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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
夏休み 獅子王島編
34/45

メイドは悩む

 蓮華たちが獅子王島本島にで買い物を楽しんでいるとき、メイド服を着た六人の女性が霧ヶ谷組の屋敷にあるとある一室に集まっていた。


 彼女らの名は『霧ヶ谷メイド部隊』。二十代の日本人の女性たちで構成されていて料理、洗濯、掃除などメイドとしての基本的な仕事はもちろんだが同時に戦闘もこなす異質な部隊でである。


 そんな彼女たちがなぜ部屋を暗くして丸テーブルを囲んで集まっているのかと言うと、それは彼女たちの主たる者との間にできてしまった亀裂に関してである。


「それじゃあ、みんな。経過報告をお願い」


 最初に言葉を発したのはメイド部隊のリーダーで最年長の『桜』。


「そうね。まずは(かすみ)から時計回りにお願い」

「はい。では私から報告させていただきます」


 メガネをかけた真面目そうな雰囲気の『霞』。

 霞はコホンっと咳ばらいをして数秒の沈黙の後、彼女の口は開き始める。


「私は朝の洗濯物を抱えて廊下を歩いていた時のことです」


 ほかの六人は自分のことのようにしっかりと聞き入っている。


「前から蓮華様が歩いてきたんです。私は先日のこともあり少し怖かったのですがこのままではいけないと思い話しかけることにしたのです……」


 霞がそう言うと、


『おー』


 すごいというように五人がそんな声をあげた。





「蓮華様おはようございます。稽古が終わったのですか?」


 頭を下げながら霞はそう聞くと蓮華は静かで淡々とした口調で言った。


「ああ。だから近づかない方がいいよ」

「え?」

「まだシャワー浴びてないからすごく汗臭いから…………いやでしょ? ……汗臭いの」

「そんなことは……」


 霞は否定しようとしたが蓮華は最後まで聞かず避けるように廊下のはじを歩いて行った。





「うっ、うっ……私、その……がんば……たん、ですけど……だめ……でした」


 霞はメガネを取って涙をぬぐっている。桜はそんな霞のそばに寄り頭をなでている。


「がんばったわね」

「はい……」

「霞は涙もろいのにあなたなりによくやったと思うわ」


 メイド部隊はそれに同意のようで、うなずいていたり、霞に優しい言葉をかけたりしていた。霞はそんな彼女らに「ありがとう」と、のどから絞り出したような声で言った。


 なんとか霞が泣き止ませ桜は話を進めようとする。


「それじゃあ、次は(すみれ)。お願いできるかしら?」

「はい。あれは私が洗濯をしていた時でした」


 そう言って、話を切りだしたのは自分の腰のあたりにまである長い黒髪を携えている『菫』。ちなみに蓮華の好物であるぜんまいの煮物を作っているのは彼女である。


「洗濯物を外に乾かすため洗濯機からかごに取り分けているときに私はあることに気付きました……」





「あれ、蓮華様の服が一つもない」


 菫は一人そうつぶやいた。だが、久しぶりで出し忘れたのだろうと勝手に解釈した菫は特に気にすることもなく洗濯物をもって縁側を歩いていた。すると、


「よし。我ながらいい出来だ」


 誰かがそう言っているのが聞こえてくる。見てみると、そこには洗濯板を使って下着を洗っている蓮華がいた。


「蓮華様、何しているのですか。そういうのは私たちに任せてくださっていいんですよ」

「だって、俺の服洗いたくないんでしょ?」

「それは道着の話で……」

「パンツや靴下も同じようなもんだろ。ほっといてくれ。ていうか仕事しろ」





「それから蓮華様が下着を洗い終えるまで洗濯物を干しながら見ていたのですが、それ以降蓮華様は口を開きませんでした」


 菫は小さくため息をついた。霞のように目に見えるほどではないがかなり堪えているようでさっきからずっと床とにらめっこしている。


「そう、菫でもダメだったのね。あなたは蓮華様とよく話している印象があったのだけど」

「すみません」

「そんなに気にしなくてもいいわ。責任は私も含めてここにいるみんなにあるわ」


 桜のそんな言葉にここにいるほとんどの者がより一層罪悪感にさいなまれた。


「まあ、みんな。あまり気負いしないで大丈夫よ。そのために今、みんなで情報を共有しているんだから」


 桜がリーダーらしくみんなを励ます。桜のそんな言葉に何とか作り笑いを浮かべながら「そうですね」と相槌を売ったりや無言でうなづいたりしていた。


「気を取り直して次は(あおい)ね」

「はい! と、元気よく返事はしましたが、私も二人と似たようなものですけど……」

「大丈夫よ。みんなの話を聞いてどうするかを考えるために集まっているのだから」


 桜のそんな言葉に少し不安そうに立ち上がった『葵』。登山やサイクリングといったアウトドアな趣味を持っているせいかほどよく筋肉がついていてボーイッシュな女性だ。


「朝稽古を終えた感じの蓮華様が朝食前に出かける様子だったので、私はどこに行くのか聞いてみることにしたんです」





「蓮華様、どこに行くんですか?」

「釣り」


 よっぽど怒っているのか蓮華は即答した。


「もうすぐ朝食ができますけど」

「今は魚が食いたい気分なんだ」

「そう言ってくだされば今日の昼食は魚にしますよ」


 蓮華はため息をつき頭を掻きながら不機嫌そうに見られた葵はいやな予感がした。


「どうせサバ缶とかだろ。わかってんだよ」





「葵も頑張ったわね。言葉よりも蓮華様の目が怖かったでしょうに」

「はい。ですがそれでも私はめげずに話しかけたんです」





「蓮華様、待ってください。実は今度、メイド部隊でスキーに行こうと計画しているんです。よかったら一緒にどうですか?」


