龍也は決める
ヤクザ連合の蓋世組の組長である、鬼道龍也の部屋には龍也本人と先代組長のアネの二人が渋い顔をしてそこにいた。
そんな二人がいる微妙な雰囲気の部屋のドアノブにに三人の男たちがおそるおそる手をかける。その男たちは以前、獅子王島で蓮華に追い返された男たちだった。
「失礼します」
突っ込み氏がそう言った。
龍也はその声を聞いて返事をしようとしたが、
「お前なに言ってんだ? 失礼しますって、そんな分かりきってることを自分から公言する意味はないだろ」
と、三人のうちの一人が言った。
「わけ分かんなこといきなり言うな。普通に言うだろ」
あきれたように反論する。
この言葉に便乗する形でもう一人の男も言う。
「まったくお前はアホだなこいつの言う通り決まり文句なんだよ」
「そうそう」
「俺たちはボスからしたら『うんこ』なんだよ」
「うんこ?」
「だから俺たちはボスの前では自分を下に見せる努力をしなきゃいけないんだ。俺たちはボスから排出される『うんこ』にすぎねえんだよ」
「お前それ、ボスのこと尻だって言ってんじゃねーの? それはどうなの!? いいの!?」
突っ込み氏がツッコミを入れた。すると先ほどまで何も言わずに黙っていた男の口が開く。
「それはボスがケツだって言いてえのか!!」
「うるせえ! それはもう突っ込んだろ! アホ!!」
「お前がうるせえ」
「なんなんだお前!? いいツッコミだなおい!!」
突っ込み氏が息を切らしながらツッコミ続ける。何とか息を整え、もう一度意を決してドアを開けようとする。
「おい。そろそろ行くぞ」
そう言って突っ込み氏が二人のほうを振り向くと……
「と、言いたいところだが……お前らなにケンカしてんの!?」
取っ組み合っている二人がいた。
「よく考えたらこんな俺たちが『うんこ』なわけねえ。『うんこ』ってのは健康のためには大切だとか何とかテレビで言ってたぞ」
「いやいや、『うんこ』ってくさいし、茶色くてなんか気持ち悪いからお前にお似合いだろ。うんこうんこー」
「俺は『うんこ』なんかじゃねーし。俺が『うんこ』だったらお前なんか『鼻くそ』だ」
「俺が『鼻くそ』ならお前は『耳くそ』だバーカ」
「お前なんか『目くそ』だ。ボケ」
「『目くそ』だー? お前なんかなー、えっと……鼻くそ……は言ったよな。耳も目も言ったから。くそ、くそくそー? この『水虫』がー!!」
そんな小学生のようなやり取りをしている二人。さすがの突っ込み氏もアホらしいと思ったのか。
突っ込むのもめんどくせーな。
と、そう思ってしまった。だが同時にこんなことも思い始めた。
いや、でも俺の役割はツッコミ。明らかにおかしいことにはツッコミを入れるのがツッコミ役の道理。仕方ない、やるか。
「お前ら! んなガキみてーなことしてんじゃねーよ!」
「「おせーよ」」
とさっきまでケンカして二人が冷めた声でそう言った。
「いや、俺らいつまでこれやってればよかったのかわかんなかったろ」
「そうだぜ自分の役目を放棄すんなよな」
突っ込み氏はやれやれといった風に首を振っている二人にゆっくりと近づき二人の股間を握りしめた。その瞬間……
「「はう!」」
しばらく握り続け途端にパっと離すと突っ込み氏は二人を大きく見開いた目で見て静かに話す。
「うんこだろうが、耳くそだろうがよく知らねーが……少なくともそこはお前ら同じくらいきたねーよ」
「「ごめんなさい」」
「次にこんなめんどくせーことしたらな、一生ガキ作れねー体にしてやるよ」
二人は突っ込み氏の逆鱗に触れてしまったらしい。
「お前ら仲いいな」
三人が部屋の中に入ると龍也が早々にそう言ってきた。
「「「そうですか?」」」
三人が少し嫌そうな顔をして言ったが口がそろってしまっているので説得力がない。
「まあ、いい。今回お前ら三人を呼んだのは……ってなんとなく分かってるか」
「「「ええ。まあ」」」
「…………仲いいな」
「「「別に仲良くないですよ」」」
「……」
龍也が黙ると誰も何もしゃべらなくなった。それが少し続いて先ほどまで口を出さずに見守っていたアネが組んでいた腕を緩め三人に指さした。
「お前ら誰だっけ?」
「なんで忘れてんのー!?」
「ああ、そのツッコミ覚えてる。あれだバカ三人組だ」
「バカって俺らにもちゃんとした名前があるんですよアネさん」
「ごめん思い出せない」
アネがそう言うと突っ込み氏が答える。
「俺は大和です」
突っ込み氏に続きほかの二人も自己紹介をする。
「俺は大雅です。好きな食べ物はピザです」
「知らねーよ、お前の好きな食べ物なんて! てかなんでピザ!?」
「いや、昔ピザ屋で配達のバイトしてたから」
「マジでいらん情報だったよ! 聞いた俺がバカだった。ごめんね!」
「俺は大樹です。血液型はB型です」
「血液型いらないだろ! なんで言った!? まだ大雅に対抗心燃やしてんの!?」
「いや、ヤクザやってるし。大量出血とかしたとき必要だろ……血液型」
「地味にいらなくない情報だったよ!! ツッコんだ俺がバカみたいだからそう言うのやめろ!」
と、そんなやり取りを見てアネは大声をあげて笑っていた。だがそんな時龍也は……
そろそろ、本題に入りたいんだけどな……
◆
大和、大雅、大樹のバカ三人組から獅子王島での話を聞いてみたが、時間がかかった割はいい情報は手に入らなかった。
龍也は疲れたかのかため息をついてコーヒーを飲んだ。
「それで、どうするんだい?」
アネが龍也に問う。もちろん霧ヶ谷組をどうするかということだ。攻めるのか、それともまた何もせず見て見ぬふりをするのか。
「んー」
どこか上の空のようにも見えるがけっしてそんなことはない。こういう時の龍也はいろいろ考えているのだ。
「やるか」
「やる……とは? 悪いけどあたしはガードがかたい方だよ」
「いや、そっちのやるじゃなくて。霧ヶ谷組を攻めようかなって」
アネははっきり言って驚いている。龍也は常に冷静に先を読んでいる男だ。こういう無駄な戦いと言っても過言ではないものは避けると思っていた。
「らしくないね」
「そうですか?」
「ああ。いつものお前ならここは何もしていないはずだ」
「たしかにそうかもしれません。けど、個人的に興味が湧いてきたんです。霧ヶ谷組とはどういったやつらなのか。あとはアネさんが恐れた霧ヶ谷聡明とも戦ってみたい」
「孫の蓮華ってやつはいいのかい?」
「興味なくはないですけど、どうせ戦うなら強い方がいい。孫のほうは他の奴らに任せますよ」
そう言って龍也はペロっと舌で唇をなめた。
そんな龍也を見て、アネは一応警戒しておくように言う。
「はしゃぎすぎないようにね」
「もちろんめんどう事は避けたいんで島民には攻撃しませんよ」
やっぱり龍也もヤクザだということか。
アネは密かにそう思った。




