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大国視点
小国で第二王子の反乱が鎮圧され、国王が復権したとの報せが届くと、大国の王宮では急ぎ王国評議会が招集された。
重臣たちが円卓を囲み、国王が口を開く。
「諸君、この一件をどう見る」
外務卿が地図を広げる。
「第二王子は失脚し、国王は復位しました。しかし、実際に反乱を鎮めたのは第三王子です」
財務長官も続けた。
「阿片事業も、大聖堂建設も、難民救済も、すべて第三王子の領地が中心となっています。現在、小国の歳入を最も生み出しているのも、あの領地でしょう」
商務顧問が静かに言う。
「我が国が最も懸念すべきは、阿片貿易です」
部屋が静まり返る。
「今は順調です。しかし、国王と第一王子が政争を恐れ、第三王子を排除しようとすればどうなるでしょう」
誰も答えない。
「阿片事業は止まり、難民救済も止まるでしょう。小国は再び混乱し、我が国との交易も途絶えます」
軍務卿が腕を組む。
「内乱が再燃すれば、国境にも兵を張り付けねばならぬ」
財務長官は深く頷いた。
「莫大な利益を生む阿片も失われます。我が国にとって損失は計り知れません」
しばらく沈黙が続いた。
やがて老宰相が静かに口を開く。
「つまり、問題は一つです」
全員の視線が集まる。
「現在の国王は玉座に座っております。しかし、小国を支えているのは誰でしょうか」
誰も反論しなかった。
老宰相は続ける。
「国を最も安定して治められる者を王位に就ける。それこそが、我が国にとっても、小国にとっても最善でしょう」
国王はゆっくりと頷く。
「……第三王子か」
「はい」
老宰相は迷いなく答えた。
「レオンハルト殿下は、すでにエリシア王女との婚姻を結ばれております」
一人の評議員が静かに口を開いた。
「隣国との同盟は、もはや殿下個人ではなく王家そのものに結ばれたものです。王女殿下を迎えた以上、殿下が国王となられるのが最も自然でしょう」
「異論はありません」
「私も同意します」
「レオンハルト殿下こそ、小国の王となるべき御方です」
異論を唱える者はいなかった。
こうして王国評議会は満場一致で、第三王子を国王へ擁立する方針を決定した。
教皇庁に、一人の外交官が姿を現した。
大国の紋章が刻まれた使節の証を携えたその男は、表向きには教会への献金と、難民救済について協議するために訪れたことになっている。
教皇庁には、各国の大使や聖職者が日々出入りしている。
そのため、大国の外交官が訪れたとしても、不審に思う者はいなかった。
案内された先は、教皇庁の奥深くにある一室だった。
重厚な扉が閉じられ、部屋には教皇の信任厚い枢機卿だけが待っていた。
外交官は静かに一礼する。
「お招きいただき、感謝いたします。」
枢機卿も穏やかに頷いた。
「冷害の被害は各国へ広がっています。難民も増え続けていますから」
「ええ。しかし、一つだけ例外があります。第三王子の領地です」
外交官は静かに言った。
枢機卿は黙って耳を傾ける。
「難民の受け入れは順調に進み、大聖堂の建設も予定どおり進んでおります。巡礼者や商人も集まり、領地には活気があります」
それは教会も把握している事実だった。
飢えた民へ施しを行い、修道士が治療に当たり、大聖堂の建設は多くの職を生み出していた。
絶望に包まれた各国とは対照的に、その領地だけは未来へ向かって歩み始めていた。
外交官は続ける。
「しかも、その資金の大半は第三王子自身が生み出しております」
阿片の加工技術。
医薬としても価値を持ち、莫大な利益を生む国家最高機密。
その利益が、難民救済と大聖堂建設を支えていた。
「それほどの富を持ちながら、私欲に使いません」
枢機卿は静かに呟く。
「ええ。あの方は領民のために使います」
外交官は迷いなく答えた。
「だからこそ、我国は第三王子を王に望みます」
枢機卿は外交官を見つめた。
「一領主のままでは、その力は領地に留まります。しかし国王となれば、その施策は国全体へ及ぶ。飢饉に苦しむ隣国より、立ち直った同盟国の方が我が国にとっても利益なのです」
部屋に静寂が流れる。
現国王は冷害への対応に追われている。
しかし、国を立て直す原動力となっているのは、第三王子の領地だった。
「しかし、その功績が一領主のものとして積み重なれば積み重なるほど、他の諸侯の嫉妬や警戒を招くでしょう」
このまま領主として働き続ければ、やがて国内の均衡は崩れる。
その莫大な財力も、人望も、現国王の下に置いておくには大きすぎる。
「万が一、政争によって第三王子が失われれば」
外交官は低い声で続けた。
「難民救済も、大聖堂建設も、阿片事業も止まります」
枢機卿はゆっくり目を閉じた。
教会にとって、それは決して受け入れられない未来だった。
ようやく救われ始めた民を、再び飢えへ戻すわけにはいかない。
「教会のお考えは」
外交官は静かに尋ねる。
枢機卿は静かに首を横へ振った。
「この場でお答えすることはできません」
外交官は黙って頷く。
「この件は、教皇庁にとっても重大な問題です。教皇猊下ならびに枢機卿団で慎重に協議いたしましょう」
外交官は深く一礼した。
「ご賢明なご判断に感謝いたします」
それ以上、二人は何も語らなかった。
外交官は静かに部屋を後にした。




