殺し合い
蓮華が港の倉庫に到着する十分ほど前の生徒会室。マリと巴はへやの中を右往左往していた。
「霧ヶ谷くんは何をしているんだ!」
「まったくだ。やつは結局、怠惰なくそ野郎だったということか!」
怒りをあらわにしている二人を見て、アンナはあきれ果てている。
「あのー。マリも先生も少し落ち着いたらどうですか? 霧ヶ谷くんをここに呼び出す放送はさっきしましたからとりあえず座りましょうよ。そんなに怒ってたら霧ヶ谷くんだって入りたくても入れませんよ」
そう言ってなだめるが放送したのはついさっきだ。すぐには来ないとは思っているアンナだがそんな言葉しか思いつかなかった。
そうこうしていると、生徒会室のドアが無造作に開け放たれた。
「先生!!」
息を切らしている秋久と凛とカルミラの三人が入ってくる。秋久の声を聞き巴が彼らのほうををにらみつけたがそこに蓮華の姿はない。
「佐久間、霧ヶ谷はどうした? 一緒じゃないのか?」
何とか怒りを抑えながら巴は質問する。
「蓮華とフィールが大変なんです」
それを聞いた巴たちは驚愕の表情を浮かべ、同じことを考える。
「「「え!?」」」
二人が大変? ってことはまさか!
「あらあら」
なんといって言いかわからず微妙な顔をするアンナ。
「少し早すぎるんじゃないのか。二年付き合っているが私だってまだだぞ……」
少しうらやましそうに頬を染めながら目が泳ぐマリ。
「まあ……その……なんだ。節度は守るように……と、伝えろ」
目をつぶり咳払いで恥ずかしさをごまかす巴。
三人の勘違いを解きつつ秋久たちは自分たちの知っていることをすべて話した。巴たちは三人そろって両手で顔を隠している。
凛はその姿にあきれたような視線を向けた。
「それで、先生。助けてほしいんですけど」
「わかった。助ければいんだろ! やってやるよ!」
「いやなんですか?」
「そんなことはない」
軽く深呼吸をして巴は落ち着きを取り戻す。そして、さっきととは全然違う目つきをしていた。
「騒ぎにはしたくないから内密に事を進めよう」
「私たちも手伝います」
マリのその言葉に巴が反応して見てみると、マリとアンナがうなづいてくれた。それを確認してから巴はこの場にいる者に向けて言う。
「では、これから二人の救出に向かう」
『はい!!』
◆
「誰だお前?」
「わかりませんか? 私はあなたのことを知っていますよ」
声音から男だということはわかるが蓮華にはどうもこの声に聞き覚えはない。だが、剣を突き立てられていることから味方ではないことは承知している。
「悪い。全然思い出せない」
「そうですか。残念です」
そう言って、男は犬のようにしゅんとする。フィールは何が何だかわからない。それを見て、蓮華はフィルミネスの知り合いかもしれないという可能性は捨てた。そしてポケットに手を入れ携帯を操作した。
「まあ、私が一方的に知っているだけなんですけどね!」
言い終える前に男は剣を振り上げた。
「フィール!」
そう叫んで、蓮華はフィルミネスを突き飛ばした。それと同時に蓮華は水平に移動する男の剣を身を引いて回避した……はずだった。
「なっ!?」
蓮華の鎖骨のあたりから血が垂れてきている。
「おや、かわされてしまいましたか」
落ち着いた口調でそう言う男に蓮華は正直な感想を抱いた――こいつはヤバい、と。
男は辺りを見渡して蓮華の刀を拾い上げる。そして、それを蓮華に投げて渡す。
「得物くらい渡しますよ」
「気前がいいんだな」
「ええ。私はけっこう優しいんです」
蓮華とは対照的な真っ白な髪の毛。男が自称しているように温和そうな顔をしているが、明らかに化けの皮がべっとり張り付いているのがわかるくらい不気味な雰囲気を漂わせている。
間違いない。こいつの狙いはフィールじゃない――俺だ。
「さあ、殺し合いましょうか」
さも当たり前のようにそう言ってのける男に、フィルミネスは嫌な気分になる。恐怖じゃないと言えばうそになるがそれだけではない。得体の知れない気持ち悪さのようなものを感じた。
互角の攻防が繰り広げられ、蓮華は左手が使えないながらもなんとかしのぐ。だが、今の蓮華にとってこれが限界だろう。
「やりますね。では、少し早くしますよ」
まじで?
