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捨て猫を拾っただけなのに、隣にいた美人な後輩まで「拾ってください」と言い始めた。  作者: 為世 斐文


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第12話「可愛くないですか……?」

 あのまま遊びまくった俺たちは、夕方に海を出て夜手前で家に着いた。

 どうやら猫宮は俺の家に寄っていくらしい。


「渉流先輩、髪がキシキシしますね」

「そうだな……」


 髪を触りながら、怪訝な顔を浮かべる。

 俺は少し残念に思っていることがある。

 それは、猫宮の私服を見れなかったことだ。

 まあ水着を見ているから贅沢な話だが、私服に制服を着てくるとは思っていなかった。

 あー……猫宮の私服姿見てみたい……

 猫宮の顔を見ながらそんなしょうもないことを考えていると、猫宮はバッグから服を取り出した。

 ん……


「渉流先輩、お風呂借りちゃだめですか?」

「え……」


 当たり前だと言いたいのか、いつもの凛とした表情をしている。

 これ、からかってないぞ……


「……俺の家の?」

「そうですよ?」

「お風呂?」

「はい」


 まじか……


「家に帰るって選択肢は?」

「それなんですけど、泊っていいですか?」

「え……」

「私、見たい映画見つけたんです」


 それはいかがなものか。

 だめ、大丈夫の前に不純という二文字が浮かんでくる。

 いやでも、俺たちは付き合っているわけではないし……


「疲れて家に帰りたくないんです」

「んー……親はなんて?」

「大丈夫です」

「いや……絶対、お前友達の家とか言って嘘ついてるだろ」


 そう言うと猫宮はスマホを顔に突き出してきた。

『先輩の家、泊っていい?』

『何もないなら大丈夫よ』

『ほんと?』

『ただ、ほどほどにね』


 おい……馬鹿は親譲りか?


