気消沈していたすずが久しぶりに弾んだ声を出した。
「鴉越君となら、大丈夫そうだね」
「うん」
俺と、だけか。
「じゃあ、お兄ちゃんはここらでお暇するわ。ありがとな鴉越君」
「いえ全然」
お兄さんは荷物を持って玄関の方へ歩き出した。
俺と鴉越君がいるから大丈夫、とは言わないんだな……。
そう考え事をしていると、すずと目が合った。
ん……?
なんだかそわそわしている。
「どうしたの」
「あ、いや……ちょっとだけ」
そう言ってすずは俺の胸に身体を預けた。
なんだよ、可愛いやつ。
だが三秒もしないうちに離れていった。
すずを抱きしめるように回した腕だけ残された。
「ちょっと、待ってて」
すずはソファーを降りて、玄関の方へ走っていった。
すずはお兄さんに手を合わせていた。
なんだかんだ好きなんだろうな。
帰ってきたすずの顔はこれまでにないほど、自信に満ちている顔に映った。
「ちょっと元気出た」
「よかった。疲れたらまた頼っていいから」
「にゃん」
少しだけすずの事、自分の事を理解できた気がする。
俺も頑張らなくちゃな。
◆
疲れて寝ちゃってた……。
辺りはすっかりと暗くなっている。
隣には渉流もいた。
……ありがと。
今日はちょっとくらい……甘えてもいいよね。
静かに渉流の頬に唇を添えた。
目を開ける渉流。
変な顔だ。
「おはよう……すず」
「おはよ」
渉流は隣にいると言ってくれた。
辛かったら頼っていい人。
寝ぼけて目を細めるとこも、私の手を握ってくれているとこも、私が見ていると少し微笑むとこも、全てが好き。
一生、隣に居たい。
一生、隣に居てほしい。
「大好き……」
渉流に身体をくっつける。
温かくて、大きくて、安心できる。
わずかに聞こえる心音が少しずつ早くなるのが嬉しくて、もっと体を寄せてしまう。
「は、離れろって」
やぶさかでもないだろうに、強がるとこも好きだ。
「私を彼女にしてくれてありがと」
渉流は私を見つめて笑った。
「誰だってすずに言い寄られたら好きになっちゃうだろ」
「でも告白してくれた」
「それは……」
「嬉しかったよ」
目を逸らして顔を赤らめる渉流。
ほんと、
「子供みたい」
「誰が子供だ」
そんな渉流が大好きだ。
◆
心配していたのに、すずはすっかりいつも通りに戻っていた。
だが、誰が子供だよ。
「すずの方が子供だろ」
「それでもいいよ」
ええ……。
「言い返して来いよ」
「なんでもいい。渉流がそばで支えてくれるなら」
そう言って笑顔を向けてくる。
なんでそんな恥ずかしい言葉吐けるんだよ……。
恥ずかしくなった俺はベッドから出た。
体が熱い。
「夕飯、食べる?」
「うん」
俺が支えてくれる……か。
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