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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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53

一時停戦条約は、正式に結ばれた。

森の外にある交易地は共同管理とされ、三日の戦線固定はそのまま恒常的な停戦へと移行した。

若い捕虜は、暫くして、儀礼を整えた上で城塞都市の伯爵へと返還された。返還の場には双方の旗が立ち、司祭が立ち会い、書記が条文を読み上げた。

血ではなく、言葉で結ばれた約であった。

私は、任を終え、城へ戻ることとなった。

――小国の第三王子。

客将であり、交渉の当事者でもある。

停戦をまとめたとはいえ、領内の戦に深く関わった他国の王子であることに変わりはない。

歓迎されるとは限らない。功を立てたとしても、「余計なことをした」と見る者もいるだろう。

城門が見えたとき、私は無意識に手綱を握り直していた。石造りの高塔。王家の旗が風を受けてはためいている。

門が開く。衛兵たちは整列し、槍を立てた。

視線が集まる。その目にあるのは――警戒でも、敵意でもなかった。

「第三王子レオンハルト殿下、帰還」

高らかに告げる声。次の瞬間、槍の石突きが石畳を打つ音が揃った。

敬礼。城内へ導かれる道の両側に、騎士と従者が並ぶ。

私は一瞬、理解できなかった。

やがて副騎士団長が囁く。

「陛下のご意向にございます」

停戦をまとめた功。戦を拡大させなかった判断。それは、剣の勝利ではない。だが、国を守ったと評価されたのだ。

私は馬を進めながら、静かに息を吐いた。

不安は、杞憂であったらしい。


まず始めに、王との謁見があった。

高天井の謁見の間。壁には王家の紋章が掲げられ、玉座の上に王は座している。

左右には重臣、そして王族。

私は進み出て、片膝をついた。

「第三王子レオンハルト、帰還いたしました」

静寂の中、王の声が落ちる。

「顔を上げよ」

私はゆるやかに視線を上げた。王の眼差しは鋭い。だが、敵意はない。

「報告は受けている。停戦は成立し、捕虜は返還された」

「は。陛下の御裁可と王都のご支援あっての結果にございます」

王はわずかに顎を引く。

「戦を広げぬ判断は、容易ではない」

一瞬の間。

「剣を振るうことよりもな」

重臣の一部が視線を動かす。私は静かに答える。

「血を流さぬ勝利が最善と存じました」

王の目が細まる。

「若いな」

叱責ではない。試すような響き。

「だが――愚かではない」

謁見の間に、微かなざわめきが走った。

「此度の働き、王家はこれを是とする」

その一言は、公式の承認であった。私は深く頭を垂れる。

「恐悦至極に存じます」

厳かに、その言葉を受け取った。

ふと、顔を上げる。玉座の右側。第一王女エリシアと目が合った。

揺らがぬ姿勢。だが、その瞳にはわずかな光が宿っている。おそらく彼女も条約において、意見をしたに違いない。

王が「是」としたその背後に、彼女の後押しがあったことは想像に難くない。

私は、ほんのわずかに微笑んだ。公の場である以上、それは控えめなものに留める。

そして、改めて丁寧に一礼する。

この停戦は、私一人のものではない。

謁見の間の空気は静かに整い、次なる議題へと移っていった。


謁見が終わり、重臣たちが散っていく。石の回廊には、夕刻の光が差していた。私は足を止めた。

「エリシア殿下」

エリシア王女は振り向く。侍女はすぐ後ろに控えていたが、王女の私語に口を挟むことはない。

私は一歩近づき、静かに言った。

「感謝します」

彼女はわずかに眉を動かした。

「この国の王女として、当然の事をしたまでです」

声音は冷静だ。だが拒絶ではない。私は頷いた。

「それでも、です。軍議は容易ではなかったでしょう」

「反発はありました」

彼女は窓外の庭を見やる。

「戦を望む声は、いつの世にも強いものです」

「剣は分かりやすい」

私は答える。

「血もまた」

短い沈黙。回廊を渡る風が、旗を揺らす。

エリシアはゆっくりと私を見る。

「ですが、剣で得たものは、剣で奪われます」

「……同意します」

「だから私は、線を動かさぬ案を支持しました」

その言葉は、公的な理屈。だが、その奥に別の響きがある。私は一瞬、迷った。

「私の書状を読んだとき、どう思われましたか」

問いは慎重に選んだ。彼女はわずかに目を細める。

「率直に申せば――緩い、と」

思わず、私は小さく笑った。

「多くの将も同じことを。けれど」

彼女は続ける。

「緩い案ほど、長く持つこともございます」

視線が重なる。言葉はそれ以上いらない。

この停戦は、互いに譲った結果だ。

そして、互いに守った結果でもある。


私は深く一礼した。

「殿下のご助力、忘れません」

「忘れていただいて結構です。結果が残れば、それでよいのです」

それは、王女の矜持に見えた。私はそれ以上踏み込まなかった。


私は一歩退いた。

「では、これにて失礼いたします」

もう一度、丁寧に一礼する。

エリシアは静かに頷いた。

瞳が一瞬、私を追うように動いた気がした。ほんのわずかに。

「……お気をつけて」

その声には、公的な響きの中に柔らかい余韻があった。


私は一瞬、止まる。

だが、振り返ることはしないまま、ゆっくりと回廊を歩き出した。


エリシアは動かなかった。

王女が先に立ち去るのは礼を欠く。


ただ静かに、私の背を見送っていた。


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― 新着の感想 ―
こーれは別の旗も立ちそうやねぇ
エリシアたん(*^^*)カッコいい♡♡♡
武具の一瞥鑑定や血臭と煮沸の熱を感じる手当て描写から(すごい…!)と圧倒されていましたが、城門が見えた時の手綱を握り直した王子の仕草に惹きつけられました。好感度ストップ高。 緊張するとチカラ入っちゃ…
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