そう言って男は蓮華との間合いを一気につめる。そしてとうとう蓮華は追い付けなくなった。一太刀、また一太刀と傷を負っていく。それを見た男は途端に攻撃をやめた。
「拍子抜けですね。本気でやってくれてますか?」
「ああ。やってるよ」
「本当ですか?」
「そう言ってんだろ」
「学内トーナメントでのあなたのほうが今のあなたより強いと感じるのは私の勘違いですか?」
今にも閉じてしまいそうな目を何とか開けて蓮華は男を見つめる。満身創痍とはこういうことを言うのだろう。そんな蓮華を男は疑い深く観察すると、「あ!」という声をあげてにこっと笑った。
「肩にぺルデレ鉱石が入ってるんですね。どうりで弱すぎると思った。それじゃあ、取ってあげますね」
そう言って男は一瞬で蓮華の目の前に移動し、剣で蓮華の肩を一突き。
「っ!」
蓮華の膝が地面につき、刀を手放して肩を抑える。
「蓮華!」
フィルミネスが叫んだ。だが叫んだところで何もできない。どんなに声を荒げても男はこっちを見ようともしない。彼にとってはフィルミネスという少女はただの背景でしかないのだ。
そのことをなんとなく理解しているフィルミネスはくやしそうに唇を噛み、手錠をガチャガチャ鳴らす。
「さて、これで本気で戦えますね」
「本気って言っても、まだ俺は怪我してるんですけど」
「そうですね。でも……さっきよりは楽しませてくれることを期待しますよ」
蓮華は大きく息を吐き落としてしまった刀を拾い上げる。その行動を見て男はまた目を大きく開き今度は歯を出して笑った。そして蓮華に向かっていく。
男は蓮華の肩を貫いた時と同じように剣を突いてくる。蓮華はそれを体を右に向けながら、左側にかわす。すると、ちょうど蓮華の両目と平行に男の剣が振られた。
「同じ手は食わない」
そう言うと、蓮華は右手に持っている刀を逆手に持ち替えて男の右太ももに刺した。すると男は剣を蓮華のほう、つまりに右に水平斬りをするが蓮華は読んでいたように刀を屈んでかわした。かわすと同時に蓮華は刀から手を放し、最初から持っていたアクセプションにウィースをこめた。そして……
「お返しだ!」
蓮華は男の左肩に剣を突いた。だが実は蓮華は心臓を狙っていたのだが、男は何とか回避したらしい。蓮華は心の中で舌打ちをした。
「やっぱり強いですね。少し油断しました」
「油断してたのにさっきのよくかわせたな。殺すつもりだったんだけど」
皮肉まじりに言う蓮華を男はじっと見つめる。
「な……なんだよ」
「いえ、なんでもありません」
「なんだてっきりホモとかかと思った」
そんなくだらない冗談を聞いた男は少しだけニコッとする。
「あなたはおもしろい人ですね。気に入りました」
「はあ……。そいつはどうも」
「今日はこれで帰らせていただきます。今回は勝ちを譲りますが、次は必ずあなたを殺して見せます」
「やってみ?」
息を切らしながらも挑発する蓮華。全然動じていない。男が帰ろうとする。蓮華はそれをただ見つめている。だが男が急に振り返ってきて、
「言い忘れてました。私はホーンデッド・ベラドンナと言います。どうぞお見知りおきを」
そう言い残し男は帰って行った。ホーンデッドの名前を聞いて蓮華は追いかければよかったと後悔した。
「ベラドンナ……か」
事が片付き蓮華はフィルミネスの手錠を解いてやる。フィルミネスは自由になった手首をさする。少しだけ赤くはれていた。だがフィルミネスは蓮華の心配をする。
「蓮華、大丈夫?」
「ああ、だいじょうぶだいじょ……ぶ」
蓮華はその場に倒れこんだ。蓮華の名を呼びフィルミネスが駆け寄った。
「やべー。血……流しすぎた」
「えっと、とりあえず止血しなきゃ」
そう言ってフィルミネスは蓮華を仰向けに寝かせて辺りを見回すが、包帯はもちろん手ごろな布などが見つからない。仕方なくフィルミネスは自分の制服のスカートを手で無造作に破り、傷口に押し付ける。しかし流れる血の勢いは止まらない。
「ははは……立場が逆転したな……」
「笑い事じゃない! 死んじゃうかもしれないんだよ!」
「だいじょうぶ……救援は呼んだ」
蓮華がそう言うと、外で何台かの車が止まった音がした。ドアを開け閉めする音が複数聞こえるとフィルミネスの知らない女性が倉庫の中に勢いよく入ってくる。
「レンくん!?」
長い黒髪をポニーテールの形で結び、美人の代名詞と言っても過言ではないくらい目鼻立ちが整っている。容姿だけなら巴と並ぶ大和撫子だ。




