↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/238

218

翌日。

私は密かに呼び寄せていた諜報員を執務室へ通した。

扉が閉まると、彼は周囲を一度だけ確認し、静かに口を開いた。

「ご命令どおり、王妃陛下のご滞在中の行動を調べました」

私は頷く。

「報告してくれ」

「王妃陛下は、毎日のようにエリシア王女殿下を伴い、大聖堂へ足を運ばれておりました」

それは知っている。療養と祈りのためだと聞いていた。

だが、諜報員は続けた。

「表向きは、そのとおりです」

彼は一枚の羊皮紙を机へ広げた。

「ですが、王妃陛下は祈りの最中、堂内を非常に注意深く見ておられました。立つ位置を変え、しばらく目を閉じ、また数歩だけ歩いて立ち止まる。その様子を何度も繰り返しておられます」

私は黙って続きを促した。

「……おそらく、一番声が響く場所を調べていたのではないかと」

「声が響く場所?」

「はい。大聖堂は場所によって、声の届き方がかなり違います。王妃陛下は、それを確かめるように立つ位置を変えておられました」

彼は羊皮紙のある部分を指差した。

「エリシア王女殿下は、母君が熱心に祈りを捧げておられるものと信じ、終始ご自身の祈りに集中しておられました」

諜報員は、さらに言葉を続ける。

「そして定刻になると、王妃陛下は告解のため大司教のもとへ向かわれます」

「エリシア王女は?」

「大司教の指示で、別の祭壇にて殿下のご健康を祈るよう勧められていました」

私は目を細めた。

それも、すでに聞いている。王妃が告解へ向かう間、エリシアは別の場所で祈る。その結果、王妃と大司教だけになる時間が生まれる。

「……毎日だったな?」

「はい。毎日にございます」

諜報員は頷いた。

「王妃様が大司教のもとへ向かわれると、エリシア王女殿下は別の祭壇へ。その間、二人の間を取り次ぐ者もおりません」

私は机の上で手を組んだ。

祈り、告解、そして、二人だけの時間。

「……なるほどな」

私が呟くと、諜報員はわずかに感心したような表情を浮かべた。

「これほど大きな事を、水面下で誰にも悟られず進めるとは」

私は答えなかった。

ただ、報告書へ目を落とした。

諜報員は、そこで一度言葉を切った。

「……あと、気になることがひとつ」

「何だ?」

「リディア様と王妃陛下、そしてエリシア王女殿下が、教会で少し会話をしておりました」

私は眉を寄せた。

「……何故、リディア嬢が大聖堂に?」

「大聖堂の建設資材は、クロウフォード領からかなり運ばれております。その管理かと」

「……確かに、そうだったな」

「ほんの一時でした。偶然居合わせたように見受けられます」

「……そうか」

私は、それ以上は追及しなかった。

リディア嬢が二人と何を話したのかは気になる。 だが、今はそれよりも重要なことがある。

大聖堂で起きた神託。

そして、それを巡って始まった教会の審査。

もし、あれが本当に王妃と教会によって仕組まれたものだとすれば。

私は少し考えてから、報告書を閉じた。

「……分かった」

私は諜報員を見据える。

「この件については、こちらから次の指示を出す。今は余計なことをせず、これまでどおり動いてくれ」

「承知しました」

諜報員が一礼し、部屋を出ていく。

扉が閉じる。

私は一人、机の上に残された報告書を見つめていた。



小国の国王視点


大国の王妃が帰国してから数日後、国王のもとへ一つの報せが届いた。

大国の王妃が、神託を受けた。

次代の王にふさわしき者として、第三王子の名が示されたのだという。

国王は報告書を読み終えると、しばらく何も言わなかった。

「……大国の王妃が、か」

嫌な予感しかしない。

第三王子を王位につける。

そんな神託を、大国の王妃が受けた。

偶然と考えるには、あまりにも出来すぎている。

大国が第三王子を担ぎ上げ、その影響力を利用するつもりなのか。あるいは、王家そのものへ介入しようとしているのか。

考えれば考えるほど、不穏なものしか浮かばない。

だが、厄介なのは大国だけではなかった。

ここ最近、国内でも第三王子を王に望む声が少しずつ増えている。

「レオンハルト殿下が王なら、冷害への対策も進むだろう」

「領地をあれほど立て直されたお方だ」

「しかも、ご自身は王位を望んでおられないという。だからこそ、あのお方こそ王にふさわしいのではないか」

そんな声が、街でも貴族の館でも聞かれるようになっていた。

本人が権力を欲しがらない。王位を望まず、領地で静かに暮らすことを願っている。

それがかえって、人々の心を掴んでいるのだろう。

国王は深く息を吐いた。

……本人は、王になどなりたくないというのに。

以前、あの息子ははっきりと言っていた。

領主として生きたい、と。

だからこそ、国王も安心していた。

だが、周囲がそれを許さない。

しかも、これまで第三王子が積み上げてきた実績を思えば、その声を単なる戯言として退けることもできなかった。

……あれほど有能な男を、王位から遠ざけておくことが、本当に国のためなのか。

そんな考えが、ふと頭をよぎる。

「……いかん」

国王は首を振った。

本人が望まぬものを、父親である自分が押しつけてどうする。

そう思いながらも、別の考えが胸の奥に残ってしまう。

第三王子が王になれば、この国は変わるかもしれない。

それは、父としてではなく、国王としての判断だった。

「……私は、何を考えているのだ」

国王は椅子へ深く身を沈めた。

まだ、教会から正式な報せは届いていない。

神託が真に神の御心であると、教会が認めたわけでもない。

だから、まだ何も決まってはいない。

それでも国王には、予感があった。

この神託を巡る動きは、やがて教会だけでは収まらなくなる。

その時、自分は父として息子を守るのか。

それとも、国王として国の未来を選ぶのか。

国王は、答えの出ない問いを抱えたまま、深く息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こう読んでいると茶番だと思うけどまず自分だけだと気づかない気がするし、神を信じていたら神託と受かってしまいそう 当たり前のように声の反射などからすぐ違和感に気づくのすごい
そこまていうなら、いっそ、この世の全てを我が手に掴んで見せようか! お前らが望んだんだからな! その日、未来の大王が覚醒したのだった
もう面倒だから、「大国」の王になってやれw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。