蓮華の故郷
夏らしい熱い太陽の下、学園島の港に船が一隻、停泊している。行き先は日本の首都、東京。中に乗っているのは夏休みに実家に顔を出そうという生徒たちが大半だ。そんな今にも出港しそうな船の中から蓮華の顔がひょこっと現れると見送りに来ていたフィルミネスたちは手を振った。
蓮華はあくびをして少しめんどうくさそうに軽く右手を挙げた。お互いが豆粒のように小さくなると蓮華は船内に戻り自室で眠る。明日の朝には東京に着く。蓮華はまたそこから別の船に乗り換えて自分の故郷に向かう予定だ。
『あと一時間ほどでご到着します。もうしばらくお待ちください』
そんなアナウンスで蓮華は目を覚ました。時刻は午前九時を過ぎたところ。とりあえず蓮華はベッドから離れて顔を洗う。
「ヤバい。寝すぎたなー。いくら何でも昨日の昼からずっと寝てたのはダメだろ。夏休みは生活習慣が乱れるって本当のことだったんだな」
まだ夏休み初日の学生が言うことではない。
「ていうか、うきうきして昨日……じゃなくて一昨日遅くまでゲームしてたからだ。気をつけよ。朝の鍛錬ができなくなる」
そうは言っても鏡には自分のだらしない顔が映るものだから不安になってくる。髪もぼさぼさだ。よく考えてみると昨日は風呂に入っていない。ということで軽くシャワーを浴びることにした蓮華。
浴び終えるとちょどいい時間になり、蓮華は身支度を済ませて船を降りた。
そして東京民ではないものが東京に来た時に真っ先に考えることそれは――
「なんて言うか……やっぱ都会だなここは……」
みんな思うよね。
「まあ、そんなことはどうでもいいや。とりあえずどっかにお土産売ってるとこねーかなー」
その後何とかお土産を手に入れた蓮華。しかし、思っていたよりも時間がかかってしまい、時間ギリギリで船に乗ることになってしまった。
◆
しばらくすると、高層ビルが立ち並ぶ島が見えてくる。獅子王島。ここ最近日本の都市の中で最も技術発展が著しい島だ。今もなおその発展はめまぐるしい。
だが蓮華の乗っている船はそんな都会じみた島など止まる気配もなく素通りしていく。そして獅子王島が見てから約二十分、さっきとは打って変わったザ・田舎というような島が見えてきた。
そう。蓮華の故郷はここ、獅子王島本島から少し離れた離島だ。第二獅子王島、なんて呼ばれているが目に見える通りその温度差は激しい。
「おお、もうすぐで着くな」
そう言って蓮華はヘッドフォンを外し首にかけ、荷物をまとめて船を降りる準備を整えた。
到着し蓮華を含めて船から数人が降りてくる。中には、獅子王島本島に行く船と間違ったのか戸惑っている者もいる。
その中でもかなり異質な三人の男性。三人とも腕に同じ入れ墨をしていて、彼らが持っている物は一枚の手紙。
「ここかやつらの本拠地がある島は」
「ああ、間違いない」
「あとは俺たちがやつらにこの手紙を届けるだけだ」
そんなことを話している三人に蓮華が声をかけた。
「なあ、おっさんたち。悪いけど邪魔だからどいてくんない」
それを聞き三人のうちの一人が蓮華を思い切りにらんだ。あごを突き出して蓮華に威嚇する。
「今なんつったクソガキ」
「道をふさいでるからどいてくれないかって言ったんですけどクソガキ」
「なんで俺たちがてめぇの言うことを聞かなくちゃならねえんだクソガキ」
「じゃあ、どかなくていいから前に進んでくださいクソガキ」
「なんだとクソガキ。もう一回言うぞクソガキ。俺はてめぇの指図はうけねえクソガキ」
