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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
夏休み 獅子王島編
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形勢逆転

 何人倒してもゾンビのように湧いてくる蓋世組の者たちに対し、大黒は苛立ちを隠せなくなってきた。ウィースの操作を雑さが目立ってくる。


「なんなんだよ! このモブキャラども!」


 そう悪態をつく大黒。正直、そんな風に思ってしまうのはよくわかるのだが、和馬は少しでも落ち着かせようと努める。


「ウィースの消費は抑えつつ援軍を待つというのがぼっちゃんの指示ですよ」

「うるせえ。イラつくもんはしょうがねえだろ」

「まったく。大黒、あなたはもう少し冷静になるということを覚えた方がいいですよ」


 和馬は首を横に振りながら大きくため息をついてみせた。


「今はお前の方にイラつきがむいてきたわ。あとで覚えとけよ」

「私、無駄なことは覚えない主義です」

「おい!」


 そう言って和馬はメガネの位置を整えた。


 二人はいつも通り。こんな状況であるのにも関わらず、そのいつも通りを保っていられる大黒と和馬に蓮華は普通に感心した。そう考えられている蓮華も二人動揺、余裕の表情だ。


 そんな中、多少疲れが見え始めたのがエリカだ。先ほどの複雑な能力の使用が尾を引いているようだ。呼吸が荒い。


「エリカ! おい、エリカ!?」


 蓮華がそんなエリカに声をかけるが聞こえてはいないようだ。


 やばい。最初に飛ばしすぎちゃったかな……


「エリカ、後ろ!」


 蓮華は舌打ちをしながらエリカの後ろに回り込む。キンっ、という高音がエリカの耳に届き蓮華に守られたことに気付いた。


「何してんだ?」

「ごめん。疲れてきちゃって」

「そうか。じゃあ、とりあえず俺の近くにいろ。援護だけ頼む」

「わかった」


 とは言ったものの、いくら敵を倒したところで骨折り損のくたびれ儲けってやつだな。


 いつの間にか蓮華たちはもう逃げ場もなく船のはじの方に追いやられてしまう。右を見ても左を見ても敵だらけで、打つ手がなくなってくるであろうというとき……


「そろそろかな」


 蓮華がそうつぶやくと、数秒の沈黙のあとに砲弾の音が聞こえた。砲弾を撃ったのは両端の軍艦。真ん中にある軍艦目がけて砲弾が続けて飛んでくる。蓋世組の面々の悲鳴が上がってくる。


 それに畳みかけるように蓮華たちの背後から森の消火作業を終えた霧ヶ谷組の七番隊が現れる。彼らは蓮華を守るように全員が前に集合し敵ににらみを利かせた。


「どうなってんだよ!?」


 蓋世組の一人が彼ら全員の疑問を代弁したかのように声を張り上げた。


 事は単純だ。手薄になった残り二つの軍艦を霧ヶ谷組が奪っただけのこと。奪ったのは七番隊ではなくメイド部隊。彼らが蓮華から受け取ったメモにはこう書かれていた。


『屋敷に戻ってドローンでこっちを見ろ。俺がドローンに気付いて剣を持っているて変えたら軍艦を奪って砲弾をぶっ放せ』


 龍也を含めた蓋世組の全員が何が起こったか理解できていない。


 蓮華は初めから潜入していた敵の構成は一人ではないと気づいていた。いや、正確に言えば二人以上いるだろうと警戒していた。だから、メモを残すという回りくどいやり方した。


 また、敵の構成員を一人倒したあとに作戦を変え、それを実行に移すことで自分がそのことに気付いていないと思わせるように仕向けたのだ。


 大胆かつ無謀な奇襲を仕掛けたのには理由が二つある。


 一つは、これ以上の砲弾を防ぎ一刻も早く七番隊に森の消化をしてもらうため。


 もう一つは、敵をより多く自分たちのいる真ん中の軍艦に集めメイド部隊に滞りなく仕事をこなさせるためである。そのため、敵に考える時間を与えないかつ、たったの四人ということで倒せるだろうと思わせる奇襲をした。


 本当はメイド部隊に任せた仕事も七番隊が来るまでの時間稼ぎのつもりだったのだが、蓮華の予想よりも七番隊が優秀だったためほぼ同時になってしまった。


 七番隊が真ん中を人が通れるように開け、そこから蓮華が歩いてくる。


「いてっ」

「すいません、ぼっちゃん。けっこう狭くて……おい、もうちょっとつめろ」

「いや、いいって」


 そう言いながら蓮華は前に進む。だが、やっと出られると思った矢先、体勢が崩れ前に倒れてしまった。蓮華の顔面は地面にめり込んだ。


『ぼっちゃん!?』


 蓮華はゆっくりと立ち上がった。


「いててて……」


 鼻からは血がしたたり落ちてきていた。


「大丈夫ですか。ぼっちゃん」

「誰だ! ぼっちゃんに足かけたやつは」

「出てこい!」

「まったく時と場合を考えろよ。ぼっちゃんの格好がつかねーじゃねーか」


 本当に蓮華のことを慕っているゆえの空回り。


 蓮華は静かにポケットからティッシュを取り出し丸めて鼻の穴に突っ込んだ。そんな蓮華の健気な姿を霧ヶ谷組も蓋世組も関係なく、声一つ出さずに見守っていた。


「今日は……その……なんだ…………チョコだよ。チョコ! チョコを……ね、食べすぎちゃったからさー!」


 蓮華も不測の事態に頭がついていけなかったのかそんな言い訳を口にした。


 そんな気まずい沈黙を大黒が破った。誰かを殴ったかのような鈍い音がした。


「なあ和馬。ティッシュ持ってねー? 鼻血出ちゃってさー」

「大黒……あの顔が腫れて……」

「なんだろ。ちょっとエロいこと考えてたからかな? 最近そっちの方が全然だったからなー」


 和馬はティッシュを大黒に渡すと大黒は蓮華と同じように鼻にティッシュをつめながら前に向かって歩き出した。蓮華の隣に立つと二人は目配せを交わす。


「「覚悟はできてんだろうな!!!!」」


 何事もなかったかのように蓋世組に向かって言う二人。そんな二人を見て霧ヶ谷組の面々は思った――


――蓋世組のみなさん…………なんか……ごめんなさい。

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