形勢逆転?
目に見えてというわけではないが徐々に蓮華率いる霧ヶ谷組が押してきている。それにアネの言っていた通りひとりひとりが蓋世組の者たちよりも強い。そのことを龍也は実感していた。数では勝っているはずなのに……という感情だけが取り巻く。
焦りが見え始めている部下たちを見て龍也がとれる行動はただ一つである。この場の指揮をしている敵の大将……つまり霧ヶ谷蓮華を倒すことだけ。
頭の中でその考えが浮かんだ途端に龍也は静かに周りに視線を動かす。入り乱れる人間の中から一人の少年を探し出す。
「見つけた」
その瞬間、一気に駆け抜けた。蓮華目がけて一直線に。
金属バット振りかざす。
龍也の放つ殺気に気付いた蓮華は剣で受け止めた。しかし、力のこもった龍也の一撃はあまりにも重く蓮華は自ら後ろに飛ばされることを選んだ。混戦している場所から無理やり抜け出され、一対一に持ち込まれた。
「後ろに飛ぶとはいい判断だな」
「そりゃどうも」
しっかり防いだはずだが、蓮華のバットを受けた右手は痙攣してうまく動かない。同時に剣自体もダメージがでかすぎて折れてしまった。
厄介だな、あれ……
龍也にとってこの状況は自ら作り出したもの右手の痙攣は見えている者もいればそうでないものもいるだろう。だが、剣が折れたのはほとんどの者が見ているはずだろう。そして蓮華が吹き飛ばされた姿も……
つまり龍也にとってここまでは味方の士気を上げるためのデモンストレーション。
「このガキは俺が必ずぶち殺す。だから……それまで、何とか持ちこたえろ」
蓮華は小さく舌打ちをする。それは龍也に押し負けたことえの苛立ちではない。
集団戦において最も重要なのは味方の士気を上げること。そのためには勝ち筋を見える戦略を提示したり、この人なら何とかしてくれるという信頼を事前に作っておっくということが大事になってくる。
その場に存在するあらゆる要素が士気の上下に関わってくると蓮華は考える。戦略も信頼も士気を上げるための一要素でしかないのだ。
戦略はあらかじめ作っておいた。信頼ももちろんある。だからこそ油断してしまっていた。一度下がった士気を取り戻すのは容易ではないが、一度上がってしまったら士気は急激に上昇するものだ。
つまり蓮華はこの優勢な現状に甘え、起こりうる可能性のある未来を見ようとしていなかった。だから蓮華は最後の最後で後手に回ってしまった。
◆
蓮華は左手で剣を振るう。今使っている剣は予備のものだ。そして、この予備は今はもう手元にはないため、また折れることは避けたい。
加えて利き手の自由が利かない今は防戦一方の状態。
そんな二人の戦いが全体の戦況に呼応したのか霧ヶ谷組が勢いをなくし始める。いや、正確には蓋世組が士気を取り戻したと言った方が正しいだろう。
そんな戦況をどうにかしようとしたのか一人の男が混戦の場から飛び出してきた。
「ぼっちゃん!!!」
そう叫んだ大黒。この男だった時点でおそらく味方の士気などということは全く考えてはいないだろうが、本能的にやるべきことをやろうとする大黒には龍也も少し驚く。
だが、そううまくはいかない。
大黒の真下から土の壁が出現する。その壁が大黒のあごに直撃した。
「がはっ!!」
そのまま地面から数メートル離れ、間を空けずに大黒の周りに風が吹いた。その風で一気に別の軍艦の方に飛ばされた。
蓋世組の中から三人が大黒が飛ばされた方の軍艦に向かう。
無造作に上空から落とされる大黒。重力に加えて風による初速も合わせた落下。かなりの衝撃になるはずだが大黒は何とか体制を立て直し、しっかりウィースも足に集中して着地する。
「いってー」
