フィールの行方
荷物運びという仕事から解放され、蓮華は無事自分の部屋に到着した。
翌日は学内トーナメントの試合がある。巴によるとおそらく最後の試合になるらしい。だからなるべく早く寝たいのだがその前に蓮華は携帯を探す。
「あれ? おかしいなー。俺がもとから持ってるのはあるけど学校から支給された方の携帯がない。これじゃ明日の試合時間わかんねーぞ」
机の引き出しからトイレの中まで部屋中を探し回った。しかし、蓮華の携帯は戻ってきてはくれない。
「……寝よ」
蓮華はベッドに飛び乗った。数分後には気持ちよさそうに寝息を立てていた。
◆
「調子はどうだ?」
朝の職員室で巴の試合がある日のいつもの一言が今日も蓮華に投げかけられる。
「まあ、ぼちぼちです」
「なんだそのあいまいな返しは」
「いや……これに勝っても終わりじゃないんだなって」
「なんだ、そんなことか。大丈夫だ。試合になればどうせ君は楽しそうに戦うんだから」
先ほどまで笑っていた巴の顔が一瞬で変わる。そして、冷たい声でこう言い放った。
「必ず勝て」
蓮華は恐怖で固まった。
こえ―よこの人。
「ひゃい」
◆
食堂で蓮華たちはいつも通り昼食をとる。これから試合のある蓮華が結構な量を食べているのでフィルミネスが心配そうにしている。
「ねえ、蓮華。私とカルは午前中に試合が終わったからいいけどあんたはこれからなのよ。そんなに食べちゃって吐いたりしない?」
「今日の朝、食ってなくてな。腹減ってんだ」
「いやそうじゃなくて」
かみ合っていない。蓮華は食べることに夢中だ。よっぽどお腹が空いていたのだろう。
「そんなにガツガツ食べてもどうせ霧ヶ谷は勝てないわよ」
蓮華の心配などまったくしていない凛がそんなことを言う。
「俺を心配してくれてるのか? 珍しいなー」
「はあ? 今の言葉のどこにその要素があったの!? 言ってみなさいよ!」
「ふー、くったくった。ごちそうさまでした」
「無視するなぁー!」
満腹になって両手を合わせている蓮華に凛の怒声が響いた。そんな凛を蓮華はにらみつけた。
「食事中くらいそのうるせぇ口閉じれねーのか? アホ。周りの人に迷惑だろ。アホ」
「二回も言わなくてもいいでしょ!」
「だから叫ぶな。アホ」
蓮華の放った三回目の『アホ』で凛は完全に頭にきた。凛は急に立ち上がりその反動でイスが倒れる。そのまま右手を振り上げてテーブルを思い切り叩いた。
「ちょっと表出なさいよー!! リベンジマッチだぁぁぁぁぁ!」
しかし蓮華は人差し指を耳の中に入れていて、その状態のままで凛のことを目を細めて凝視していた。
「……え? なんか言った?」
にらみ合う二人だが浮かべる表情は全然違っている。今すぐにでもとびかかりそうなくらいの怒りをあらわにしている凛と余裕そうにへらへらしている蓮華。そんな二人に秋久が仲介に入る。
「まあまあ落ち着いて二人とも。今はフィールとカルが勝ったからおめでたい雰囲気のはずでしょ。喧嘩しない」
「……アキくんがそう言うなら」
「そうだぜ。落ち着けよ月島」
「アキくんはあんたにも言ってんのよ」
凛がまた前のめりになる。それを秋久が目で止める。
「凛?」
そのように名前を読んだだけで凛の動きは止まった。秋久の顔は終始にこにこしていた。
アキって意外とこわいよな。
秋久たちは暇になったので闘技場で試合を見ていることにした。もう人数が少ないので全学年が同じ闘技場で試合をしているので、今も完成は響いている。
「蓮華の番来ないわね」
フィルミネスがそう言うと秋久も同意するようにうなずいた。
「そうだね。たぶん今ここにいる人のほとんどがそう思ってるよ。会長や篠原先輩の試合も終わったし、みんな蓮華目当てって感じだ」
