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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
夏休み 獅子王島編
40/45

大胆な奇襲

 蓮華はエリカ、和馬、大黒の三人を連れて走っている。敵の軍艦が泊まるであろう場所に敵よりも先に着くためだ。できれば敵が島に上陸するのは防ぎたい。


「というわけで、やつらを船の上で足止めする」


 蓮華が今回の戦いでのプランを話し終えると和馬がメガネを中指で整えながら言った。


「霧ヶ谷組が避難誘導などを終わらせて戦力が増えるまでは我々だけでなんとかしなければいけないのですね」

「なんだよ和馬。こわいのか」

「別にこわくはありませんよ。大黒こそいつもみたいに考えなしに突撃したりはしないでくださいね」

「う……我慢は、する」


 大黒の自信のない返事に対して和馬はため息をついた。だが実際のところお互いの強さはよく理解しているので全然心配なんてしていない。


 蓮華も同じくそんな二人を気にすることなく足を動かしている。だが、気がかりはある。それはエリカだ。蓮華にとって、唯一の悩みの種。


「蓮華くんこっち見てどうしたの。ライブの私がきれいだったって褒めてくれるのは後にしてね」

「違うわ! ……その、なんて言うか、大丈夫なのか?」


 蓮華たちについてきている時点でエリカがジェンティーレであることはうかがえるが、蓮華にとってはそれしかわからないから不安は残る。


「お前は客だし、俺たちのよくわからん争いに巻き込まれただけだろ。正直に言うと怪我とかされるとさっきのマスコミみたいなやつらが面倒なことになりそうだし」

「私のこと心配してくれてるのかと思ったら違って少し悲しいよ。結局自分のためだったんだね」


 わざとらしく泣き始めるエリカを特に表情を変えることなく一瞬だけ見てすぐに目をそらした蓮華。


「……なんか言ってよ!」

「いや、なんか今のお前めんどくさいなーって」

「なんでそうなるの? かまってよ。私、こう見えてかまってちゃんなんだよ」

「知らねーよ。聞きたくなかったよそんな新事実…………てか、お前マジであのエリカ・リートリーなのか? 本当はどっかで入れ替わってるんじゃねーの?」

「本当だよ。ほらスリーサイズだってプロフィール通り」

「それこそ知らねーよ。俺はエリカ・リートリーのファンだけど、エリカの体には興味なかったし」


 蓮華はエリカの精一杯の水着セクシーポーズに全く動じない。それどころか見ようともしていない。そんな蓮華を見てエリカはふてくされたように頬を膨らませた。


「二人ともそろそろ着きますよ」


 和馬がそう言うと蓮華たちは表情を変えた。





「そろそろ島に着く。そしたら一気に霧ヶ谷組の屋敷に向かうぞ。市民の相手は時間の無駄だから、まっすぐ行けよ」


 龍也はそう言って自分も気を引き締める。あと数分で到着だ。


 そう思っていた矢先、上空から無数の光の弾が降り注ぐ。警戒すらしていなかった空からの攻撃に蓋世組の面々は龍也を含め、顔が一瞬で青くなった。


「なんだこれ!」

「くそっ!」

「ぎゃあああ!!」


 悲鳴が上がる。しかし、みな致命傷は避けられているため、死人が出ている感じはない。


「まさかあっちが奇襲を仕掛けてくるとは」


 不意は突かれたが、甲板にいた龍也はかすりもせずに避けていく。


 その光弾の雨は三十秒ほどで止み蓋世組の頭の上に四人の人影が見えた。四人は見事な着地を決め蓋世組の前に立ちはだかる。


 数秒の沈黙があり、蓋世組の一人である大樹が言った。


「ボスを守れ!」


 何が起こったかわけがわからずに動けないでいる蓋世組に喝が入った。大樹を含め、蓋世組の中で土属性の能力を持つ者たちが蓋世組とその四人をを分けるように土の壁を作った。それは見るからに分厚く、そして頑丈である。


