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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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私は、夢を見ていた。

この世界に来る前。 仕事は自分がするものだと思っていた。

自分がやらなければならない。自分がやった方が早い。そして――仕事ができることこそが、自分の価値なのだと。

それが、奇妙な懐かしさと共に蘇っていた。

けれど、それは確かに、かつての私だった。

目を開くと、夕闇が迫っていた。

「気がつきましたか?」

マルクの声が聞こえた。

「……寝ていたのか?」

「ええ」

マルクは静かに答えた。

「こちらに飲み物と、軽い食事をご用意しております。どうされますか?」

「……飲み物を」

差し出されたハーブティーを、ゆっくりと口にする。

少しして、マルクが言った。

「仕事のことは、今はお考えにならなくて結構です」

「……私がいなくても、仕事は回るか?」

マルクは少しだけ目を細めた。

「ええ、回してみせます。エリシア殿下もいますし」

「……そうか」

「それに、殿下が全部抱え込まれますと、私の立場がなくなりますので」

「……それは困るな」

私は、ほんの少しだけ笑った。

「エリシア殿下から伝言です」

「何と?」

「『礼拝堂に免じてあげます』と」

私は、口元を少し緩めた。

その後少しだけ、ハーブやパン粉の入ったチキンスープを口にした。

そして私は、再び横になった。

天井を見つめながら、ぼんやりと考える。

今の自分は前世と、本質的には何も変わっていないのではないか。

仕事を抱え込む、自分でやろうとする、自分が何とかしなければと思う。

それは、あの頃の私と同じだった。

ならばこのままでは、また、同じことになるのではないか。

そう思ったところで、ふと気づく。

前世とは違う。

今の私には、マルクがいる。

エリシア王女もいる。

私を支えてくれる人間が、ちゃんといる。

それなのに、私はまた、一人で全てを抱えようとしていた。

それは、ただ自分を苦しめるだけではないのかもしれない。

自分が全てをやってしまえば、マルクが自分の判断で動く機会を奪ってしまう。

エリシア王女が、私と共に国を支える機会さえ奪ってしまう。

人に任せるということは、仕事を押しつけることではない。

その人を信じることなのかもしれない。

そして、一人で何もかも抱え込むということは、誰かを信じる機会を、自分から失ってしまうことなのではないか。

そんなことを、私はぼんやりと考えていた。

本当に、自分にそんなことができるのか。

答えは、まだ分からない。

けれど、最初から、できるかどうかを考える必要はないのかもしれない。

今日できることを、一つ。

誰かに任せてみる。

誰かの判断を信じてみる。

自分がいなくても回るものを、一つずつ作っていく。

そうして、一歩ずつ踏み出していくことが、大切なのではないか。

私は静かに目を閉じた。

そして、再び闇の中へ落ちていった。


再び目を覚ました時は、夜中だったと思う。

人の気配がした。

薄く目を開けると、誰かがこちらを覗き込んでいる。

「……誰だ?」

「……私です。まだ、熱はありますね」

エリシア王女だった。

額に手を当てながら、心配そうに私を見ている。

「……すまない」

そう言うと、エリシア王女は静かに首を横に振った。

「いいえ」

そして、少しだけ微笑んだ。

「今は、ありがとう、と言ってください」

私は一瞬、黙った。

それから、小さく息を吐く。

「……ありがとう」

「はい」

エリシアは嬉しそうに微笑んだ。

「レオンハルト様が休んでいる間のことは、私が引き受けます。マルク殿とも相談して、滞っているものは、ほぼありませんから」

「……そうか」

「ですから、今は何も心配しなくていいです」

エリシア王女はそう言って、私の手をそっと握った。

その温もりを感じながら、私はぼんやりと天井を見た。

……そうか。

難しく考えすぎていたのかもしれない。

私は握られた手を、ほんの少しだけ握り返した。

……ならば、少しずつ変えてみよう。

そう思いながら、私は再び目を閉じた。


エリシア王女視点

エリシア王女は、第三王子が眠ったことを確認すると、そっと呟いた。

「……はやく、良くなりますように」

そして、握っていた手をゆっくりと離す。

けれど、先ほど優しく握り返された感触が、妙に鮮明に残っていた。

エリシア王女は、自分の手を見つめる。

そして、少し迷ったあと、もう一度、第三王子の手を取った。

今度は、握り返されない。

ただ、眠っている第三王子の手が、自分の手の中にある。

エリシア王女は、温かいその手を、見つめた。

……もう少しだけ、このままで。

そう思いながら、エリシアはそっと両手でその手を包み込んだ。

そして、眠る第三王子の顔を見つめた。

その表情は、起きている時よりもずっと穏やかだった。

エリシア王女は小さく微笑む。

「……おやすみなさい」

誰にも聞こえないほどの声でそう告げる。

エリシア王女は、しばらく、その手を離さなかった。

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― 新着の感想 ―
どういう展開になったとしても、エリシア母の猿芝居は本人がやらなきゃよかった、と後悔するようなオチがほしい。
心の中だとしても王女呼び止めたれや、と思ってしまう。
 前世と同じ途を辿るところを、半歩手前で回避出来たのかな?主人公さん。  毎話楽しみに読ませていただいております ありがとうございます。
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