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数日後。
執務室に、四つの研究班が集められていた。
サフラン班、明礬班、柳皮班、そして麦角班。
それぞれの研究状況を報告するための、合同報告会である。
「では、順に報告してくれ」
最初にサフラン班が立ち上がった。
「サフランについては、栽培条件や収穫時期を調べています。染料だけでなく、薬としても使われている例が確認できました」
「具体的には?」
「気分を落ち着かせたり、眠りを助けたりするほか、月経痛や月経不順など、女性の不調にも使われていたようです」
続いて明礬班。
「明礬は染色や革の加工に使われています。さらに、傷口の出血を抑えたり、腫れた歯茎や喉を引き締めたりする用途も確認できました」
「産業だけでなく、医療にも使えるわけか」
「はい。産地による品質の違いも調査しています」
最後に柳皮班。
「柳の樹皮については、煎じて飲んだり、患部に当てたりする習慣が各地にあります。発熱や頭痛、歯痛、関節の痛みなどに使われていました」
「効果は?」
「痛みや熱を和らげる例は多いようです。ただし、品質にばらつきがあります。採取する柳の種類や季節によって、効き方が違うようです。また、強く効く場合には胃を傷めることもあるようで……」
三つの班は、まだ研究の途中だった。
それでも、少しずつ成果を積み上げている。
「よく調べている。引き続き頼む」
私がそう言うと、三班の研究者たちは席に戻った。
最後に、麦角班へ視線が向けられる。
「では、麦角班」
「……はい」
責任者が立ち上がった。
「我々は古文書を調べ、麦角が発生した地域にも足を運びました。農民、修道士、医師、薬草師などから聞き取りも行っています」
そこで、言葉が途切れた。
「ですが……明確な原因は、まだ分かっておりません」
部屋が静かになった。
「雨の多い年に麦角が増えること。麦角の混じった麦を食べた地域ほど、手足の壊死や幻覚を伴う病が多いこと。そこまでは確認できました」
研究者は悔しそうに記録へ目を落とした。
「しかし、それ以上が分からないのです」
別の研究者が続けた。
「古文書にも、麦角について詳しく記したものはありませんでした。現地で聞き取りをしても、祈りやおまじない、悪魔の仕業だという話ばかりで……」
責任者が小さく息を吐いた。
「調べれば調べるほど、我々の手元に残るのは『悪魔の呪い』という説明だけなのです」
その言葉には、焦りと悔しさが滲んでいた。
「サフラン班も、明礬班も、柳皮班も前へ進んでいる。それなのに、我々だけが同じ場所にいるようで……」
研究者たちは俯いた。
彼らも悪魔の呪いを信じているから、そう結論づけたわけではない。
今ある記録をどれだけ集めても、それ以外の答えに辿り着けなかったのだ。
私は、しばらく黙っていた。
「そうか」
やがて、静かに口を開く。
「まず、よく調べた」
研究者たちが顔を上げた。
「そして、今の段階で『悪魔の呪い』という結論になったことも理解した。君たちは何も調べずに、そう考えたわけではないのだろう?」
「はい」
「ならば、頭ごなしに否定するつもりはない」
私は記録を見た。
「ただ、まだ分からないことが多すぎる」
そして、研究者たちへ視線を戻した。
「もう一度、現地を調べてほしい」
「もう一度、ですか?」
「ああ。今度は、麦角を食べたかどうかだけにこだわらなくていい」
私は続けた。
「祈祷、おまじない、麦角の捨て方、畑での扱い方、肥料として使っていないか、家畜に与えていないか。収穫や保存の方法も調べてほしい」
「それらも、ですか?」
「そうだ」
私は頷いた。
「一見、関係がなさそうなことでも構わない。農民たちが『病気とは関係ない』と思っているような話まで、できるだけ聞いてきてほしい」
研究者たちは顔を見合わせた。
「分からないからこそ、調べるんだ」
「……はい」
麦角班の研究者たちは、深く頭を下げた。
答えは、まだ見つからない。
それでも、調べるべきことは残っている。
麦角班は再び、現地へ向かうことになった。