それを聞いて周りを見て凛は少しだけむすっとした。
カルミラは何も言わないが納得するように目をつぶってうなづ……いて? 寝ていた……
そして今やっていた試合に決着はついていないがフィルミネスは静かに立ち上がった。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
「うん」
「行ってらっしゃい」
フィルミネスの発言に秋久と凛が答え、カルが軽く手を挙げた。
蓮華は携帯をなくしたおかげでいつ自分の番が来てもいいように用意されてる控室にスタンバイしていることを余儀なくされていた。
「めんどくさいから早く始まってくんないかな」
そう思っていると、控室のドアが叩かれ蓮華の名前を呼ぶ声が複数した。蓮華がドアを開けると秋久たちが汗をかきながら立っていた。
「蓮華? よかった、無事だったんだね。ってそうじゃくて、大変なんだ! えっと、つまりフィールが大変なんだ」
「はあ?」
焦っている。何かあったのは明白だがよくわかない。蓮華はカルミラに説明を頼んだ。
「カル」
「うん。フィールがトイレからなかなか戻ってこなくて見に行ったらトイレの前にこれが落ちてた」
そう言ってカルは携帯を一つ渡した。
「これ、フィールのだよな? 画面が割れてる」
「うん。メール見て」
――霧ヶ谷蓮華はあずかった。助けてほしかったら、昨日この男とアイスクリームを食べた公園にこい。おかしな動きをしたらこの男を殺す。
なんだこれ? 俺を利用してフィールを狙った。でもこのメールは俺から届いてるってことは俺の携帯をこいつら盗ったのか? でもなんで公園なんだ。あの公園は人がたくさんいるし誘拐には向かないからフィールのファンの行き過ぎた行動か? あいつ顔はいいし。強いし。人気ありそうだし……
蓮華は思考を巡らせる。
でもそのために俺の携帯をわざわざ盗ったりするか? たぶん俺が落としたのを偶然拾って……いや待て。問題はそこじゃない。なんらかの方法で俺の携帯を手に入れることがことができた時点でそんなことはどうでもいい。
おそらくだが今日は学内トーナメントの最終日。いつもより人がかなり多い。外には昨日のアイスクリーム屋までいる。しかも平日。だから公園に人は――いないんじゃないのか?
そこまでの確信がついたところで気が付いたら蓮華は控室を飛び出していた。
「霧ヶ谷!?」
「凛! 驚いてないで行くよ」
「え? うん」
三人も蓮華に続いて走った。もう誰も試合のことなど頭に入っておらず、闘技場を後にした。
公園にたどり着いた蓮華は乱れた呼吸を落ち着かせるながら辺りを捜索する。探しているのはフィルミネスではなく、なんらかの手がかり。
「くそっ! 特に何も考えずに焦って来てはみたもののどこにも痕跡の一つも見当たらないか」
少し遅れて秋久たちがやって来た。秋久と凛はかなり息を切らしているがカルミラは二人ほどではないようだ。
「レン、どんな感じ?」
「いや、無駄足だな。もうどっか行った」
それを聞いた凛が一度唾を飲んでから言った。
「じゃあ、どうすんのよ! フィーちゃんはどうなっちゃうの!?」
「知らねーよ! 誘拐したやつに聞け!」
「そんな他人事みたいに言わないでよ! とにかくいそうな場所を探せばいいじゃない! 何もしないよりはマシよ」
「わかってる! けどやみくもに探したって時間と労力がかかるだけだ」
「そんなこと言ってたらいつまでたっても何もできないじゃない」
反論している凛をよそに蓮華はカルミラに視線を移した。カルミラの表情はいつも通りだがスカートのすそを握っている。彼女も心配しているのだろう。
