第26話 パーティの戦い方
「始めましょう」
先に動いたのはレオニスだった。
盾を正面に出し、まっすぐ距離を詰めてくる。
速いわけじゃない。だが、立つ位置が悪い。
半歩下がればバンの間合いへ入る。
横へずれれば、盾が進路を切る。
そこへ、バンが来る。
大剣が上から落ちた。
受けない。右へ抜ける。
だが、その抜ける先にレオニスの剣がある。
「っ」
鎌で払う。払った瞬間、今度はバンの二撃目が横から来る。
身体をずらす。
だが、ずらした先ももう整えられていた。
一人なら、読めば届く。
だが二人だと、読む前にもう片方がその先にいる。
バンが低く言う。
「どうした」
そのまま前へ出る。
「来ねぇのか」
レオニスの盾を避ける。
だが避けた結果、またバンの正面へ戻される。
そこでようやく、構造が見えた。
レオニスは攻め急いでいない。
盾と剣で位置を切り、俺の逃げ道と踏み込み先を狭めている。
その先で、バンが圧をかける。
別々に攻めているんじゃない。
一人が位置を作り、一人がその出口を潰している。
一対一なら、隙を見つければそこへ入れる。
だが二対一では違う。片方の隙は、もう片方から見れば到達点になる。
速さで上回っても、届く場所を先に押さえられれば意味がない。
なら、先に切るべきはどっちだ。
バンは圧だ。正面から潰してくる。
だが、レオニスがいる限り、その圧は何度でも形を変える。
連携の芯は、あっちだ。
そう見えた瞬間、俺はあえて半歩だけバンの正面へ寄った。
大剣が動く。
待っていたのはそれだ。
バンに踏み込ませれば、そのぶんレオニスの位置は固定される。
俺はバンの刃を紙一重で外し、すぐ内側へ潜る。
狙いはその奥――レオニス。
だが、盾がもうそこにあった。
「……!」
遅い。
いや、違う。
読まれている。
レオニスは受けに回ったんじゃない。
俺がバンを餌にして自分へ来る、その動きごと待っていた。
鎌の軌道を盾で止められる。
その瞬間、後ろからバンの圧が迫る。
下がるしかない。
だが下がれば、また同じ形へ戻る。
そこで理解した。
二人は並んで戦っているんじゃない。
一人が見せ、一人が刈る。
片方に意識を寄せた時点で、もう片方の間合いへ入っている。
俺は一度踏み込みを止め、半歩だけ距離を切った。
その瞬間、バンは追ってこなかった。
代わりにレオニスが前へ出る。
盾が壁になる。
視界が狭まる。
その横から、バンの大剣が迫る。
俺は鎌を逆手に持ち替え、盾の縁を叩いた。
硬い音。
わずかに軌道がぶれる。
その隙に、レオニスの脇を抜ける。
狙うのはバンじゃない。
まずレオニスを切る。そうすれば連携が崩れる。
――取れる。
そう判断した瞬間、剣先が喉元に止まっていた。
「……っ」
息が止まる。
違う。
空いていたんじゃない。
入らされた。
いつの間に、ではなかった。
盾を叩いた時点で、もうそこへ入る位置にいたのだ。
俺が抜けると決めた瞬間には、その先に剣を置いていた。
「そこまでです」
レオニスが静かに言う。
同時に、背後ではバンの大剣も止まっていた。
あと半歩でも動けば、どちらにせよ終わっていた。
訓練場が静まる。
俺はゆっくり息を吐き、鎌を下ろした。
「……負けだな」
「ええ」
レオニスは剣を引いた。
バンも肩を回しながら大剣を担ぎ直す。
「一対一じゃお前に勝てねぇ。だが、足りねぇ部分を埋められる。それがパーティだ」
短い言葉だった。
だが、十分だった。
アリシアが心配そうにこちらを見る。
「大丈夫ですか?」
「問題ない」
そう答えたが、胸の内側は妙に重かった。
一対一なら届く。
だが二人になるだけで、勝ち方そのものが変わる。
見えた隙に入る。
相手の癖を読む。
その一瞬で終わらせる。
だが、それだけでは足りない。
レオニスが口を開く。
「怜さんの強みは、よく分かりました。踏み込みの速さ、一瞬の見切り、そして致命の一点に届く精度。あれは明確な武器です」
一拍置く。
「ですが、複数を相手にする時は、その強みだけでは足りません。どこで削り、どこで崩し、誰から先に切るのか。組み立てが必要になります」
バンが鼻を鳴らす。
「タイマンなら危ねぇ。だが、二人になるとまだ荒い」
それはその通りだった。
言い返す気にもならない。
ミレイが杖を肩に乗せる。
「でも、弱点が見えたなら十分でしょ。アリシアの一手がそこに噛めば、また全然変わるし」
その言葉に、アリシアが杖を握り直した。
小さく、だが確かに前を向くように。
レオニスが最後に言った。
「明日は朝から林の続きを追います。その前に、今の感覚を忘れないでください」
俺は短く頷いた。
「……分かった」
一人で勝つための戦い方なら、磨いてきた。
だが、今日見せられたのはそれとは別の強さだった。
一人が位置を切り、一人が仕留める。
一人が隙を見せ、一人がその先を塞ぐ。
一人では作れない勝ち筋も、二人なら形になる。
――これが、パーティの戦い方か。
俺はその感覚を、静かに胸の内へ刻んだ。