「それくらいできますよねクソガキ。そうしなきゃあんたらも船から降りられませんよクソガキ」
「なんで二人とも語尾『クソガキ』になってんの! なに!? 流行ってんのそれ!?」
そんな突っ込みを残りの二人のうちの一人がいれた。
「俺はもう我慢ならねぇぜクソガキ。おいこいつやっていいかクソガキ」
「なにそれ!? まだその語尾続いてんの!! なんかこっちもイラついてくるからやめない!?」
もう一人も早まった行動を止めに入る。
「そうだぜ。いったん落ち着け。ここで油売ってる場合じゃねえ……クソガキ」
「お前もかよ! ていうか慣れてないんならやめろよ!!」
そんな彼らのやり取りを見て毒気が抜かれたのか蓮華がため息をついて腰に手を置いた。
「なあ、早くどいてくんない?」
「お前がやめるんかい!! お前は最後まで貫けよ! お前から始めたんだろうが!」
「おっさんなかなかの突っ込み氏だね」
「なに突っ込み氏って? バカにしてんの?」
「うおおおおおおおお! ……クソガキいいいいいい!」
そう叫んで一人が目の色を変えて蓮華に殴りかかる。
「急にどうした!? じゃなくてだから慣れてないんだったらやめろってええええ!」
突っ込み氏も叫びながら腕を抑えて何とか止める。しかし、殴りかかられたことで蓮華は思わず拳を出してしまった。その拳は殴りかかって来た男の顔面に当たった。
蓮華は引きつった笑みを浮かべた。
「……あ、えっと。ごめんなさいクソガキ」
そう言って蓮華は自分の頭をコツンと拳をぶつけて下を出してかわい子ぶる。
「クソガキクソガキいいいいいい!!」
「……切れてるのに何でそこはクソガキを連呼する高等技術使ってんの! 一瞬なに言ってんのかわかんなかったよ!」
我慢の限界がとうとう来たのか蓮華と言い合っていた男も蓮華に殴りかかる。蓮華はそれを難なくかわし男の二撃目の拳を左手でつかみ半身になる。そして両足を踏ん張り、右手にウィースを軽く集中する。
「おいクソガキクソガキ。なかなかやるじゃねーかクソガっ!」
言い終わる前に蓮華は男の胸に右手で一発叩き込む。男は蓮華の一撃で大きく吹っ飛びそのまま海に落ちた。
「くそ! なんだこのガキ?」
「お、おっさんまだ意識あったんだ? まあおっさんたちジェンティーレみたいだし、俺も手加減したし当たり前か」
蓮華はそう言いながら男が吹っ飛んだ時ポケットから落ちた手紙を拾い上げた。
そこには『ヤクザ連合会議のお知らせ』と書かれていた。あて先は『霧ヶ谷組当主 霧ヶ谷聡明』。蓮華の実の祖父に当たる人である。
「ああ、またこれか。毎回毎回、学習しないねー」
そう言って蓮華はその手紙を破り捨てた。
「おいお前何してんだ!」
突っ込み氏もさすがに怒ったのか、二人して蓮華を凝視する。だがおじけづいたのは彼らのほうだった。年下の子供の眼光に一歩も動けない。
「おい、お前らの上司に伝えろ。勝手に俺たちをてめえらのようなちんけな組織に入れてんじゃねー。そして、もしこの島に手を出したらただじゃ置かないってな」
「誰がお前の言うことなんか伝えるか!」
「霧ヶ谷組次期当主、霧ヶ谷蓮華がそう言っていたってな」
蓮華その場を立ち去る。彼らに背中を向けたまま軽く右手を振った。
一応じいちゃんに伝えとくか。
「確かにあのガキ、強かったけど。マジかよ……クソガキ」
「……お前もうそれやめろ」
と、蓮華の頭の中ではこのまま終わる予定だったのだがそううまくはいかない。
「お客さーん。荷物、全部忘れてるよ!」
蓮華は顔を恥ずかしそうに船に引き返してきた……