「ボス、今のうちに後ろへ」


 自分の部下にそう言われたが龍也はそこから引かなかった。ここで引くわけにはいかないという考えに本能的に至った。




 蓋世組の者たちによって阻まれた土の壁に対し蓮華は特に思考などしていなかった。なぜなら能力によって壁を作るのは想定のうちだから。


 それに少しでも長く時間稼ぎをしておきたい蓮華たちにとっては相手が防御姿勢を取ってくれるのはむしろ好都合。


 しかし、このままだまって敵に態勢を整えられるのも面倒という結論になった蓮華は静かにゆったりとした口調で言った。


「大黒」


 大黒は名前を呼ばれただけで自分が何をすべきか理解した。そして大黒は蓮華に笑みを浮かべた。


「了解です」


 大黒は右手にウィースをこめる。すると、普通にウィースをこめたら出るはずのない機械音が鳴った。それは決して大きくはないが耳を澄ませば聞こえる。それくらい小さな音。


 拳を振り上げ土壁に向かって放った渾身の右ストレート。大きな音がして殴ったところに穴が開き破片が飛び散り煙が上がる。


 その煙の中から一気に四人が飛び出してきた。


 その姿に驚いたのか蓋世組の数人が蓮華たちに向かって銃を撃った。


 その銃弾に和馬が目を光らせる。手のひらの上に野球ボールほどの大きさの光の弾をふわふわ浮かせた。そして、その玉から先ほど蓋世組を上空から襲ったものと同じ光弾が複数飛び出す。その光弾は放たれた敵の銃弾を蓮華たちに届く前に撃ち落とした。


 蓮華は走ることをやめなかった。狙いはただ一人、ここに来る途中ドローンで確認した敵の総大将、鬼道龍也。ほかの三人は蓮華の走る道に邪魔が入らないようにほかの者をなぎ倒していく。


 蓋世組はやはり対応しきれていないのが窺える。


 一番驚きなのはエリカだ。蓋世組に引けを取らないどころか一人、また一人と倒していく。先ほど自分で話していたようにライブを台無しにされたことに相当怒っているようだ。顔がこわい。


 そうこうしている内に蓮華は龍也のもとにたどり着き、あいさつ代わりに一振り叩き込んだ。龍也のナイフと蓮華の剣がぶつかった。


「お前は、霧ヶ谷聡明の孫か」

「そうだけど」

「本当は爺さんとやりたかったんだけど……」


 龍也は無理やり力で蓮華を退けた。


「まあ、お前も強そうだな」

「俺なんてまだまだですよ」


 二人はまた打ち合う。蓮華の突きを龍也は上にはじきガラ空きになった胴体に新しく展開した銃のアクセプションで狙う。しかし、その銃弾すら蓮華の部下の和馬によってはじかれた。それに龍也は一瞬驚いた。


「なっ!」


 蓮華はその隙に剣を上から振り下ろした。龍也はそれを後ろに飛んで回避。それを見越して蓮華もナイフもアクセプションを展開してそれをすかさず投げた。投げられたナイフは蓮華の狙い通り龍也の持っている銃に向かい、それを龍也の手から離させた。


 そして、蓮華はできる限り体勢を低く保ちつつまた一気に距離を詰める。龍也は何とかしようとナイフを振り下ろしたが、ナイフという武器のリーチの無さと蓮華の低い姿勢のせいで追い付かない。蓮華は間合いどころか龍也の懐にまで入ってくる。そのため斬るのではなく剣の柄頭を龍也の腹に一発ぶちかました。


 靴の裏の摩擦でなんとか止まった龍也。しっかりとウィースをこめて防いでいたようでケロッとしている。


「やっぱ強いじゃねーか」

「どうも」

「てか、能力は使わねーのか」

「まあ、スクルータなんで」

「そうなのか」


 龍也は少し考え、部下の一人に声をかけた。


「おい。あれ持ってこい」

「はい、すぐに」


 そう言うと龍也はすぐに蓮華に向きなおった。


「お前がスクルータなら俺も今回は能力を使わないどいてやるよ」

「えー。いいですよー。どうせ負けたら能力使ってないのを言い訳するんでしょ。今から逃げ道なんて作んないでくださいよー」

「んなわけあるか!」

「ほんとにー?」

「本当だ!! もし負けても文句なんて言いやしねえよ!」

「みんな誰しも最初はそう言うよ」

「大丈夫だ。俺はただ対等な条件で勝負したいだけだ」

「それはあんただけでしょ」

「え?」


 蓮華は顔をにやつかせた。


「じゃあ、俺は能力使おうかな」

「なんでだよ! スクルータじゃねえのかよ!」

「スクルータですよ」


 蓮華はとぼけるように首をかしげた。


「どっちだよ!」

「スクルータですよ」

「本当か?」

「スクルータですよ」

「なら……いい、けど」

「スクルータですよ」

「うるせえ!!!」


 そんな話をしていると龍也がさっき声をかけた男が戻って来た。


「ボス。持ってきました」

「持ってきたか」


 そう言って龍也はそれを手に取った。


――金属バットを!


「やっぱこれが一番しっくりくるな」


 龍也は懐かしそうに血痕が付いていて少しへこんでいる金属バット見つめた。思い出に浸る時間が終わったのかそのバットを肩に担ぐ。


「じゃあ、仕切り直しといこうか」


 蓮華は思う。


 バットって……ヤクザっていうより不良だな。

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