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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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223

翌日。

熱が下がった私は、まずマルクとエリシア王女を呼んだ。

二人を前にして、私は昨日、リディア嬢から聞いた言葉を話した。

「領地を独立させる、という案ですか」

マルクは、しばらく黙っていた。

「そうだ」

私は頷く。

「神託は、私が王になることを求めている。ならば、父上から王位を奪わず、兄上とも争わずに済む方法があるのなら、考えてみる価値はあると思う」

「……確かに」

マルクは否定しなかった。

だが、すぐに表情を引き締める。

「問題は、国王陛下がそれをお認めになるか、でしょう」

「やはり、そこか」

「はい。殿下が独立されれば、小国は領土を一つ失います。それも、阿片の収益と温泉療養地を持つ、今後さらに価値が高まる土地です」

マルクは静かに続けた。

「陛下にとっては、殿下が王位を奪わないことと、領土を失わないことは別問題です」

その言葉に、私は黙った。

確かに、その通りだった。

父上にとって私は、王位を脅かす息子ではなくなる。

だが、その代わりに、小国から一つの領地を切り離そうとしている。

「では、どうすればいいと思う?」

私はあえて、マルクに尋ねた。

マルクは一瞬、目を見開いた。

「……独立後も、小国に利益を残すことです。交易を維持、必要なら資金や物資を融通する。小国にとって、独立を認める方が得だと思える形にする必要があります」

「なるほど」

私は頷いた。

「では、その取り決めについて草案をまとめてくれ」

マルクは一瞬、目を見開いた。

「……私が?」

「ああ。必要な条件を洗い出して、私に見せてくれ」

「承知しました」

マルクは、すぐに頭を下げた。

私はその姿を見ながら、ふと思った。

以前なら、ここから先も自分で考えていた。 条件を決め、書面を作り、抜けがないか確認する。

だが、今は違う。

マルクに任せられる。

そう思えたことが、以前とは違っていた。

「大国については?」

私は隣に座るエリシア王女へ視線を向けた。

エリシア王女は少し考えてから、口を開いた。

「大国については、私はそれほど心配していません」

「そうなのか?」

「はい。この地は、すでに大国と阿片の繋がりがあります。そして温泉療養地も、大国にとって利益になるでしょう」

私と、同じ考えだった。

「それに、私自身が大国の王女です。レオンハルト殿下がこの地を治め続ける限り、大国との関係を悪化させる理由はありません」

そこまで言って、エリシア王女は少しだけ表情を曇らせた。

「ただ……一つだけ、気になることがあります」

「何だ?」

「小国の、国王陛下です」

私は目を瞬いた。

「父上?」

「はい」

エリシア王女は穏やかに私を見る。

「はい。神託について一度、お父上にお伝えしておいた方がよいと思います」

「神託について?」

「殿下が王位を望んでいないことは、以前にもお伝えしています。ですが、神託によって殿下が悩まれていることまでは、十分に伝わっていないかもしれません」

エリシア王女は、穏やかに続けた。

「お父上ですもの。きっと、ご心配なさるでしょう」

私は黙った。

私は、国王としての父上を見ていた。 エリシア王女は、父親としての父上を見ていた。

同じ人物を見ているのに、見えているものが違う。

「……そうか。父上に、先に伝えるべきなのかもしれないな」

マルクも頷いた。

「その方が、国王陛下にも誠実でしょう」

私は二人を見た。

マルクは、私が抱え込む前に仕事を引き受けてくれた。

エリシア王女は、私が見落としていた人の気持ちを拾ってくれた。

私は一人で考えている時には見えなかったものを、二人から教えられている。

なるほど。人に任せるというのは、単に自分の仕事を減らすことではないのかもしれない。

自分には見えないものを、見てもらうことでもある。


「……まず、教会に聞いてみよう」

私は言った。

「正式な承認を求めるのではなく、この解釈が許されるのかを」

マルクが頷く。

「神託を受けた者が、父君の王位を奪わずに別の国の王となる。それが教会の教義上、認められるのかを確認するわけですね」

「そうだ」

私は答えた。



その日のうちに、マルクは独立後の交易や支援について、具体的な草案をまとめ始めた。

私は、父上への書簡を書く。

以前にも、私は王位を望んでいないと伝えている。

だから、今回はそれを改めて説明する必要はなかった。

神託を受けた以上、いずれ王位を巡る問題が避けられないこと。

その一つの可能性として、この領地を独立させる道を考えていること。

そして、まだ何も決まってはいないこと。

その程度を、率直に記した。

書き終えた書簡を封じる。

それから、もう一通。

教皇庁へ向けて、神託と独立の可能性について「伺い」を立てる書簡を用意した。

正式な承認を求めるのではない。

まず、この考え方そのものが教会の教義に反しないのか。

もし可能であるなら、どのような手続きが必要なのか。

そこを確認するためだ。

書簡を書き終え、私は筆を置いた。


以前なら、必要なことをすべて自分で考え、すべて自分で片付けようとしていただろう。

だが、今は違う。

人に任せることで、自分の手が空くだけではない。

自分一人では見えなかったものまで、見えるようになる。


そのことが、私には少し新鮮だった。




数日後。

王都から、父上の返書が届いた。

私は封を切り、静かに読み始めた。

そこに記されていたのは、短い言葉だった。

――考えは理解した。だが、領地を手放すことと、お前が王位を望まないことは別の問題だ。それでも、こうして自分の考えを私に知らせてくれたことは、嬉しく思う。


私はしばらく、その一文を見つめていた。

拒絶ではないが、認めたわけでもない。

当然だ。父上にとって、これは息子の進退だけの話ではない。

王国の領土そのものに関わる問題なのだから。

私は書簡を机の上に置いた。

「……やはり、簡単にはいかないか」

それでも、不思議と焦りはなかった。


一人で答えを出す必要はない。

マルクがいる。

エリシア王女がいる。

そして、まだ教会の答えも出ていない。

一つずつ、進めればいい。

私は、もう一度父上の返書へ目を落とした。


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― 新着の感想 ―
> 一人で答えを出す必要はない。 > マルクがいる。 > エリシア王女がいる。 リディア様ああああああああ
そもそも独立認めると王位継承権保有者が重症を負った第一王子(しかも無子)のみという詰んでる状況だから、普通に考えたら無理だな。本当にスペア居なくなる。
うん追伸にゃ。 国王陛下「わしは…余は…そなた(王妃)一筋じゃ、今更、側室なんぞ。」 王妃「え、違う違う。」 勘違いしてる国王夫妻(⌒-⌒; )。
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