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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第16話「慣れない」

 昼前になった。

 猫宮は変える素振りを見せない。


「制服、ここ置いとくぞ」

「はい」


 ずっとソファーでくつろいで、たまに猫とじゃれて、スマホを触って、俺のところにきて。

 一体いつ帰るつもりなんだろうか。


「先輩」

「ん」


 チラッと猫宮の方を見ながら、洗濯物をたたみ続ける。


「敬語とため語、どっちが好きですか?」

「敬語とため語?」


 手を止めた俺に強く頷く猫宮。

 俺の好みでも知りたいのだろうか。


「猫宮の好きにしたらいいよ」

「それもそうですね」


 猫宮は前髪を触りながら隣に座った。


「て、手伝うよ……渉流」

「……っ!?」


 顔を赤く染めて、横目でチラチラと俺の事を伺う。

 ……なんでお前はそんなに可愛いんだ。

 ぎこちなくタオルを渡すと、横髪をいじりながら受け取った。


「ありがとう。その……小鈴」


 俺も名前で返すと、小鈴は俺に背中を向けた。

 赤い顔を見られなくて済んだから、正直ラッキーだ。

 静かな空間に、服をたたむ音だけが響く。

 小鈴が洗濯かごに手を入れたときは、手を胸元で止めて、逆に俺が洗濯かごに手を突っ込むと、小鈴は手を空で泳がせる。


「な、なあ。後で、出かけない?」


 小鈴は静かに頷いた。

 今は放っておいた方がいいだろう。

 上がる口角に気を取られながら洗濯かごに手を伸ばしたとき、手に取ったのはなじみのない黒い生地。

 それが小鈴の下着だというのに気づくまで、大体数秒かかった。

 まあそれよりも早くに小鈴が俺の手から抜き取っていったが。


「ご、ごめん……」


 小鈴は横目で睨んでいた。


「悪気はないんだけど……」

「わ、分かってるよ……」


 慣れない口調。

 それは小鈴もそうらしい。

 言い終えた瞬間から、髪を触る回数が増えていた。

 ……変わったな、俺たちの関係。

 洗濯物をたたみ終わった俺たちは、ソファーで横並びになっていた。

 付き合ったと言っても、言葉という鎖で繋がれただけだ。

 別にいきなり関係値が変わって小鈴に躊躇なく手を伸ばせるわけでもない。


「なんか……見る?」


 今日はやけに口数が少ない。

 でも幸せだと思える。


「出かけるなら、服取りに一旦帰りたい、です」

「あ、また敬語」

「しょ、しょうがないにゃん」

「今度は猫か」


 穏やかなムードを壊したのは、やはり小鈴からだった。

 小鈴は恥ずかしそうに笑った。


「送っていくよ」

「ありがと」

「ん」


 太陽の日が容赦なく照り付ける午前十一時。

 小鈴の荷物を肩に、セミの鳴く道を歩いた。


「昼食と、買い物行きたい」


 小鈴は俺の手を握った。

 やはり小さい手。

 何度握っても、慣れる気がしない。

 手に気を取られてしまう。

 歩くスピードが速くないか、遅くないか。

 手汗はかいてないだろうか。

 握る力は?

 触れたいって思っていたけど、いざ触れてもいい状態になっても触れられはしないし、触れても考えることばかりだ。


「渉流?」


 どうやら手に気を取られていたようだ。


「ごめん。行こうか」

「うん」


 まだまだ、慣れないな……。

 小鈴はバス停に着くと、俺の手を離した。


「ここからはバスで帰るから」

「ん、気を付けてな」

「うん」


 小さく手を振った小鈴を見送って、俺も家に帰った。

 来た道を引き返していると、スマホに通知が入った。


『渉流君。大丈夫そう?』

「あ……」


 瑛大に報告するのをすっかり忘れてしまっていた。

 それだけ、小鈴に頭のキャパを持っていかれていたみたいだ。


『大丈夫。ごめん、全然連絡できなくて』

『全然いいよ。それで、後輩さんと和解できた?』

『そのことなんだけどさ、』


 そこからは電話で説明した。


「そっか。ならよかった」

「ごめんなほんと、連絡遅れて」

「いやいや、実はさっき手を握ってるとこ見ちゃって、もしかしたらと思って連絡送ってみたんだ」


 見られてたのか。


「後輩さん。すごい笑ってたね」

「あ……まあな」


 はたから見ても、小鈴は笑ってるんだな、よかった。

 ほっと胸を撫でおろすと、またスマホに通知が来た。

 そこには小鈴の家の写真が送られてきていた。


『私の家に来るときは、この家を探してね』

「いや……俺はストーカーしないって」

「え?」


 あ、やべ。


「なんでもない。ごめん」


 電話口からは瑛大の笑い声が聞こえた。


「仲良くやってるみたいで安心したよ」

「……おう」


 恥ずかしくなった俺は、感謝を述べてから電話を切った。

 あ、また今度遊ぶ約束立てとけばよかった。




 サブスクで動画を見ていると、チャイムが鳴った。


「はいはい」


 玄関扉を開けると、そこにはひざ下まで伸びた白いワンピースを着て、猫耳を付けた小鈴が立っていた。


「渉流、拾って」

「再現ブイ?」

「かもにゃん」


 そう言って小鈴はご丁寧に水の入ったペットボトルをチラつかせた。


「どこまで記憶してんだよ」

「全て」

「怖いわ。まあ、上がって」


 今回は別に体で遮ることもせず、小鈴を家に上げた。


「マイハウス」

「じゃあさっきの写真はなんだよ」

「んー……マムズハウス」

「じゃあお前の家だよ」

「そっか」

「着替えるから、待ってて」

「かしこまり」


 そう言って手を頭に乗せる小鈴。

 敬語外すとこんな感じなんだな。

 落ち着かない。

 でも、前よりかわいく思えた。

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