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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
夏休み 獅子王島編
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メイドの仕事

 蓋世組の者たちが蓮華たちの奇襲に態勢を整え始める。真ん中の軍艦にほか二つに乗っている構成員たちが集まってくる。四対多数。蓮華たちが不利なのは明らかである。


 蓮華が龍也と少し剣と言葉を交えていただけでこんな形になってしまった。


 達也はバットを地面にたたきつける。


「お前たちの奇襲は失敗だな」

「でも、びっくりしたでしょ?」


 蓮華はそう言ったが龍也はバカにするようにように鼻で笑った。


「悪いがお前たちが四人で奇襲を仕掛けてくるのはわかってた」

「……なるほど。潜入してたのは二人いたのか。一人目はわざと見つかったってわけか」

「ああ。頭の回転が速い奴は説明が楽で助かる」


 ふーん。どうりで対応が早いと思った。


 蓮華は小さく舌打ちをしてみせる。


「さて、俺と一対一だと思ったかもしれないが……これからお前はリンチだ。卑怯とは言うなよ……俺たちはヤクザだからな」


 蓮華と龍也を囲むように蓋世組の構成員が集まってくる。全員ヤクザらしい悪い顔をしている。


「でも、俺にこんなに人数割いていいのか」


 蓮華がそう言った瞬間、蓮華の背後から光弾が数えきれないほど飛んできた。それは蓮華を避けてまっすぐに駆け抜けていく


「あいつは足止めしてたはずじゃ……?」


 そんな動揺の言葉が龍也の口から漏れる。先ほどと同じように多くの者が傷を負う。しかし、蓋世組は休ませてはもらえない。


 和馬の放った光弾で道を開けることはできた。その後は自分の仕事だと言わんばかりに大黒が蓮華の上を通って龍也に向かって行く。


「ぼっちゃんをリンチだあ!? やらせるわきゃ……ねえだろおおお!!!」


 大黒が右手を振りかぶった。だが、蓋世組の男が一人龍也の前に割って入ってくる。それとほぼ同時に土壁が現れる。


「くそっ!」


 大黒は仕方なくその土壁を破壊した。


「「ボス! 大丈夫ですか?」」


 土壁を作った大雅以外の二人、大和と大樹が龍也に駆け寄る。龍也は一言「ああ」と言って応じた。龍也は蓮華を凝視する。


「ぼっちゃんお怪我は?」

「問題ない。それより和馬、思ってたよりそっち早く片付いたな」


 そう言いながら蓮華は和馬のいる後ろを見た。


「実はほとんどエリカ様が片付けてしまって」

「和馬……お前が冗談言うなんてな」


 蓮華はそう言って少し「ふふっ」と笑ったが和馬は何も言わない。


「……まじで?」

「……まじです」

「どうやって?」

「えっと私が見たのは、エリカ様が下種な目をした変態たちに囲まれていたところで、助けに向かおうとしたら一瞬で全員倒れました」


 二人が話していると大黒とエリカも近づいてきた。もちろん警戒は決して解かない。


「私は音を操る能力なんだよ」

「音?」

「うん。人が気絶する超音波を放ったって感じかな?」

「俺らは大丈夫なの?」

「音が届く範囲は私が調整できるから問題ないよ」


 エリカは自信満々に胸を張った。蓮華は驚いたのか声を出すことなく顔が引きつっている。


「相変わらず能力ってのはでたらめだな」

「それって褒めてる?」

「ほめてるほめてるー」


 少し棒読みがちの蓮華。エリカは不満げな顔をするがそんなことをしている場合ではない。またもや敵の意表を突けたとは言え劣勢のこの状況は変わらない。それに、


「言いにくいんだけど、私もうさっきみたいなことそうできないから」


 エリカは蓮華と目を合わせないようにしながら苦笑いを浮かべた。


「なんで?」

「あそこまで能力を細かく操作するとウィースの消費が激しくて」

「まあ、別にそう何回もできたら強すぎるからな。そこまでの過度な期待はしてねえよ」

「いや、別に期待してもいいよ」

「お前は何をもってそんなに言い切れるんだ」


 蓮華はため息をつきながら蓋世組に向きなおった。そして、蓮華は眼前の敵を見下すように口元つり上げた。


「さーて……続き……始めようか」





 川島などライブ関係者を連れてメイド部隊は霧ヶ谷組の屋敷に帰って来た。彼女たちのリーダーである桜は他の五人に川島たちの案内を頼み、一人で屋敷の地下に向かう。


 そこには十数人が各々ディスプレイを注視している。桜がその部屋に入ってきたことに気付いた技術班の一人、耕作が声をかけた。


「ドローンはもう動かしています」

「そうですか。あと、森の消火作業ですが……」

「それは七番隊に行ってもらいました」


 蓮華の命令がなくともここまで彼の意図を読み取って行動していることに桜は驚きとともに「やっぱりか」と、自分の中で予想できていたことでもあった。


「ぼっちゃんたちの奇襲のおかげか、もうすでに砲撃は止んでいるので消火作業は順調すぎるほどに進んでいます」


 大胆にもほどがある奇襲にはそういう意味があったのだと、改めて気づかされる。


「七番隊はもうすぐぼっちゃんたちの増援に迎えます」


 桜はここで思い出したように蓮華から渡されたメモを見て、思わず笑ってしまった。


 まったく蓮華様は人使い……いやメイド使いが荒いですね。薺が喜びそう。


「耕作さん。蓮華様の方にドローンを回すことはできますか?」

「できますよ。蓮華様の指示ですか?」

「はい!」


 桜の元気な返事に耕作は静かに笑う。


「ちょっと待ってください」


 そう言って耕作は桜から視線を外して、技術班のほかのメンバーの方に顔を向けた。


「余ってるドローンあったよな? 出せるか?」

「問題ありません。今すぐ出せます」

「じゃあ、早く出せ。ぼっちゃんたちの様子を見る」

「ぼっちゃんたちの様子を見るのなら、今近くを通っているドローンが一機あります。そのあたりの避難はほとんど済んでいるのでそちらを使った方が効率がいいかと」


 耕作は同じ技術班のその言葉に迷うことはなく答える。


「よし。そっちを使え」

「わかりました。メインモニターに映像うつします」


 そこに映っていたのは明らかな乱戦状態。しかし、蓋世組は真ん中の軍艦に密集している。誰が見ても蓮華たちにつられているのが分かる。


 そして桜はそれを見た瞬間に理解した。蓮華たちは自分たちの援軍を待っているのだと。


 桜がそう思い立った時、すでに彼女の口は小さく動いた。


「蓮華様。もう少々……お待ちください」


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