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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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リディアは馬上にて、深いため息をついた。

冷害は、まだ終わっていなかった。

街道の左右には、寒さに耐えながら育てられている畑が広がっている。

ライ麦そして、わずかでも食料を確保するために植えられた蕪。

どちらも例年とは比べものにならないほど生育が悪い。

それでも農民たちは、諦めてはいなかった。

土地を耕し、種をまき、芽が出れば丁寧に世話をする。

今年の収穫が少なくなることを知りながら、それでも来年のために畑を守っているのだ。

「今年も、厳しいですね……」

隣を進む護衛の騎士が呟いた。

「ええ」

リディアは小さく頷いた。

「だからこそ、見ておかなければならないのです」

城から届く報告書だけでは分からないことがある。

どの村の畑が特に悪いのか。食料はどれほど残っているのか。病人は増えていないか。そして、農民たちがどこまで耐えられるのか。

リディアは、それを自分の目で確かめるために領内を巡っていた。

自らが馬に乗り、泥にまみれた街道を進む。

それは決して珍しい光景ではなかった。

彼女が来ると知れば、農民たちは畑仕事の手を止めて頭を下げる。

「リディア様!」

「お寒い中、ありがとうございます!」

「今年も、なんとか畑を守ります!」

そんな声が、何度も飛んできた。

リディアはそのたびに馬を止めた。

「無理はしないでください。食料の配給については、城でも考えています」

「ですが、リディア様。わしらが畑を放り出したら、来年も食べられません」

「……そうですね」

リディアは苦笑した。

「だから、一緒に考えましょう」

その言葉に、農民たちは嬉しそうに頭を下げた。

彼女は、領民の前でだけ立派な衣装を着ている領主ではない。

雨が降れば泥道を進み、雪が降れば凍える街道を行き、病人が出れば村まで足を運ぶ。

だからこそ、領民たちは彼女を敬愛していた。

しかし、街道を進むリディアの表情は、次第に険しくなっていった。

遠くの村から、また報告が届いていた。

黒く変色した手足、激しい痛み、突然の痙攣。そして、炎に焼かれるような苦しみを訴える者たち。

人々はそれを、神罰の炎と呼び始めていた。

「……また、報告が上がりました」

護衛が言った。

リディアは黙って前を見つめる。

「冷害だけでも十分に苦しいというのに……」

彼女は小さく呟いた。

「これ以上、領民を苦しめるものが増えるなんて」

馬の蹄が、乾いた街道を叩く。

その時だった。

「……お待ちください」

先頭の護衛の騎士が手を上げた。

馬が止まる。

「どうしました?」

「前方に……人影があります」

リディアは目を細めた。

街道の先、林の陰から、騎馬の一団が姿を現した。

一騎、二騎、さらにその後ろから次々と姿が現れる。

「……多すぎませんか?」

護衛の一人が呟いた。

リディアの眉が僅かに動いた。

前方だけではない。いつの間にか、左右の林にも人影があった。

そして背後にも。

「……囲まれています」

護衛の声が低くなる。

リディアはゆっくりと周囲を見渡した。

完全に退路を塞がれている。

相手は、こちらの人数を遥かに上回っていた。

やがて、その集団の中から一人の重

騎士が馬を進めてきた。

「リディア様」

丁寧な口調だった。

「この先は冷害の影響で治安が悪化しております」

重騎士は恭しく頭を下げる。

「誠に恐縮ではございますが、安全のため、我が主君の城までご同行いただきたい」

リディアは、その言葉の裏にあるものを察した。

これは襲撃ではない。

少なくとも、そう見せるつもりはないのだ。

彼女は周囲を見渡した。

逃げ道はない。

護衛たちも、剣に手をかけながら状況を理解している。

そして街道を埋め尽くすほどの重騎士たちが、静かにこちらを見つめていた。

 

