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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第21話「裏側」

ちょっと重いので、文字数少なくしときます。

 後日、俺はすずとお兄さんとお話をする時間が設けられた。

 お兄さんが運転してきた車から降りてくるすず。

 少し顔が引きつっている。


「よ、鴉越君」

「お久しぶりです」


 すずは何も言ってくれない。


「すず」


 声をかけても目を逸らして手を上げるだけ。

 笑顔がない。

 まるで出会った当初の頃みたいだ。

 何か……あったのか?


「暑い暑い。早く家に入ろうぜ」

「ああ、はい」


 お兄さんにぐいっと背中を押された。

 理解が追い付かない。

 ただ無口なすずを見ていることしかできなかった。


「なあ、す……」


 すずに話しかけようとしたがお兄さんに阻まれた。

 すずは俺のことを見ただけで、何も喋らない。

 怒っているのだろうか。


「鴉越君。ちょっといいかな」

「はい……」


 すずから距離を離された。

 離れたくない。

 傍に居て上げたい。


「すず……小鈴。何かあったんですか」

「そう、それのことなんだけど。昨日からあんな感じでさ。逆に何か知らない?」

「いや……とくには」

「そっか……」


 俺でもお兄さんでもないとするなら、


「親と……何かあったとか、」

「そうだよなー……」

「聞こえてる」


 すずは腕を組んで俺たちの下にやってきた。

 表情は硬いまま。


「なあ小鈴、何かあったんじゃないのか?」

「怒ってる?」

「怒ってないよ」


 受け答えはちゃんとしているけど、腑に落ちない。


「話、聞くよ?」


 視線をあちらこちら回して喋らなくなった。

 安心させたい。


「お兄ちゃんも聞くぞ」

「お兄ちゃんはいらない」


 一蹴されたお兄さんは笑顔のまま引き下がった。


「渉流と話したい」

「俺?」

「うん」


 お兄さんからまた背中を押された。

 責任……だもんな。


「分かった」


 すずとソファーに座る。


「どうしたの?」


 緊張する。

 生まれて初めて相談に乗る。

 しかも身内よりも優先されて。

 すずは小さく口を開けた。


「お兄ちゃん、自分から来たんだって。この前」

「そう……」


 俺は知っている。

 この言葉の裏側を、すずの気持ちを。


「……寂しい?」


 すずは小さく頷いた。


「前、いきなり帰ってごめんね」


 電話でも聞いた言葉が耳に入った。

 なんで、二回目?


「大丈夫だよ」

「怒ってない?」

「ないよ」

「じゃあ……よかった」


 すずがここまで消極的なのは初めて見た。

 いつもなら引っ張ってくれたのに。

 胸がもやもやして苦しい。


「お兄ちゃんから聞いたんでしょ? 私の色々」

「ああ……うん。ごめん」

「ううん」


 確かにあまり知られたくはないか。

 ずいずいと付け回すようなことをしてしまったみたいだ。


「お父さんも、お母さんも、仕事してたからあまり分かんないって。一日経って、夕方になっても帰らなかったら、心配くらいしてくれるかなって……思ってた」


 俯いた顔から、一滴の涙が零れ落ちた。

 弱い俺が、すずに何をしてあげられるだろう。

 前だって結局自分を落ち着かせたくなった。

 安心したくなった。

 違うと分かっていても、あだ名の話を振った。


「渉流が……いるなら、いい」


 すずの言葉が重い。

 落ち着かせてあげたいのに。


「それだけで……いいよね」


 すずはそう言って笑った。

 涙をこぼしながら。

 言葉が出なかった。


「ここに住みたい……拾ってよ、渉流。あの日みたいに」

「ごめん……」


 俺がすずの全てになるなんて、無理だ。


「今の俺に……すずを持つ力はない、かもしれない」


 すずは唇を震わせた。

 少しずつ顔を崩していく。


「嫌いじゃないよ!」


 怖かった。

 失いたくない。

 でも、それも俺の保身。


「好き。大好きだよ。でも、俺弱いから……」


 すずは下唇を噛んだ。

 頬を涙が伝っていく。


「捨てない。けど、まだ拾えるほどの力は持ってない……」

「じゃあ……どこに行けばいいの」


 すずは歯を食いしばる。


「答えてよ……。なんで渉流のあだ名付けさせてくれなかったの? なんで謝ったの?」


 弱さを見せたくない。

 でも言い訳が思いつかない。

 すずは俺に手を伸ばして、空でとどめた。


「私……ごめん」


 違う。

 謝るのは俺だ。

 俺が謝ったとき、すずは声を震わせていた。

 きっと、その時に不安が爆発したんだ。

 気づけたはずだった。


「俺……これくらいしか出来ないけど」


 すずの背中に手を回した。


「ごめん……いい言葉、見つかんない」


 すずも背中に手を回してきた。


「不安にさせて、ごめん」


 全部、すずに甘えた自分の落ち度だ。

 今の俺の顔を見せるわけにはいかない。

 こんな、不細工でどうしようもない泣き顔。

 見せられる訳がない。


「全部俺が悪いよ……」


 そう言わざるを得なかった。

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