 ストレスを解消するには運動が一番。それと同時にメイド部隊が蓮華様と会話できるチャンスが増える。まさに一石二鳥……と葵は思っていたのだが。


 自信満々な葵をにらみながら蓮華はまたため息をついた。


「はあ? この時期にスキー? 北海道でもやってないぞ。おまえバカだろ」


 葵は少しおつむが弱かった。





「がんばったわね?」

「なんで疑問形? 私は一生懸命がんばりましたよ」


 葵はジェスチャーで自分のがんばりアピールするが傍から見るとただ腕を振っているようにしか見えない。


 最終的に葵は頬を膨らまして拗ねていた。そんな彼女を放っておき桜は話を進めた。


「次は(かえで)ね。あなたも同じようなものだと思うけど一応お願い」

「はーい。わかりました」


 いつもおっとりとしていて、どこか抜けている『楓』。蓮華が言うには自称姉の静香よりもお姉さんらしいようだ。


「私は蓮華様が最近アクセプションの開発に手間取っているという情報を耳にしたのでそこに目をつけたのです」

「なるほど。たしか、楓は大学でウィース工学を学んでいたわね」

「はい。ですから何か手伝えることがあるかもしれないと思ったのですが……」





 蓮華が工房で四苦八苦している中、楓はいつものように優し気な顔を浮かべて入って行った。


「蓮華様。なにをしているんですか?」

「見りゃあわかんだろ」


 蓮華のその言葉には明らかにとげがあった。だがそれでも楓はあきらめない。というか、最近避けられていること自体あまり理解していないのかもしれない。


「私実は、アクセプションについてはけっこう詳しいんですよ。何かお手伝いでき……」

「別にいらない」

「あ……えっと……」

「集中できないから出て行ってくれないか」


 そう言われながらも楓は何とか笑顔を保ちながら言った。


「そうですか。では何かありましたらいつでも頼ってくださいね」


 そう言い残し楓は工房から出てうずくまった。


 あれ、私……嫌われてる。


 楓はやっと気づいた。





「え? あなた気づいてなかったの?」

「はい。みんながなんで元気がないのかわかりませんでした」


 全員が沈黙した。


「えっと。気を取り直して(なずな)ちゃんお願いできる?」

「ついに私の番ですね」


 メイド部隊の中で一番年下の『薺』。待ってましたと言わんばかりににやついている。


「なんだかいいことがあったみたいね。これは期待していいということかしら?」

「はい。任せてください」





 蓮華が何やら大きな袋を持って玄関で靴を履いているのが薺の視界に入った。


「蓮華様。どこに行かれるのですか?」

「どこでもいいだろ」

「その袋は何ですか?」

「何でもいいだろ」

「えー。気になりますよ」


 蓮華は薺に背を向けたまま舌打ちをして不機嫌そうな態度を取った。


「道着だよ」

「どうしてですか?」

「決まってんだろ。クリーニング屋のおばちゃんは汗くさかろうが何しようが嫌な顔一つせずに洗ってくれるからな」


 薺は強力な一撃を食らったかの如く体が揺れた。そのまま、薺は息が切れたかのように洗い呼吸になりながら言った。


「ですが、私だって嫌な顔なんて……」

「だまれよ」

「はうっ!」


 またさっきと同じような行動をとる薺。蓮華は靴の紐を結び終わり薺のほうを見た。


「蓮華様もう一度……」

「は?」

「もう一度……私を罵倒してください」

「…………キモいぞ……お前」


 そう言って蓮華はその場を逃げるように去って行った。





「さすが蓮華様です。私、霧ヶ谷組のメイド部隊に入れて本当によかったと思っています」


 話していて思い出したのか薺は胸を押さえつけながらそんなことを言っていた。

 だがそんな、薺にほかの五人は……


『気持ち悪い』


 とオブラートに包むことなく思ったことを言った。


「そんなことないですよ。普通ですよ。普通」

「いや普通じゃないから」

「桜さんもいずれわかりますよ」

「いいわよ。わかりたくないから。ていうかそろそろ呼吸整えて」


 桜にそう言われ薺は大きく深呼吸した。


 薺の息切れが治まったところで霞が話を戻そうとした。


「最後は桜さんですよね」

「え? 私?」


 なぜかたじろいでいる桜。そんな彼女の姿を不信に思いながらも、もう薺の話に戻りたくないので霞は進める。


「あと、話してないのは桜さんですよ」

「そ……そうね」





「やっぱり広いなー。少しは覚えたと思ったけど全然だったなあ」


 そんな声が桜に聞こえてきた。話に聞いていたエリカ・リートリーである。彼女とすれ違う直前、桜は話しかけられた。


「あのー……」


 エリカに話しかけられ桜はニコッと笑った。


「はい、何でしょうか? エリカ様」

「え? えっと、名前……」

「ああ……聡明様から話は聞いていますので。それより、どうかなさいましたか?」

「あ、あの……顔を顔を洗いたいんですが……」

「そうでしたか。案内しますね」


 そう言ってその桜はエリカを背に歩き始めた。歩きながら桜ははエリカにこんなことを聞いてみた。


「昨日の蓮華様はどうでしたか?」

「え?」


 エリカは質問の意味が分からず首をかしげた。


「その、元気でしたか?」

「えっと、元気だったと思いますけど。昨日は楽しそうに騒いでましたし」

「そうですか……その、蓮華様と仲良くしてあげてくださいね」

「えーと、はい」


 よかった。





『よくないでしょ』


 回想が終わった途端に桜は全員に細目で見られた。


「えっと……」

「桜さん何もしてないのに私が普通じゃないとか言ったんですか? 罪悪感とかないんですか?」


 薺がそう言うとほかの五人も同意のようにうなづき合っている。


「……ごめんなさい」

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