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そう決めたところで、次に考えなければならないことがあった。
では、その仕組みを誰が動かすのか。
部門ごとに責任者を置く。財務には財務の責任者を。文書には文書を管理する者を。徴税にも、それを監督する者を置く。
しかし、それだけでは足りない。
それぞれが勝手に動けば、今度は部門同士の調整が必要になる。
結局、すべての報告が私のところへ集まり、私はそれを一つずつ確認することになる。
「……これでは、今と変わらないな」
私が呟くと、マルクが頷いた。
「その通りです」
「各部門をまとめる者が必要か」
「はい」
マルクは少し考えてから、口を開いた。
「それなら……宮中伯を置くのがよいかもしれません」
「宮中伯?」
「王の代理として、宮廷の政務を取り仕切る者です」
私は眉を上げた。
「具体的には?」
「各部門から上がってきた報告をまとめ、必要なものだけを王へ上申する。日々の政務については、その者が判断する。王が直接関わる必要がある案件だけを、王のもとへ回すのです」
「つまり、私の代わりに日常の政務を処理する者か」
「はい」
それなら、理にかなっている。
すべてを私が確認する必要はなく、重要な案件だけが私のところへ届く。私は国の大きな方針や外交、戦争など、本当に王が判断すべきことに集中できる。
「誰を置く?」
「すでに権力を持つ有力者から選ぶのが無難でしょう」
マルクが答える。
「既存の有力者たちにとっても、自分たちの身分と権利を脅かす存在ではないと分かれば、受け入れやすいでしょう」
「なるほど」
私は頷いた。
新しい制度を作るからといって、すべてを新しい人間に任せる必要はない。
むしろ、今ある権力を利用したほうが、制度は早く根付く。
私は、ふと隣に座るエリシア王妃を見た。
「王妃はどう思う?」
「私ですか?」
「ああ」
エリシア王妃は少し考えた。
「宮中伯を置くこと自体は、良いと思います。ただ……」
「ただ?」
「その者が王の代理として強い権限を持つなら、誰を選ぶかは慎重に考える必要があります」
「その通りだ」
私は頷いた。
宮廷の政務を一手に握るのだ。単なる役人ではない。王の目となり、耳となり、ときには王の代わりに決断する。
権力を持ちすぎれば、今度はその者に政務が集中する。
そして、その地位を巡って有力者たちが争い始める可能性もある。
「……ならば、有力者から選ぶという案も、簡単には決められないな」
「はい」
マルクも頷いた。
「有力者を置けば反発は少ないでしょう。しかし、権力が一つの家に集中する危険があります」
「教会から人を借りる案も同じだな」
「ええ。教会の権威は利用できますが、今度は教会の影響力が強くなりすぎる可能性があります」
私はしばらく考えた。
そして、一つの答えにたどり着き、エリシア王妃を見た。
「……王妃に頼みたい」
エリシア王妃が、目を瞬かせた。
「私に……ですか?」
「そうだ」
私は頷いた。
「宮廷全体の政務を統括してほしい」
「ですが……私は」
「貴女は、すでに王妃として私の隣にいる」
私は続けた。
「各国とのやり取りにも関わってきた。有力者たちとも話ができる。そして、私が何を考えているのかも、ある程度は理解している」
もちろん、それだけではない。
エリシア王妃なら、私の命令をそのまま伝えるだけではなく、必要なら私に意見を返してくれる。
それが重要だった。
「私は、王妃として私の代理を務めてほしい」
「私が……王の代理を?」
「そうだ」
私は頷いた。
「各部門の責任者をまとめる。日々の政務を監督する。問題があれば整理して、私に上げてほしい」
「では、陛下は……」
「私は最終的な判断をする」
私は答えた。
「すべての書類を見るのではなく、本当に私が判断すべきことだけを見る」
エリシア王妃は、しばらく黙っていた。
やがて、その瞳にわずかな光が宿る。
「……分かりました」
静かな返事だった。
けれど、その表情には困惑だけではないものがあった。
むしろ、少しだけ嬉しそうだった。
「私にできることなら、務めさせていただきます」
「助かる」
私がそう答えると、隣にいたマルクが小さく息を吐いた。
「……これで、私の仕事も少しは減りますかね」
「マルクは、今まで通りかもな」
「そうですか……」
明らかに残念そうな顔をする。
だが、その口元はわずかに緩んでいた。
どうやらマルクも、私一人に政務が集中する今の状態が、あまり健全ではないと思っていたらしい。
私は二人を見た。
新しい制度が、今日すぐに完成するわけではない。
既存の権利も、人々の思惑も、簡単には変えられない。
それでも、少なくとも、最初の形はできた。
私は背もたれに体を預け、ゆっくり息を吐いた。




