第18話「お出かけ、2」
さあここで問題を出そう。
小鈴はスカートとズボンどっちが似合うか。
スカートなら、その猫のような可愛さを最大限に活かして美少女になれる。
ズボンなら、その凛とした表情のように美しい美人になれる。
俺はそのどちらも見てみたい。
だから、そう答えたはずなんだが……。
「渉流はなんでもいいばかり」
俺は怒られていた。
「いや……なんでもいいんじゃなくて、どっちも見たいんだよ」
「どっちかを指定してよ」
服屋の試着室前、なんとか機嫌を取ろうと頑張る俺。
周りの目は小鈴を擁護するばかりで、俺は倍怒られている気分になっていた。
「じゃあ、スカート?」
「じゃあってなに」
さっきの問題の答えは、最初から自分の欲望に忠実に、且つ、どちらかを選べだったようだ。
むずいって。
そんな言葉を吐きたくなるが、ぐっとこらえる。
「ごめん。言い方悪かったよ。スカートを着た小鈴が見てみたい」
「……分かった」
小鈴は頬を膨らませながらも試着室の方へ歩いて行った。
なんとか機嫌を取れたみたいだ。
「はぁー……」
しかし服の単価が高すぎる店だ。
一着六千円、八千円、一万円……。
目を引くものばかりだが、俺みたいなモブには確実に合わないような品物ばかり。
鎖のようなものをぶら下げたズボン、シンプルで触り心地のいいシャツ、スカートのようなひらひらしたズボン。どこを切り取ってもおしゃれなものばかり。
買いはしないが服を手に取ってみた。
頭では小鈴が着た場合の事しか考えていない。
でも、もし俺がこんなおしゃれな服を着ていたら、小鈴の隣を歩いても恥ずかしくない男になれるのだろうか。
五千円しか入っていない財布を見ながら、そんなことを考えた。
「渉流」
「ん」
試着室から出て来た小鈴は、服を着こなしていた。
胸下までしかないシャツに、靴まで伸びた長いスカート。
「どう?」
「うん、似合ってるね」
「そう? ショート丈のトップスなんて着たことなかったんだけど」
「似合ってるけど、ちょっと……シャツはシャツしててほしいかも」
「どういうこと?」
「似合ってないとかじゃなくて、ちょっとね。手上げたときとか、お腹見えてるからさ……」
他の人に見られることを想像すると嫌な気分になる。
「分かった。ロングスカートはどう?」
「可憐でいいね」
「そう、よかった」
小鈴はそそくさと試着室に戻っていった。
トップスにロングスカートか、ぎりぎり聞き覚えがあるくらいだな。
やはりもっとファッションについて知っておくべきなのだろうか。
知っている用語なんて、シャツとズボンとスカートくらいだ。
次に出てきた小鈴は肩に紐だけあるシャツと、だぼだぼなズボンを着ていた。
「どう?」
「それもいいね」
「やった」
「ちなみにさ、その服なんて名前なの?」
「んー、ストラップ付きのオフショルダーとガウチョかな」
「ガチョウ?」
「違う。ガウチョ」
だめだ……呪文すぎる。
親指を突き立てると、小鈴は笑いながらまた試着室に入っていた。
ストライキ付きのストラップ……ん? まあいいか……。
考えることを諦めたころ、またおしゃれをして出てきた。
今度は様変わりして、単調な半袖Tシャツにスーツのようなズボンにベルトを締めて出てきた。
今の俺みたいな格好だ。
「かっこいい?」
「うん。出来る女みたい」
「じゃあこれ買う」
「お、おう」
即決した小鈴に苦笑しか浮かばなかった。
お金持ちなんだろうか。
というより、お揃いみたく映るな。
シャツの色だけ俺が黒で、小鈴が白だから違うが、ズボンは同じ色だ。
提示された金額は驚愕の一万四千円。二着だけなのにそんな金額が提示されている。
「小鈴……お金、足りるの?」
「うん」
「そっか……」
住む世界が違うとでもいうのだろうか。
「いいの買えたー」
店を出た小鈴はスキップ混じりに嬉しそうな声を上げる。
「よかったな」
「うん。付き合ってくれてありがと」
「いいよ」
「次はー、何かスイーツ食べよ」
「おう」
エレベーターに乗って、フードコートに足を踏み入れて、前までの俺はこんなことしなかった。
というより、そもそも出来なかった。
生活に苦しんでいたからやる暇なんてないし、お金の無駄遣いで馬鹿みたいだって思っていた。
「渉流、楽しい?」
「うん。楽しいよ」
――君がいるから。
「よかった」
「映画館あるんだってな」
「そうだよ。見に行く?」
財布を確認する俺。五千円が悲しく俺を見つめてくる。
いいや、思い出を作ったほうがいいだろ……。
「行こうか」
「やったー」
小鈴は食べていたパフェをひとすくい、俺の口に持ってきた。
「あげる」
「いいよ。小鈴が食べ……」
言い終える前、小鈴はいつぞやのように俺の口にスプーンを放り込んだ。
甘い……。
「お金、なかったら出すよ」
「いや、それは男として……」
「嫌?」
「まあ……うん」
「そっか。じゃあそんな渉流、私は嫌」
嫌か。
小鈴はまた俺にスプーンを持ってきた。
「返したいならまた今度でもいいし」
「まあな……」
「行動だけでも、私は奢りたいなって思うほどくれてるし」
「んー……」
「私が奢りたいからいいんじゃない?」
まあそれはそうだ。
小鈴の言っていることは一貫性もあるし、ごもっともな意見だ。
でも、意地ぱっりなのか。奢られるのは気が引ける。
「それでも嫌だって言うならいいけど」
「うん……ごめん。今すぐには答え出せないかも」
「分かった」
パフェを食べ終えて、映画館にやってきた。
「あ、ホラー上映中だって」
「日本のか……」
看板に書かれたホラー映画は、よくある幽霊が出てくる映画だ。
俺はそういうのには興味がわかない。
見てもいいが、やはりド派手な演出が欲しいのだ。
「日本の映画は好きじゃないの?」
「まあ……そこそこかな」
「そっか。じゃあー、子供向けの映画見る?」
「んー……」
今の時間帯、上映している映画がまさかの二つ。
そして日本のホラーと子供向けの映画二つだ。
なんで対局してるようなものしかないんだよ……。
「私はホラーにするよ」
「怖くて見れないだろ」
「渉流がいるし」
「今日はくっつけるほどの距離、詰められないぞ?」
「それは……頑張る。せっかく来たし、見ない?」
小鈴は上目遣いで俺を見た。
またそうやって……。
気づけば頷いていた。
この顔には弱いんだよ……。
そうして始まった日本のホラー映画。
話題沸騰中の映画だ。きっと手が込んだ作品だろう。つまりそれだけ怖さも倍増しているわけだ。
まだ広告中だというのに、小鈴は俺の腕をがっしりと掴んでいた。
「小鈴、ポップコーン食べれない」
「私が食べさせるから」
「それは……」
ここで少しにやけてしまう俺はどうかしている。
まあ、ふとももで支えて片手食べるか。
小鈴の様子を見ながら周囲を見回してみた。
大体がカップルだ。みんな彼氏に手を組んでいる彼女ばかり。
そう考えると、小鈴も一人の女の子だよな。
ポップコーンに手を伸ばしたとき、映画は始まった。
※この作品は他サイトでも掲載中です。