「カル。バイクと剣を作れ。剣はアクセプションじゃないやつ。できれば刀がいい」
カルミラは真剣な目を蓮華に向け強くうなずいた。
蓮華の発言に疑問を持ったらしい秋久が蓮華に聞いてくる。
「なんでアクセプションじゃないの?」
「悪いアキ。後にしてくれるか」
そう言って蓮華はポケットから盗られていない方の携帯を取り出した。そして、どこかに電話をかけた。先ほどから凛は蓮華のやることに納得がいかず、蓮華をにらんでいる。
『もしもし、レンくん?』
「うん。俺だよ」
『俺? ってもしかして詐欺師の方ですか?』
「ごめんしず姉。今そんなのにかまってる暇ない」
蓮華がそう言うと電話の向こうの女性の声音は空気を変えた。
『何かあったの?』
「ああ。友達が誘拐された。それで、どうもそいつら俺の携帯を持ってるみたいだからそれの位置情報を調べてくれ」
『私に神楽坂のコンピューターにハッキングしろってこと?』
「しず姉たちならできるでしょ」
『できるけど……』
「責任は俺がとる」
蓮華のそんな力強い言葉に女性は小さくため息をついた。こういう時の蓮華はいつも真剣だということを彼女はよく知っている。
『……わかった。少し待ってて』
その言葉で電話は切られた。後は結果を待つばかり。というときにカルミラもちょうど作り終えたようだ。
「ごめん。遅れた。できるだけ速いバイクにしようと思って」
「サンキュー」
「いいバイクだ」
蓮華はバイクの次に刀にも目をやった。
これは……斬雨? 妖刀か……
それを見ていた秋久が蓮華に質問する。
「さっきは何してたの?」
「知り合いに助けを求めた。その人に関してはあんまり詳しくは話せない」
「じゃあ、なんでアクセプションじゃないの?」
「それは念のためだ」
「念のため?」
秋久は首をかしげた。蓮華は秋久のその姿を確認してから説明を続けた。
「闘技場はもちろんここには一切の痕跡がない。何の抵抗もできずに捕まったのか? あいつが? ありえないだろ」
「……確かに」
「後ろからぶっ刺されたにしても血は出るし、あいつなら火出してなんとかしようとすんだろ。でも血も焦げ跡もない」
そこまで説明するとさっきまで黙っていた凛が口を開いた。
「じゃあどうしたっていうの? 気絶させたとか」
「それもある」
なんだかはっきりとしない蓮華の物言いに凛がしびれを切らしそうになったところでカルミラがつぶやいた。
「ぺルデレ鉱石」
蓮華は口元をつり上げた。だが秋久と凛はなんのことだかさっぱりと言う感じだ。
「正解」
「レン。そのぺルデレ鉱石ってなに?」
「ジェンティーレの弱点だよ。これに触れるとジェンティーレはウィースを使えなくなる」
「ってことは」
「今のあいつは少し強気なただの女の子だ」
今まで知らなかったものの存在を明かされ驚きを隠せない凛は少しだけ震えてような声でまた意見を口にした。
「でも眠らせれただけかも」
「ああ、そうだな。だから念のためって言ったんだ」
全員が黙りこくった。もし蓮華の話が本当なら、フィルミネスは今、どういう状況何だろうかと心配になってくる。なぜなら、誘拐された少女のその後はなんとなく決まっているのだから。そして、全員がこう思った。
――エッチなことをされるのか!
そこで、蓮華の携帯が鳴った。
『もしもしレンくん? わかったわよ。東区の港の第四倉庫』
「どっかで俺の携帯を捨てたかと思ってたけどよかった」
『囮の心配もないわね。今その位置を飛行型のドローンで見てみたけど熱源反応がある。一人しかいないからたぶんその子は今運んでいる途中ね。まだ間に合うわよ』
「ああ。ありがとうしず姉」
『私が今、仕事で神楽坂にいてよかったわね。今度、ご飯でも食べに行こうね』
「うん」