大黒はあごを抑えながらこぼした。蓮華のことしか見えていなかったため反応が少し遅れた。それでも打たれ強い大黒はそこまで痛そうにはしていない。
そんな大黒に遅れ大和、大雅、大樹の蓋世組の三バカが風に乗って降りてくる。
「悪いがボスの邪魔はさせられない」
二人より少し前に出て、そう大樹が言い放った。なんだか、かなり格好よく。そんないい感じの大樹に影響を受けたのか大雅が言った。
「俺もそれ言いいてえ」
「なに言ってんだ。これは俺のセリフだ」
「いや、お前より俺の方がそのセリフ似合う!」
「知らねえよ! それにもう一回同じことしたら逆に格好悪いぞ」
「じゃあ、同じことしなきゃいいわけだ」
「大雅……お前…………」
「なんだよ……」
二人の間に沈黙が流れた。
「……冴えてるー!!」
「まじか!?」
「ああ、お前普段はバカなくせにこういう時はすげー頭いいな」
「それほめてんの?」
「ほめてるよ。だってどんなに頭いい奴でもこういう土壇場でその頭使えないと意味ねーだろ」
「…………たしかに!! でもそういうことを考えられるお前もけっこう頭いいと思うぜ」
「さんきゅー! って、そろそろどうするか決めようぜ」
「そうだなー。もういっそのこと一緒にやっちまえばいいんじゃね?」
「大雅……お前…………」
「なんだよ……」
二人の間に沈黙が流れた。
「……冴えてるー!!」
「まじか!?」
「ああ! でもいいのかよ、俺も一緒にやっちまって……」
「いいんだよ。だって俺たち……仲間だろ」
「大雅……お前……」
「なんだよ……」
二人の間に沈黙が流れた。
「めっちゃいい奴やん!」
「そうか!?」
「なに嬉しそうにしてんだよ」
「いや、だって……」
「もういい。ほら、一緒にさっきのセリフ言おうぜ」
「ああ」
「「せーの…………あれ……俺(お前)なんて言ったっけ」」
「結局どっちもバカじゃねーか!!」
さすがに見てられなかったのか大和が割って入って来た。そのまま、ツッコミとは名ばかりの説教が始まる。
こんな醜態をさらし出してきた三人、というか主に二人を見て大黒は思った。
さすがに俺はここまでバカじゃねーや、と。
だが大黒も同じくおつむが弱いことには変わらないのだ。
「さて、時間稼ぎはこれくらいでいいか」
説教をやめ大黒に向きなおった大和はそう言った。
そう、今まで大和がツッコミたい欲を抑えただ黙ってアホ二人のやり取りを聞いていたのはそのためだ。
もっと言ってしまえば大黒を孤立させようと言い出したのも大和だ。
「ていうか、あいつかなり強いだろ。俺たちで勝てるのか?」
大樹はそう大和に聞いた。
「さあ、勝てるかどうかはわかんねーよ。でもあいつはけっこうウィースを消費してるはずだ。それにボスは待ってろと言った。これが最善だ」
「さいぜん?」
今度は大雅が疑問を口にする。
「ああ。どんな能力かは知らんがあいつの一撃は戦況の優劣をひっくり返す恐れがある。だからなるべくあいつをあの場から遠ざけておきたかった。自分から出てきてくれたからやりやすかったな」
「なるほど。いや、そうじゃなくて『さいぜん』って何?」
「え!? なに、『最善』の意味を聞いてたの!?」
大雅はだまってうなづいた。
大和は思わずため息をついた。
「最善ってのは……」
そう言いかけたところで大黒は三人に向かってきた。三人とも後ろに飛んでかわしたが大きな音を立て軍艦の硬い甲板に穴が開いた。
「つまり俺は、お前にしてやられたってことか」
大和は蓮華に突っ込み氏などと馬鹿にされたがこう見えて頭は切れる。
「ああ。この二人ほどじゃないにせよあんたもバカで助かったよ」
大黒は自分を落ち着けるように長く息を吐いた。
「そうか」
そう言って大黒は右手の手袋を取った。