リディアは、目の前に並ぶ重騎士たちを注意深く観察した。

重騎士たちの鎧には、所属を示す紋章がない。隠しているのだ。

そして彼女は、馬の脚へ目を向けた。

蹄鉄の周りに付着した泥。赤茶色で、粘り気の強い土だった。

この辺りの土とは違う。

岩山の多い辺境伯領で見慣れた土だ。

さらに武具にも目をやる。

剣には無数の擦り傷があり、鎧も幾度となく修繕されている。

獣脂を染み込ませた革や馬具からは、独特の匂いが漂っていた。

中央とは違う。

長年、国境で戦い続けてきた者達の装備だった。

――辺境伯の兵。

リディアは、ほぼ確信した。

だが、証拠はない。そして何より、こちらは完全に囲まれている。

護衛たちも剣に手をかけているが、敵の数はあまりにも多い。

ここで戦えば、自分を守るために彼らが死ぬ。

それだけは避けなければならなかった。


リディアは周囲を見回した。

そして、街道脇へ視線を向けた。

そこには、川沿いの広い荒れ地がある。

普段は遊水地として使われている場所だ。平坦で、表面には草が生えている。

農民たちが農作業の合間に通り抜けることもある。アヒルたちが放され、草を啄みながら歩いていることも珍しくない。

リディアは、その土地のことをよく知っていた。

川に近い低地。表面が乾いているように見えても、その下には水をたっぷり含んだ粘土質の土がある。

人間やアヒル程度の重さなら問題ない。

しかし、重い荷車や馬を何度も通せば、話は変わる。

特に今、目の前にいる騎士たちは全身を鎧で固めている。

馬にも重い鞍や装具を載せている。

あの土地に踏み込ませれば――。


リディアは、何事もなかったように微笑んだ。

「……わかりました」

先頭の重騎士が僅かに表情を緩める。

「ご理解いただけて何よりです」

「ただ」

リディアは川沿いの荒れ地を指差した。

「私は今、巡回の途中なのです。一つだけ、確認してからでもよろしいでしょうか?」

「確認……ですか?」

リディアは、そこにいるアヒルたちを見た。

「放し飼いにしているアヒルを、見てからにしたいのです」

重騎士たちは顔を見合わせた。

あまりにも些細な願いだ、断る理由もない。

「……では、それだけなら」

「ありがとうございます」

リディアは馬の向きを変えた。

向かった先は、川沿いの遊水地だった。

護衛たちは、何も言わず彼女についていく。そして重騎士たちも、その後を追った。

――ここまでは、彼らの思惑通りだった。

けれども、彼ら最初の軍馬が草地へ踏み込んだ瞬間だった。

ズブッ。

「……ん?」

馬の前脚が、地面へ深く沈んだ。

「どうした!」

重騎士が手綱を引く。

馬が驚いて首を振った。

次の瞬間、後ろの馬も足を取られる。

「な、何だこれは!」

乾いた草の下に隠れていた軟らかな土が、重い馬体を受け止めきれず崩れていく。

馬の脚が、さらに沈む。

「進め!」

重騎士が拍車をかけた。

しかし、馬がもがけばもがくほど、足元の泥が崩れた。

「止まれ! 止まれ!」

別の重騎士が叫ぶ。

だが、もう遅い。

一頭、また一頭と軍馬が足を取られていく。

重い鎧と装具を身につけた重騎士たちは、馬から降りることさえ容易ではなかった。

「引け!」

「無理です!」

「馬を動かせ!」

「動きません!」

怒号が飛び交う。

それでもリディアは、振り返らない。

そのすぐ脇を、一羽のアヒルが何事もなかったかのように歩いていく。

「ガァ」

さらにもう一羽。

アヒルたちは、重騎士たちを尻目に草の上を悠々と進んでいく。

リディアの護衛が、思わず口にした。

「……アヒルは平気なのですね」

「ええ。ここは、そういう土地ですから」

リディアは静かに答えた。

重騎士たちは、ようやく理解し始めていた。

これは偶然ではない。リディアは最初から、この土地へ向かっていたのだ。


リディアは再び馬首を街道へ向けた。

「では、参りましょう」

取り囲んでいたはずの重騎士たちは、もう彼女を追うことができない。

リディアと護衛たちは、ゆっくりとその場を離れていった。

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上っ面調べただけでもわかるのは他所よりはマシな食糧事情と新国の王との縁、か? 逼迫しているのはわかるがどいつもこいつもナメくさってんなあ、窮した時の態度こそ本性が出るというのに証拠さえなければ問題ない…
うへえ。既成事実目的の拉致かよ。 女だからってみんなバカにしやがって。 この分だと侯爵はあれか、爵位とコネ使う感じかあ。 ある意味、自分達の強みの披露会ですね。 根性悪いけど。 これで実際は男同士が競…
どこもリディアを手篭めにすれば公国のツテと冷害ダメージが比較的少ない伯爵領が手に入るとみて強引な手段に出てるなぁ。 第一王子政略結婚√は成立させる前に他3勢力から手篭めにされて失敗しそう。 これ、リデ…
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