「そういうわけなので泊りたいです。だめ……ですか?」


 猫宮は悲し気に、上目遣いで俺を見た。

 こいつ……

 不純の前に我慢の二文字が上書きされた。


「分かったよ……」

「ありがとうございます」

「だから、お風呂入ってきな。何度がいい?」

「暑いの苦手なので……四十一度くらいでもいいですか?」

「俺はシャワーでいいから、好きな温度いいな」

「え……じゃあ、三十七度で」

「ん」


 猫宮は黙って数回お辞儀をすると部屋ぎを持ってお風呂の方へ走って行った。

 あいつ……なんで風呂の位置知ってるんだよ

 流石に少しゾッとした。

 色々な考えを紛らわせるために猫たちとおもちゃで遊ぶ。

 でもすぐに聞こえ始めたシャワーの音が不思議な気分にさせた。

 それは今まで聞いたことのない音だった。

 家族の誰かがシャワーしてたら、こんな音なんだな……不思議な感じ。あ、タオル……

 洗濯物を取り込んで、匂いを確認しながら何回もはたく。変な匂いがしていては嫌だ。

 脱衣所の扉をノックしようと手をかざすと、中から鼻歌が聞こえてきた。

 ふっ……可愛いやつ

 扉を開けて、タオルを置く。

 浴室ドアでも猫宮の影が見えて、目を逸らした。

 この凸凹な扉の向こうには、裸の猫宮がいる。

 我慢の前にまた不純の二文字が上書きされてしまいそうだ。

 あー……だめだめ


「猫宮―!」


 そう呼びかけるとシャワーが止まった。


「はい」

「タオル、洗濯機の上に置いとくからな」

「ありがとうございます」

「ん」


 脱衣所から出ると、また鼻歌交じりにシャワーを浴び始めた。

 あいつはご機嫌だな。俺の我慢も見ず知らず……

 頭を悩ますと足元におもちゃを咥えたタルタルがやってきた。


「遊ぶか」


 俺の言葉に反応するように、タルタルはおもちゃを足元に落として鳴いた。




 しばらく経つと、足音がすぐ後ろで聞こえた。

 出たか……

 後ろを向くとそこには、白色のタンクトップに水色でもこもこした短パンを着た猫宮がいた。

 ただ髪は濡れたまま、タオルを首に巻いている。

 私服よりも至福か……


「猫宮、ドライヤーは?」

「あの……場所が分からなくて」

「あー、教えるよ」


 猫宮の胸元を見ないように細心の注意を払いながら脱衣所に入る。


「これこれ、ちょっと高いよな」


 ワイヤーラックの上段に置いていたドライヤーを取って、後ろにいる猫宮に渡そうと振り返ると、猫宮はぐいっと近づいてきた。


「猫宮?」


 何も喋らないで、じっと俺を見つめてくる。

 猫宮の匂いとシャンプーの匂いが組み合わさって、爽やかで華やかな匂いが空間を埋め尽くしていく。


「どうした……?」

「んー……」


 猫宮は少し体を下に傾けた。

 見える……見える……

 目を逸らすと、猫宮はまた近づいてきた。


「な、なに」

「……いいです」


 なぜか不機嫌になった猫宮は俺の手からドライヤーを取ると、冷風を俺に向けて発射した。


「おい、なんだよ!」


 意味も分からず脱衣所から外に出ると、猫宮はむすっとした顔で扉を閉めた。

 なんでだよ……俺、ちゃんと渡したじゃん。高い場所にあったのが嫌だった……?

 さっきまで鼻歌を歌っていた猫宮が嘘みたいだ。

 俺もなんだか不機嫌になって、溜息を吐きながらソファーに座った。


「タルタル、猫宮が意味わかんないよ……」


 膝に乗ってきたタルタルを撫でながら愚痴をこぼすが、タルタルは何の返事もしてくれない。

 瑛大に聞いてみるか……?

 そう思い立ってからは早かった。

 すぐに瑛大に連絡を送った。


『猫宮が怒ってる理由知りたいんだけど、今時間あったりする?』


 既読が付いたと思ったらすぐに返信がきた。


『大丈夫だよ~』


 よかった……


『なんか、ドライヤーの位置聞かれたから取ったら怒り出したんだよ』

『えっと、ドライヤーってことは後輩さんにお風呂貸したの?』


 ああ、そうだった……


『そう。今日海に行って、いきなり泊まりたいって言われて、お風呂入って、ドライヤー取ってあげたら怒った感じ。お風呂入る前は怒ってなかったんだよ』

『あー』


 そうだよな。いきなり猫宮が泊まることになってって言われても困るよな……

 頭を抱えて天井を仰ぐと、そこにはソファーの背後から猫宮が顔を覗かせていた。


「うをっ!!」


 びっくりしてソファーから滑り落ちると、猫宮は鼻で笑って隣に座った。

 怒って……る?

 隣に座った猫宮はまだ凛とした顔を浮かべている。

 ゆっくりとソファーに座り直すと、猫宮はまだ怒ってますと言わんばかりに頬をぷくっと膨らませた。


「猫宮、なんで機嫌悪いの? 俺、ちゃんとドライヤー渡したじゃん」

「んー……」


 んー……


「渉流先輩、今日一度も褒めてくれなかったですよね」

「え?」

「水着も、部屋着も……やっぱり、私が猫じゃないからですか?」

「いや……」


 猫宮に言われて確かに気づいた。

 アニメなんかではよく俺みたいな主人公に相談先の友達が怒るパターンだ。

 なんで服の感想を言ってあげなかったのか、と。


「ごめん……」

「人……は、見てくれないんですか?」

「え?」

「いつも……猫ばかり」


 猫ばかり……


「今日は私のことあまり見てくれなかったですよね」

「え……」

「そうですね……猫じゃなかったですもんね」


 そう言うと、バッグから猫耳を取り出した。


「これ付けなきゃ……可愛くないですか……?」


 猫宮は涙を目に浮かべて猫耳を付けた。

 ああ……


「違う……」

「じゃあ、なんですか……」


 声を震わせる猫宮に、不甲斐なさを覚えた。


「見れないほど……恥ずかしくなるほど――可愛かったから……」

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