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数日後。
領都の城門に、一隊の騎馬が姿を現した。
先頭を進む騎士の胸には、大国王家の紋章を刻んだ徽章が輝いている。その腰には革筒に納められた書簡が厳重に下げられ、封蝋には王家の大印章が押されていた。
「大国王家より使節が参った」
城門の衛兵が声を張り上げる。
知らせは瞬く間に城内へ伝わり、領主である第三王子は、重臣や騎士たちを伴って謁見の間へ向かった。
ほどなくして、使節が厳かな足取りで入場する。
左右には護衛騎士が並び、その後ろには王家の旗を掲げた従者が続いていた。
使節は高座の前まで進むと片膝をつき、一礼する。
「大国王妃陛下より、殿下方への御書簡をお預かりしております」
使節はそう告げると、封蝋の施された書簡を恭しく差し出した。
レオンハルトはそれを受け取る。
「なお、御書簡の内容につきまして、要旨を申し上げます」
使節は一礼して続けた。
「王妃陛下は、婚姻後いまだ正式な御挨拶を果たしていないことを案じられ、このたび殿下方のもとを訪問することを希望されております」
列席する家臣たちは、わずかにざわめいた。
大国の王妃自らが、この地を訪れる。
それは単なる親族の訪問ではない。王妃の御来訪そのものが、両国の結びつきを示す外交上の大きな意味を持つ。
「王妃陛下は巡礼の途次に当地へ立ち寄り、大聖堂にて祈りを捧げられることを望まれております。また、当地滞在の折には、温泉にてしばし療養することも希望されております」
使節は一度言葉を切った。
「そして何より、御息女エリシア殿下との再会を望まれております」
そう述べると、使節は深く頭を下げた。
「つきましては、王妃陛下の御訪問につき、殿下の御許可を賜りたく存じます」
言葉が終わると、広間は静寂に包まれた。
第三王子は王家の封印が押された親書へ静かに目を向ける。
大国の王妃が、自らこの領地を訪れる。
その一通の親書が持つ重みを、この場にいる誰もが理解していた。
第三王子は高座から立ち上がり、使節へ穏やかに視線を向ける。
「王妃陛下が遠路お越しくださるとのお申し出、心より光栄に存じる」
使節は静かに頭を下げた。
第三王子は続ける。
「されど、これは一領主の判断のみで即答できる事柄ではありませぬ。王妃陛下をお迎えする以上、教会との調整、警備、宿所の手配、街道の整備に至るまで、万全を期さねばなりません」
列席する家臣たちも深く頷く。
隣国の王妃を迎えるということは、数百人に及ぶ供回りを受け入れることを意味する。
護衛騎士、侍女、司祭、侍医、料理人、馬丁、荷馬車隊、そのすべての宿舎と食糧を確保しなければならない。
さらに、王妃に万一のことがあれば、それだけで両国の友好は崩れ去り、戦火さえ招きかねない。
街道には巡察隊を増やし、橋や渡し場の安全を確保し、野盗を一掃する必要がある。
また、王妃が率いる護衛兵も国境を越えて入国するため、その人数や携行する武具についても事前に取り決めを交わさなければならなかった。
第三王子の言葉を受け、使節は深く一礼した。
「ご配慮、痛み入ります。返書を賜るまで、城内にてお待ち申し上げます」
使節は護衛とともに謁見の間を退出し、客室へ案内された。
扉が閉まると、第三王子は居並ぶ重臣たちへ視線を向ける。
「さて、評議を始めよう」
しかし、家臣たちの表情は明るくない。
「……歓迎すべきことではありますが、費用は莫大になりますな」
財務を預かる文官が静かに口を開く。
「王妃陛下のお供だけでも数百名。食糧、馬の飼料、薪、寝具、警備兵の増員……すべて合わせれば、小さな戦支度に匹敵いたします」
騎士団長も頷く。
「警備は我らにお任せください。ただし、街道の警戒を強めるためには近隣諸侯にも兵を出していただく必要がございます」
第三王子は一同を見渡した。
「よい。教会とも協議し、王妃陛下の巡礼の日程を調整する。宿舎は城だけでは足りぬ。近隣貴族の館と修道院にも協力を願おう」
そして、第三王子は続けた。
「街道の整備と警備計画も立案せよ。歓迎する以上、不備は許されない。そして、すべての準備が整い次第、正式な返書をしたためる」
その言葉に、重臣たちは一斉に頭を垂れた。
返答は今日ではない。
王妃を迎えるという一大事を前に、第三王子もまた、国を挙げて備えを整え始めるのだった。
一方で、王妃が巡礼を予定していると聞いた教会は、早くも歓迎の準備を始めていた。
王妃自ら聖堂で祈りを捧げれば、その教会の権威は大いに高まる。
寄進も期待できるうえ、巡礼に集まる信徒や商人によって町も潤う。
修道院では客室の整備が始まり、司祭たちは典礼の相談に追われていた。




